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輝くシャンデリアの下、対になったソファに座るのは、一人の男と一人の女性。

「公爵令嬢アレスフィナ。私は君との婚約破棄を望む」

どこかで見たことのある顔の青年は、王家の紋章の入った刺繍を胸に飾っている。
紋章を入れられるのは王族のみ。

婚約破棄を宣言したのは、王族なのだ。

そう考えれば、部屋の装飾にも見覚えがある。
王太子の頃に使っていた部屋だと気づいた。

「それは、どういった理由で?」

美しくも冷たい目で向かい合う令嬢は王族の男に理由を求めた。

「…私には愛する女性がいる」

「だから、どうだと?」

公爵令嬢の反応は正しい。
愛する女性がいるならば、妾に迎え入れたら良いだけ。

「…私は、心が欲しい。心を通わせられない者と共寝は出来ない」

青いなと思う。
実際青年はまだ成人したばかりの頃のようだった。
女を知らぬからか。

公爵令嬢は頭を振る。
王族の前でする態度ではないが、処置なし、といった意味だろう。

「…わかりました」

「…」

王族の男は令嬢の前で口を真一文字に結んだまま。
それはまるで罪状を言い渡される罪人のようだった。

「お相手は男爵家のご令嬢ですね?リリーザ様、でしたか」

「知っていたのか!」

王族の男は顔を綻ばせた。

「明るくて優しい愛らしい令嬢なのだ、彼女は。まるで…」

言いかけて男は止めた。
公爵令嬢の変わらぬ顔を直視して再び口を噤んだ。

「まるで、…私とは正反対。ですか、ふふ」

扇で口元を隠して公爵令嬢は笑う。

「…そうは言っていない」

「かしこまりました。…貴方に幸せが訪れますように」

公爵令嬢は頭を下げて立ち上がる。

「アレスフィナ」
「カラスト殿下。それではまた」

淑女の礼をして、公爵令嬢は隙のない笑顔で部屋を退出した。

王族の男は婚約者が去っていった扉を見つめるだけだった。

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