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五
しおりを挟む王太子は何を言うこともなく王宮に戻った。
どこで間違えたのだろう。
叔父とは昔から比較され続けていた。
叔父は兄である国王陛下と子ほどに離れていて、王太子とも三つしか離れていない。
叔父と言うより兄という方がしっくりくる年齢差だった。
なにをやらせても器用にこなす叔父上を忌々しく思っていた。
そんな叔父上が気に入っていたナタリーを王太子に選ばれた時、王命と称して彼から奪った。
そうだ。叔父から奪っていたことをすっかり忘れて、捨てたのだった。
婚約者となる前は叔父上とナタリーが二人でいるとやきもきしていたのに、婚約者となった途端安心してその立場に胡座をかいていた。
王太子は婚約者であったナタリーに好意を見せたことはない。
思えばナタリーからも、なかった。
いつも取り澄ました顔で冷たくみえる表情を崩さないナタリーが、あのように情熱的に甘えた声で男を求めるなど知らなかった。
「…ヴィク、好き」
叔父を求める声。
心が抉られる。
アノ声が耳から離れない。
今になって思う。
何故、手放してしまったのかと。
その三年後。
他国に招待を受けた席で捨てた聖女と出会った。
彼女はいつか王太子が期待していたような庇護欲を唆る美しい容姿と変わっていた。
しかも彼女も、捨てた魔族の領地の主と婚姻を結んでおり、求婚してもすげなくされた。
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