上 下
4 / 9

しおりを挟む
「我が息子の生誕祝に多くの出席を感謝する。本日を持って息子カラストは、王太子となる」

壇上から国王が貴族らに宣言をした。
カラストを知るものは眉を顰め、何も知らぬ者はただ素直に祝福を贈る。

国王の隣に立つカラストは笑みをたたえた。

「王太子となるカラストの婚約者を正式に発表する」

カラストは舞台袖に目をやる。
いつも通り可愛げを見せぬアレスフィナと、姉を気遣うリリーザの姿。
その後ろに立つのは王の手駒の魔術師。
平民から実力で成り上がった男を、卑しい身分のくせにと忌々しく思っていた。

その三人が王の合図で袖から姿を見せた。

何故三人揃って…?

ぞろぞろと現れた三人に貴族も、そしてカラストも不審に思う。

「…父上?」

小さく隣から父を呼ぶ。
気づいた父は安心しなさいと言わんばかりに頷いた。

それで納得できるはずもなく。
わけもわからずカラストは成り行きを見つめるしかない。

「公爵家の令嬢。知ってもいるだろうが、右からリリーザ嬢、アレスフィナ嬢。後ろの男は私の側近、若いながらに我が国の最高峰の魔術師グイスだ。…リリーザ嬢、前へ」

国王に言われるままリリーザが一歩前へ出る。

「王太子カラストの婚約者、公爵家の令嬢リリーザ嬢だ」

「…なっ!?」

リリーザは壇上で綺麗な礼をみせる。
驚きの声を上げるカラスト以外に、不満に上がる声はない。

祝福の拍手が会場を包む。

中には首を傾げる者もいた。カラストが吹聴していた言葉を聞いた者たちだろう。

「ち、父上、…?」

「併せて、アレスフィナ嬢の婚約も発表する」

…ああ、先程の発表は過ちか。
混乱しているカラストは口を噤んで王の発言を待つ。

今度はリリーザが一歩下がり、アレスフィナと魔術師が前に出る。

「公表はしていなかったが、公爵の長子アレスフィナは我が剣とも言える魔術師グイスと長く婚約していた。今日この場をもって彼らの婚約と婚姻の発表する」

アレスフィナとグイスは二人で揃って礼をとった。
紹介されたばかりの若い夫婦は一瞬視線を交わらせ、どちらからもとなく微笑む様子に、会場からは温かい拍手が贈られた。

「…婚姻?アレスフィナが…?」

「左様。どうだ、驚いただろう?常々リリーザを愛している、リリーザが婚約者だったならと言っていたそうではないか」

国王は息子に対して優しく微笑んでいる。
王はいつでも息子の望みを叶えた。

だからカラストは勘違いしていた。

カラストの気持ちを父は見通していたと。
そこまで察しの良い父ではなかった。
カラストの言動を真に受けていただけだった。

「待って、ください。父上。父はアレスフィナを婚約者に選んだと昔…」

国王は優しく首を振る。

「息子の婚約者には『公爵家の令嬢』とした」
「あの時、公爵家にはアレスフィナしか子はなかったはずです!ならば」

何故か喜びを見せない息子の姿に王は、首を傾げた。

「私はお前が将来出会う運命の相手を知っていた。だから、婚約者にアレスフィナとは明言しなかった。事実、お前は愛する者と出会った。そうであろう?」

王の耳にはカラストがリリーザに愛を囁いていた事も届いている。

しかし、カラストがリリーザに愛を囁いていたのは、近くにアレスフィナがいた時だけだ。

婚約者でありながら、カラストに関心を示さないアレスフィナの意識を向けたかっただけだった。


カラストは周囲の声を聞かなかった。

アレスフィナに好意を持つなら態度を改めよと言う王妃の言葉も。
こんな事をしても姉の関心は得られませんよと笑うリリーザの言葉も。
父以外には、カラストの想いが気づかれていた。
肝心の父には気づかれなかった。


カラストは、望むものは何でも持っているし手に入れてきた。
すべて父の力で。

手中にあった筈のアレスフィナは幻で、実体は既に他者の物になっていると知り、取り繕うこともできずに、壇上でへたり込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

だから違うと言ったじゃない

仏白目
恋愛
え?隣のギオンが伯爵様に怪我をさせた?・・平民が貴族様に怪我をさせるなんて厳罰が・・・まさか・・絞首刑? え?妹を差し出せば罪には問わない? ・・隣の家には弟しかいないじゃない? え?お前がいる??私?幼馴染だけど、他人よ? 「長年仲良くしてきたんだ妹も同じだろう?それとも、あの子が殺されてもいいのかい?」 だっておばさん、私は隣人であっておばさんの娘じゃないわ? 「なんて冷たい娘だ、お前の両親が死んでからあんなに面倒見てきてやったのに、この薄情もの!」 そんな事言っても、言うほど面倒なんて見てもらってないわ?むしろ、私の両親からお金を借りていたの知っているのよ? 「えーい、うるさい!うるさい!少し大人しく働けば許して貰えるだろうから、黙ってお行き!その代わり帰ってきたら、息子の嫁にしてやるから我慢するんだよ! あ!迎えのお方達ですね、この娘です!はい、変なこと言うけど,気にしないで下さい、少し我儘で器量も悪い娘だけど、丈夫な子なんで、はい、いいんですよ、はい、可愛いがってやってください、本当にこの度は家の息子がご迷惑をおかけして ええ、分かっております この事は内密にですね、はい勿論ですとも! じゃあ、頑張るんだよ シンシア!」 「ちょっと!おばさん!あんまりよ!」 違うんです、私は他人だと、何度言っても取り合って貰えず 屈強な男性2人に両脇を抱えられ馬車に乗せられた そうして連れてこられたのが、とても立派な伯爵家の邸宅だった・・・ 私、いったいどうなっちゃうの? 作者ご都合主義の世界観でのフィクションです あしからず

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。

酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。 いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。 どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。 婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。 これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。 面倒な家族から解放されて、私幸せになります!

【完結】悪役令嬢マルガリータは死んだ

yanako
恋愛
悪役令嬢マルガリータ 彼女は本当に悪役令嬢だったのか 公爵令嬢マルガリータは第二王子ジャレスの婚約者 そこにあるのは、相互利益 マルガリータは婚約者にも親にも愛されずに、ただ利用されるだけだった

処理中です...