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「今劇場で知り合いが出てるんだ!新作のいくつかある演目のうちの一つ、短編なんだけど、婚約破棄のもので」
「えーもう婚約破棄は良いよー前回のでお腹いっぱい」
「そういうなよ。せっかくの初舞台だからみてやりたいんだ…」
ふらりと劇場へやってきた。
ベンジンは来場客の声に耳を傾け、なんとなく観劇してみようと思った。
国王はベンジンが発案者となっている全ての事業の廃止を決定した。
勝手な婚約破棄の咎は、新規事業で巻き返せば不問とされたが、進まない内容に王は決断した。
どの事業も、蓋を開けてみれば辺境伯の力を借りねば成功しないものばかりだった。
企画者はどう考えてもアドニナ嬢でしかありえない。
国王はベンジンを臣籍降下すると命じた。
ベンジンの廃嫡は決定した。
事業の失敗に加えて、辺境伯との溝を深めた。
元々、辺境伯と王家の縁を強固にするために国王が願い出た婚約だった。
縁繋ぎは必要ないと突っぱねた辺境伯に王命を下して娘を取り上げた。
そして、今度は要らぬと王太子が勝手に婚約を破棄をした。
辺境伯の、王家の印象は最悪でしかないだろう。
ベンジンはぼんやりとしたまま一般客に混じった。
いつもなら、特別席を用意して貰ったが、今のベンジンにいつもの根拠のない自信は漲ってなく、お忍び用の衣装だけの変装なしでも誰からも声を掛けられなかった。
物語は、令嬢が婚約を破棄された所から始まった。
「他に愛する人ができたんだ」
「わかりました、幸せになってください」
男は婚約者に背を向け、愛しい人の元へ掛けて行った。
「お幸せに」
婚約破棄された令嬢の顔は穏やかだった。
ニナも、あんな顔をしていたなと思う。
令嬢は馬車で実家に戻ると、熱烈な歓迎を受けた。
令嬢は家族に愛されている。
貴族であるはずの令嬢は領民に慕われていた。
領民が作ったパンを食べて、一緒に笑う。
そんな令嬢など、この世に存在しない。
平民の作った創作。貴族の世界を知りもしない作家が書いたものに違いないと思った。
物語の終盤は令嬢の幼馴染がずっと好きだったと告白し、令嬢はそれを受け入れるという結末だったがベンジンは信じられないものを見た気分だった。
幼馴染の青年が令嬢を連れて領地がよく見える丘に登る。
ロマンチックなシチュエーションで愛を語って終わるのだと先の展開を読んだつもりだった。
「みてリーナ。君が王都に行っている間にここまでになったよ」
「まぁ!すごい!あれは貯水湖ね!」
「農道も全面舗装して、移動しやすくなったよ。
道路の舗装や、建物の地均しは地の加護を持つ領主様が、貯水、上下水道、排水などは水の加護持ちの奥様が、風力を原動力とした風車は風の加護持ちのリーナの兄様が、光をエネルギーに変えて蓄積させてさせる施設は光の加護を持つリーナの妹様が」
「そしてそれらに関わる機械技術は隣国の職人から技を受け継いだ貴方が」
「リーナ、君の理想とする街になっただろうか?」
「ええ!でももっともっと発展させるわ!」
二人は微笑みあって暗転した。
「…なんか全然ロマンチックじゃない…」
「ぷっ…確かに」
前列のカップルがそんな感想を漏らす。
確かに、話の作りとしては自分の作品のほうが良かったと思う、しかし引っかかったのはそこではない。
観客も白けるほどの加護持ちのオンパレード。
一族には一種の加護と決まっている。
だが例外がある。
辺境伯の血筋は多種の加護持ちだった。
これは一般には知られていない事実だった。
そして最後に語られていた設備は、ベンジンの名でアドニナが発案し、廃案された事業そのままだった。
国王と大臣クラスしかしらない事業だったはずなのに。
令嬢の領地では総て設置されている、と劇中で語っていた。
まさか…この話は。
ベンジンの背に冷たい汗が流れた。
「えーもう婚約破棄は良いよー前回のでお腹いっぱい」
「そういうなよ。せっかくの初舞台だからみてやりたいんだ…」
ふらりと劇場へやってきた。
ベンジンは来場客の声に耳を傾け、なんとなく観劇してみようと思った。
国王はベンジンが発案者となっている全ての事業の廃止を決定した。
勝手な婚約破棄の咎は、新規事業で巻き返せば不問とされたが、進まない内容に王は決断した。
どの事業も、蓋を開けてみれば辺境伯の力を借りねば成功しないものばかりだった。
企画者はどう考えてもアドニナ嬢でしかありえない。
国王はベンジンを臣籍降下すると命じた。
ベンジンの廃嫡は決定した。
事業の失敗に加えて、辺境伯との溝を深めた。
元々、辺境伯と王家の縁を強固にするために国王が願い出た婚約だった。
縁繋ぎは必要ないと突っぱねた辺境伯に王命を下して娘を取り上げた。
そして、今度は要らぬと王太子が勝手に婚約を破棄をした。
辺境伯の、王家の印象は最悪でしかないだろう。
ベンジンはぼんやりとしたまま一般客に混じった。
いつもなら、特別席を用意して貰ったが、今のベンジンにいつもの根拠のない自信は漲ってなく、お忍び用の衣装だけの変装なしでも誰からも声を掛けられなかった。
物語は、令嬢が婚約を破棄された所から始まった。
「他に愛する人ができたんだ」
「わかりました、幸せになってください」
男は婚約者に背を向け、愛しい人の元へ掛けて行った。
「お幸せに」
婚約破棄された令嬢の顔は穏やかだった。
ニナも、あんな顔をしていたなと思う。
令嬢は馬車で実家に戻ると、熱烈な歓迎を受けた。
令嬢は家族に愛されている。
貴族であるはずの令嬢は領民に慕われていた。
領民が作ったパンを食べて、一緒に笑う。
そんな令嬢など、この世に存在しない。
平民の作った創作。貴族の世界を知りもしない作家が書いたものに違いないと思った。
物語の終盤は令嬢の幼馴染がずっと好きだったと告白し、令嬢はそれを受け入れるという結末だったがベンジンは信じられないものを見た気分だった。
幼馴染の青年が令嬢を連れて領地がよく見える丘に登る。
ロマンチックなシチュエーションで愛を語って終わるのだと先の展開を読んだつもりだった。
「みてリーナ。君が王都に行っている間にここまでになったよ」
「まぁ!すごい!あれは貯水湖ね!」
「農道も全面舗装して、移動しやすくなったよ。
道路の舗装や、建物の地均しは地の加護を持つ領主様が、貯水、上下水道、排水などは水の加護持ちの奥様が、風力を原動力とした風車は風の加護持ちのリーナの兄様が、光をエネルギーに変えて蓄積させてさせる施設は光の加護を持つリーナの妹様が」
「そしてそれらに関わる機械技術は隣国の職人から技を受け継いだ貴方が」
「リーナ、君の理想とする街になっただろうか?」
「ええ!でももっともっと発展させるわ!」
二人は微笑みあって暗転した。
「…なんか全然ロマンチックじゃない…」
「ぷっ…確かに」
前列のカップルがそんな感想を漏らす。
確かに、話の作りとしては自分の作品のほうが良かったと思う、しかし引っかかったのはそこではない。
観客も白けるほどの加護持ちのオンパレード。
一族には一種の加護と決まっている。
だが例外がある。
辺境伯の血筋は多種の加護持ちだった。
これは一般には知られていない事実だった。
そして最後に語られていた設備は、ベンジンの名でアドニナが発案し、廃案された事業そのままだった。
国王と大臣クラスしかしらない事業だったはずなのに。
令嬢の領地では総て設置されている、と劇中で語っていた。
まさか…この話は。
ベンジンの背に冷たい汗が流れた。
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