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「ビーセル」
「…はい」

ミザリエラは魔法師団長の子息を自分の馬車に呼んだ。
侍女も護衛も外にやり、二人きりになる。

馬車内は防音は勿論、攻撃行為は遮断される。
密談をするには国内で安心できる唯一の空間だ。

「王太子殿下の魅了魔法に関する事については口に出来ぬように制約されているのよね?」

ミザリエラの問いに、魔法師団長の子息ビーセルは口を開いて閉じた。
口に出来ない、と言う意思表示だ。

「魅了はもちろん、洗脳や精神魔法に関しては、国ごとに独自の発展をさせている場合が多いから、そういった秘術、禁術を所持しているなら提示せよと契約前に通達していたはず。
帝国の軍人を預けるのだから、精神魔法で優秀な人材を取り上げられるのを危惧しての事だけれど…。
今回『魅了』魔法の存在をこの国の聖女様が示してくださったから、こちらとしては契約破棄の理由は問題ないなさそうね。…まぁ貴方に言った所でどうなることもないけれど」

ミザリエラは正面に座るビーセルの隣に移動した。
腿に手を置かれ、ビーセルは別の意味でドキリとする。

「王太子の魅了については口に出来ないだろうけれど、…にかけた魅了については、説明できるのではないの…?」

ミザリエラはぐっとビーセルに顔寄せて覗き込む。
まっすぐ視線を向けられてビーセルは息を止めた。

「何故わかったのか…?わかるわよ。こんな感情持ったことがないから。特に接点のなかったに、すごく焦がれているなんて、なにかあると思うわ」

「っでも、そんな素振り全然っ」

ミザリエラは笑った。

「王太子殿下が特殊なのよ。普通の王族は感情を面に出さないように訓練されるのよ?
感情は理性で押し込めるの。触れて、抱きしめて、自分の物にしたいという欲求を一切悟らせずにいるなんて簡単なこと」

「そんな、まさか…アレが効いていたなんて」

ビーセルは魔法師の中でも、魔法研究の適性があった。
この国の秘術、魅了魔法の研究も密かに行い、独自のものを作り上げていた。

実験の過程だった。

まさか、彼女が皇女で国際問題に発展するなんてことは思っても見なかった。

芳しい反応が見られなかった為に、何度も何度も、ビーセルはミザリエラに魅了を施していたのだ。
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