令嬢は魅了魔法を強請る

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
12 / 12

十ニ 蛇足

しおりを挟む
「先日はどうもありがとうございます」

侯爵家の家督を継いだ長男は、魔法師団長に会っていた。

「いや、こちらこそ。上手くことか運んだようです何よりですな」

団長と若き侯爵当主は笑い合う。

「団長殿にお声がけ頂き、父はあっさり当主の座を明け渡しました」

「彼が学生時分に魔法学の成績が良かったのは知っていたし、猫の手でも借りたいくらいだったから、こちらの都合もよかった」

若き侯爵の父、前侯爵は魔法師の才能がありつつ、たった一人の嫡子だった為その道を諦めていた。

息子への当主教育を終えたあとも、なかなか家督を譲ろうとはしなかった。
夢を諦めた故の執着だったのか。

しかし、魔法師団長から誘いを受けた。

「魔法師はいつからでも始められる。騎士と違い魔力は老いて減るものでもない。当主を終えたら是非我が団にどうか?」と。

前侯爵は、現役魔法師団のトップからの誘いに舞い上がって、早速息子へ当主を譲る手続きをした。

「私が当主になった事で…弟の婚約破棄もスムーズでしたし?」

若き当主はくすりと笑みを零す。
団長は何も答えない。

ただ、口元には同じような笑みをたたえていた。

若き当主の最初の仕事は、弟の婚約破棄の承諾だった。
父は渋っていたが、次男の素行を見せつけられ、ぐうの音も出なかった。
これ以上婚約関係を続けても、慰謝料の額面が上がるだけ。痛手がない金額のうちに支払うべきだと判断した。
当主は速やかに謝罪し、婚約の破棄を受け入れた。

弟に甘かった父も、証拠となった記録映像の魔法技術について話を向ければ、水を得た魚の様に魔法知識を楽しそうに語り始めた。
父の弟への関心は薄れていた。


「前侯爵には、辺境で腕をふるっていただくとします」

命の危険のある場所だが、国を守る最前線と聞いて前侯爵は、それほど期待されているのかと目を輝かせていた。

「父が望んでいることなので、どうぞ好きな様に使ってやってください」

団長が父の力を欲しているのは建前だろう。

彼の三番目の息子が、婚約破棄して間もないミファセスとくっついたこと考えれば。

それでも、得た成果に、若き当主は満足している。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

初夜に夫から「お前を愛するつもりはない」と言われたわたくしは……。

お好み焼き
恋愛
夫は初夜にわたくしではなく可愛い少年を侍らしていましたが、結果的に初夜は後になってしました。人生なんとかなるものですね。

私の通り名をお忘れ?婚約者破棄なんて死にたいの?

naturalsoft
恋愛
初めまして。 私はシオン・マーダー公爵令嬢です。この国の第4王子の婚約者でもあります。 そして私の趣味は礼儀を知らぬクズどもを血祭りにする事なのです♪ この国をより良い国にする為に、この手を赤く染めましょう! そう、虐殺姫(マーダープリンセス)の名の下に!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

処理中です...