令嬢は魅了魔法を強請る

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
2 / 12

しおりを挟む
時は少し遡る。

伯爵令嬢ミファセスは悩んでいた。

出会った頃の婚約者とは仲が良く、上手くやっていたと思っていた。

学園に入学し、成績の優劣を順位として目の前に突きつけられてから、関係がおかしくなっていったように思う。

侯爵家の次男シュラブを婿に迎え入れるため、少しでも彼の役に立てればとした努力は結果として実った。
成績順位は常に上位の位置にいる。

しかし、それとは反対に下位の場所にシュラブの名はあった。
シュラブは勉強が苦手だったようだ。

人には得手不得手がある。
シュラブの苦手を、ミファセスが補えば良い。
夫婦とはそういうものなのだと、両親に教えられていたミファセスは一層努力した。

なんでも出来るミファセスに、努力が報われないシュラブが妬みを覚え始め、関係は悪くなっていった。

シュラブは社交に精を出し始めた。
ミファセス以外の令嬢と仲を深めていく。
シュラブは婚約者とは正反対の、少し頭のゆるい令嬢を好んだ。

シュラブは他の令嬢の肩を抱いてミファセスの前を通り過ぎる。

決められた茶会の訪問もなくなっていたし、夜会の迎えもなくなっていた。

それでも、過去の思い出に縋ってミファセスは耐えた。

結婚すれば、昔の様な関係に戻れるかもしれないと。

シュラブの素行不良はミファセスの両親の耳にも入り、婚約の破棄を侯爵家に申し入れるという二人を説得した。

本来なら伯爵家からの申し入れなど、侯爵家が聞き入れる必要もないが、隣国の王家の縁を持つ我が家は、爵位を抜きにこの国でもそれなりの権力がある。
その為、向こうから頭を下げて申し込んできた婚約は、伯爵家に有利な形で結ばれている。
もちろん、こちら側からの婚約破棄を侯爵家は受け入れるしかない。

ミファセスは両親に泣いてそれを踏みとどまってもらった。
まだ、ミファセスはシュラブを好きだった。

どんなにつれなくされても、ミファセスはシュラブを嫌いにはなれなかった。

そんな伯爵家の状況も知らず、シュラブは浮名を流し続け、とうとうミファセスの父は限界に達した。

「婚約は破棄させる」

嫌だと泣きついても、今度は父も折れてはくれなかった。

「お前はお前の想いがあるだろうが、私達はあの男がお前を幸せにするとは思えない。
すでに、お前は不幸であるし、我が家もそうだ。
未だに好き勝手している、入り婿予定のあの男を婚約者に据えたままの我が家は社交界では笑い者だ」

ミファセスは伏せていた顔を上げた。

「私は…まだ良い。隣国の縁のおかげでまだ。
…お前の母は、夫人会でどんな扱いを受けているのか知っているか」

ミファセスは頭をガツンと殴られた気がした。

自分の想いだけで繋ぎ止めていた婚約は、家族を不幸にしていた。

ミファセスはつれないシュラブをまだ愛している。

でも、家族は周囲から蔑ろにされていると知って、とうとう婚約の破棄に同意した。

どれだけ涙を流しても、シュラブへの愛は全く薄まることはなかった。

この想いをどうしたら良いのか、ミファセスは悩んでいたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に夫から「お前を愛するつもりはない」と言われたわたくしは……。

お好み焼き
恋愛
夫は初夜にわたくしではなく可愛い少年を侍らしていましたが、結果的に初夜は後になってしました。人生なんとかなるものですね。

私の通り名をお忘れ?婚約者破棄なんて死にたいの?

naturalsoft
恋愛
初めまして。 私はシオン・マーダー公爵令嬢です。この国の第4王子の婚約者でもあります。 そして私の趣味は礼儀を知らぬクズどもを血祭りにする事なのです♪ この国をより良い国にする為に、この手を赤く染めましょう! そう、虐殺姫(マーダープリンセス)の名の下に!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?

荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。 突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。 「あと、三ヶ月だったのに…」 *「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

処理中です...