元婚約者を抱くのは

基本二度寝

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「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下。市井で聖女様をみつけました」

王太子は期待に胸を高鳴らせた。

神官が声を震わせ王宮につれてきたのは、平民でやせこけた女だった。

肌は汚れや血や痣で黒く、手足は棒きれのように細かった。
本来は白髪なのだろうが、汚れで斑に黄ばみ、洗ったことがないのか潤いなく散らかった状態で、肌はガサガサ、頬はげっそりやせて、目はギョロついている。

まるで闇に潜む、骸骨お化けのようだと思った。


歴代の聖女は、みな王太子好みの庇護欲をそそるような美しい容姿をしていた。

婚約者だった公爵令嬢も美しい容姿だったが、つり上がった目のキツい顔立ちは王太子の好みではなかった。
だから乗り換えるため、婚約の解消を行ったのに。

骸骨女は伏目がちだけれどギョロギョロと彷徨わせている。
目線を落としこちらを見ようとはしない。

身体の状態を見てもわかる。
平民といえど、ここ迄酷いのは虐待でも受けていたのだろう。
相手の目を見ないのもそう躾けられたにちがいなかった。

気の毒に。


などとは思わない。

王太子は、を妃にすると宣言してしまったのだ。

王太子はすぐにでも宣言を取り消したくなった。
こんな女が聖女なら、ナタリーの方がいいに決まっている。


とりあえず、体裁を整えるため、聖女という人もどきに歩み寄る。
骸骨女の手を取ろうとして、異臭に負けた。
二人分の距離をとって、苦痛を顔に出さず優しく話しかける。


「聖女様、今まで辛い思いをしたかと思います。私達王家が貴方を保護いたします。
王族に嫁いでいただいたほうがよいのですが」

人もどきの瞳が一瞬こちらを見てすぐそらした。
心の中で舌打ちをする。
こんな無礼な骸骨女を隣に立たせる事など無理だ。


王族なら自分以外にもまだいる。
なにも自分じゃなくても良いじゃないか。
幼い弟の相手には早いが、叔父上にはまだ相手がいなかった。ちょうどいい。

『叔父の元に嫁いでもらいたい』

事前の打診はしてないが、叔父上も理解してくれるだろう。
そう続けようとした言葉を国王陛下に遮られた。


「王太子は以前の婚約者と縁が切れておる。気兼ねなく息子に嫁いで欲しい」

「不自由が無いよう取り計らわせてもらいますね」

王太子が優しく聖女に語り掛ける姿に国王夫妻は感激した。
夫婦は聖女の見た目に戸惑っていた己を恥じていた。

にこにこと笑顔を見せる二人の言葉を王太子は覆すことはできなかった。

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