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五 余談
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「そういえば、エルクのご家族に挨拶してないんだけど…良いの?」
ジュリアには紹介する家族は居ない。
家を追い出され、国を出たので紹介する術もないのだけれど。
「大丈夫じゃない?うち家族バラバラだし」
「…えっ」
深刻そうなジュリアの顔に慌てて手を振った。
「ちがうちがう。うち家族も親族も商人家系だから、各々違う国にいるんだよ」
「ああ…そう言うことなのね。びっくりした」
「皆生まれた国から出て飛び回ってるしねー」
エルクはジュリアの作った料理を堪能しながら、生い立ちを話した。
エルクは母に連れられ五つの時に生まれた国を出て、行商に回った。
母から商人の技を、護衛の傭兵から武術を学んだ。
独り立ちをしてからも家族とは連絡を取り合っている。
大半は商売の話なのは商人の血のせいだろう。
「そいや兄貴んとこ子供が出来たとか言ってたかな」
「えっ!お祝いしないと!」
「いいよいいよ。結婚してるのかも眉唾だし」
「ええ…?」
「なーんか王族の婚約者を奪ったとか言ってたからねぇ…胡散臭くない?ただの平民がだよ?」
「それは…うーん…」
王族の婚約者などは高貴な身分の方だ。
爵位が高ければ高いほど、家のための婚姻を結ばれる。
平民に嫁ぐ高貴なご令嬢が居るのだろうか。
ジュリアは底辺の男爵令嬢だったので、平民との結婚もあり得たし実際そうなった。
不満はないけれど、高位貴族となればそれはかなり難しいような気がした。
「早く正気に戻るように気付け薬でも送っておくかな」
「もう…!高貴な方はどうかわからないけど子供ができたのは本当かもしれないでしょ」
ジュリアは優しいなぁとエルクは頭を撫でた。
根っからの商人気質の兄が嫁を貰うなどエルクには想像できなかった。
下手に祝いの品を贈るより大口の顧客を捕まえたほうが喜びそうな人間なのだ。
通信魔具を使い、都合を聞けば折り返して連絡が入った。
赤子を抱く兄の映像に切り替わると思わず口をついて出た。
「兄貴、人身売買はどの国の法にも触れるよ」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
「確かに兄貴なら上手くやるだろうけど」
「足がつくようなことをするか、…いやまて違うからな?マルシア」
兄の後ろから品のある令嬢がジト目で夫を見ている。
「兄貴。貴族の誘拐はもっとだめだ。大人しく出頭して」
「お前が言うな」
「は?え?違っ、ジュリア、ちが、ちがうよね!?」
突然エルクの挙動が可笑しくなった。
その反応では本当に誘拐したのかと勘ぐられる。
ジュリアはエルクの持っていた小さい板に映像が投影されていることに驚いていたのだけれど、あまりの必死なエルクの姿にフォローを入れておいた。
「お義兄様、初めまして。エルクの妻のジュリアと申します。私の意志でエルクと共に行動しましたので誘拐などではありません。エルクには感謝しております」
「お義兄様か…なんか…良いな。新しい扉が開けそうな…。ジュリア、エルクが鬱陶しくなったら何時でも言っておいで。愚弟からすぐ助けるから」
「だめー!はいおしまいー!」
エルクが指で板を叩くと映像が消えてしまった。
会話の途中だったのに…。
言葉は交わせなかったけれど、義兄様の奥様は美しく高貴な方だと思われた。
何気ない所作が一々美しかった。
ジュリアのような底辺の貴族とは明らかに違っていた。
あながち…王族の婚約者だった、という話も嘘ではないかもしれない。
誘拐、いや駆け落ちの線が濃厚か…。
エルクには「兄貴には絶対助けを求めないでね。連れ返すのすごく骨が折れそうだから!」と泣きつかれた。
しばらくエルクが離れずにいてジュリアは大変だった。
-----
「兄貴…急に何言うんだよ。焦った…」
「お前にはその自覚があったんだな。やたらと人員を割いてなにかやっていたのはそれだったのか」
エルクは国を出る際に、ジュリアの足取りを消すのではなくあえて残した。
しかも至る所に。
四ヶ所の関所から同じタイミングで出国の痕跡を残す。
その後の痕跡も全方位に残し、混乱させた。
実家の大商会の力を遺憾なく発揮した偽装工作だった。
ジュリアには紹介する家族は居ない。
家を追い出され、国を出たので紹介する術もないのだけれど。
「大丈夫じゃない?うち家族バラバラだし」
「…えっ」
深刻そうなジュリアの顔に慌てて手を振った。
「ちがうちがう。うち家族も親族も商人家系だから、各々違う国にいるんだよ」
「ああ…そう言うことなのね。びっくりした」
「皆生まれた国から出て飛び回ってるしねー」
エルクはジュリアの作った料理を堪能しながら、生い立ちを話した。
エルクは母に連れられ五つの時に生まれた国を出て、行商に回った。
母から商人の技を、護衛の傭兵から武術を学んだ。
独り立ちをしてからも家族とは連絡を取り合っている。
大半は商売の話なのは商人の血のせいだろう。
「そいや兄貴んとこ子供が出来たとか言ってたかな」
「えっ!お祝いしないと!」
「いいよいいよ。結婚してるのかも眉唾だし」
「ええ…?」
「なーんか王族の婚約者を奪ったとか言ってたからねぇ…胡散臭くない?ただの平民がだよ?」
「それは…うーん…」
王族の婚約者などは高貴な身分の方だ。
爵位が高ければ高いほど、家のための婚姻を結ばれる。
平民に嫁ぐ高貴なご令嬢が居るのだろうか。
ジュリアは底辺の男爵令嬢だったので、平民との結婚もあり得たし実際そうなった。
不満はないけれど、高位貴族となればそれはかなり難しいような気がした。
「早く正気に戻るように気付け薬でも送っておくかな」
「もう…!高貴な方はどうかわからないけど子供ができたのは本当かもしれないでしょ」
ジュリアは優しいなぁとエルクは頭を撫でた。
根っからの商人気質の兄が嫁を貰うなどエルクには想像できなかった。
下手に祝いの品を贈るより大口の顧客を捕まえたほうが喜びそうな人間なのだ。
通信魔具を使い、都合を聞けば折り返して連絡が入った。
赤子を抱く兄の映像に切り替わると思わず口をついて出た。
「兄貴、人身売買はどの国の法にも触れるよ」
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
「確かに兄貴なら上手くやるだろうけど」
「足がつくようなことをするか、…いやまて違うからな?マルシア」
兄の後ろから品のある令嬢がジト目で夫を見ている。
「兄貴。貴族の誘拐はもっとだめだ。大人しく出頭して」
「お前が言うな」
「は?え?違っ、ジュリア、ちが、ちがうよね!?」
突然エルクの挙動が可笑しくなった。
その反応では本当に誘拐したのかと勘ぐられる。
ジュリアはエルクの持っていた小さい板に映像が投影されていることに驚いていたのだけれど、あまりの必死なエルクの姿にフォローを入れておいた。
「お義兄様、初めまして。エルクの妻のジュリアと申します。私の意志でエルクと共に行動しましたので誘拐などではありません。エルクには感謝しております」
「お義兄様か…なんか…良いな。新しい扉が開けそうな…。ジュリア、エルクが鬱陶しくなったら何時でも言っておいで。愚弟からすぐ助けるから」
「だめー!はいおしまいー!」
エルクが指で板を叩くと映像が消えてしまった。
会話の途中だったのに…。
言葉は交わせなかったけれど、義兄様の奥様は美しく高貴な方だと思われた。
何気ない所作が一々美しかった。
ジュリアのような底辺の貴族とは明らかに違っていた。
あながち…王族の婚約者だった、という話も嘘ではないかもしれない。
誘拐、いや駆け落ちの線が濃厚か…。
エルクには「兄貴には絶対助けを求めないでね。連れ返すのすごく骨が折れそうだから!」と泣きつかれた。
しばらくエルクが離れずにいてジュリアは大変だった。
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「兄貴…急に何言うんだよ。焦った…」
「お前にはその自覚があったんだな。やたらと人員を割いてなにかやっていたのはそれだったのか」
エルクは国を出る際に、ジュリアの足取りを消すのではなくあえて残した。
しかも至る所に。
四ヶ所の関所から同じタイミングで出国の痕跡を残す。
その後の痕跡も全方位に残し、混乱させた。
実家の大商会の力を遺憾なく発揮した偽装工作だった。
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