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四 微えろ
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王太子の婚約者選びが、再び始まった。
すでに二人の人間と婚約解消扱いとなっている王太子の相手にと望む令嬢は少なかった。
どうせまた婚約を解消されるのではという噂まで囁かれた。
聖女のためにと婚約者を捨て、その聖女に逃げられた王子の人気は急落していた。
しかし、王太子本人は、そんなことなど気にもしなかった。
ナタリーがまた婚約者に戻ればすべて上手くいくと考えていた。
「それは無理だ」
父上に奏上したが、あっさり拒否された。
「ナタリー嬢は王太子に嫁ぐ資格を失っている」
ナタリーはすでに新たな婚約を結んでいた。
王太子と婚約を解消してすぐのことだったそうだ。
「そんな、王命一つでどうにでもなる事ではないですか」
「…貴様は王命をなんだと思っているのだ」
陛下は苦虫を噛み潰したように、愚息を見下す。
「ナタリー嬢はもう無理だ。諦めろ。他を探せ」
これで終わりだとばかりに謁見室から放り出された。
王命が無理なら、ナタリーから再婚約の希望を出してもらえば良い。
王太子は速やかに公爵家へ馬車を走らせた。
『ナタリーは資格を失った』
その言葉を読み取り、ここで諦めていれば、王太子は深い傷を負うことはなかった。
王宮を飛び出し、彼女の実家である公爵家に向かえばナタリーには会えなかった。
すでに婚約者の邸で暮らし、公爵夫人としての教育を受けていると聞いた。
その足で、ナタリーの婚約者である公爵家に向かった。
ナタリーの新たな婚約者となっていたのは、臣籍降下していた叔父上だった。
骸骨聖女を押し付けようと思っていた叔父の婚約者がナタリーだったのだ。
「あっ、あっ、あっ」
王太子は何がなんだかわからなかった。
扉の向こうから聞こえる嬌声は間違いなくナタリーのものだった。
甘えた声で自分ではない男の名を呼ぶ。
思えば、ナタリーに名を呼んでもらったことがなかったなと今更ながらに気づいた。
互いに相手を欲し、愛しいと睦み合う音はこれが初めての物ではないのだとわかった。
「リィ、可愛いな」
扉の向こうで彼女の愛称を囁くその声は間違いなく叔父上のものだ。
ナタリーの愛称を初めて聞いた王太子はもちろん口にしたことはない。
「…殿下」
この邸の家令が後ろから声をかける。
思えば彼は必死だった。
先触れもなしにやってきた王太子を帰そうと。
予定があるので今日のところは…
王族の方とお会い出来る装いではないので何卒…
着替えに時間を要しますので…
格好などなんでもいい、すぐ済む、早く呼べと言っても彼は引かずに帰そうとした。
理由をつけ邸から追い出そうとした事は彼の優しさだったのだと今になって気づいた。
王太子に嫁ぐ令嬢は純潔でなければならない。
ナタリーにはその資格がすでに奪われている事にようやく気づいた。
すでに二人の人間と婚約解消扱いとなっている王太子の相手にと望む令嬢は少なかった。
どうせまた婚約を解消されるのではという噂まで囁かれた。
聖女のためにと婚約者を捨て、その聖女に逃げられた王子の人気は急落していた。
しかし、王太子本人は、そんなことなど気にもしなかった。
ナタリーがまた婚約者に戻ればすべて上手くいくと考えていた。
「それは無理だ」
父上に奏上したが、あっさり拒否された。
「ナタリー嬢は王太子に嫁ぐ資格を失っている」
ナタリーはすでに新たな婚約を結んでいた。
王太子と婚約を解消してすぐのことだったそうだ。
「そんな、王命一つでどうにでもなる事ではないですか」
「…貴様は王命をなんだと思っているのだ」
陛下は苦虫を噛み潰したように、愚息を見下す。
「ナタリー嬢はもう無理だ。諦めろ。他を探せ」
これで終わりだとばかりに謁見室から放り出された。
王命が無理なら、ナタリーから再婚約の希望を出してもらえば良い。
王太子は速やかに公爵家へ馬車を走らせた。
『ナタリーは資格を失った』
その言葉を読み取り、ここで諦めていれば、王太子は深い傷を負うことはなかった。
王宮を飛び出し、彼女の実家である公爵家に向かえばナタリーには会えなかった。
すでに婚約者の邸で暮らし、公爵夫人としての教育を受けていると聞いた。
その足で、ナタリーの婚約者である公爵家に向かった。
ナタリーの新たな婚約者となっていたのは、臣籍降下していた叔父上だった。
骸骨聖女を押し付けようと思っていた叔父の婚約者がナタリーだったのだ。
「あっ、あっ、あっ」
王太子は何がなんだかわからなかった。
扉の向こうから聞こえる嬌声は間違いなくナタリーのものだった。
甘えた声で自分ではない男の名を呼ぶ。
思えば、ナタリーに名を呼んでもらったことがなかったなと今更ながらに気づいた。
互いに相手を欲し、愛しいと睦み合う音はこれが初めての物ではないのだとわかった。
「リィ、可愛いな」
扉の向こうで彼女の愛称を囁くその声は間違いなく叔父上のものだ。
ナタリーの愛称を初めて聞いた王太子はもちろん口にしたことはない。
「…殿下」
この邸の家令が後ろから声をかける。
思えば彼は必死だった。
先触れもなしにやってきた王太子を帰そうと。
予定があるので今日のところは…
王族の方とお会い出来る装いではないので何卒…
着替えに時間を要しますので…
格好などなんでもいい、すぐ済む、早く呼べと言っても彼は引かずに帰そうとした。
理由をつけ邸から追い出そうとした事は彼の優しさだったのだと今になって気づいた。
王太子に嫁ぐ令嬢は純潔でなければならない。
ナタリーにはその資格がすでに奪われている事にようやく気づいた。
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