婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝

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「辺境の…伯爵家からの手紙は無いか?」

落ち着かぬ王太子ベンジンは城内をうろうろとして、手紙を仕分けている従者に声をかけた。

「伯爵家…ですか?」
「…元婚約者の…ニナの」

「殿下。もう関係のない令嬢を愛称で呼ぶことは」
「私とニナの関係は切れていない!そんなことより手紙はあるのかないのか!」

声を荒らげるベンジンに処置なし、と従者は頭を振った。

「ございません」

くそっ、
呟いてベンジンは従者に背を向けた。

「殿下。政務を」
「わかっている!」

ベンジンは執務室とは反対方向に歩いていった。






「いるか!邪魔する」

ベンジンは目的地の扉を部屋の主の許可を待たずに開いた。

「これはこれは殿下」

部屋の主と、向き合う形で来客がいた。
客人は王太子の顔を確認すると、挨拶もそこそこに慌てて部屋から去っていった。

「あんなに慌てずとも」

部屋の主、この国の大臣であり主に芸術関係の一切を取り仕切るコリンズ候爵はくくっと喉を鳴らして笑う。

「なんなのだ」
「お咎めを恐れたのでは」
「?…奴は何をしたのだ」

「王国劇場の関係者ですよ」
「劇場…?要件は何だったのだ」

コリンズはまだ、くくっと笑う。

「別の作品を上演したいとのことでした」

「…なに?」

「もう終いです。殿下」

「終い…まさか貴様」

「演目変更の許可を出しました」

コリンズは目を細めてニコリと笑む。

「なっ…!だめだ!まだ…ニナが戻っていないっっ!」

「…こんなことしたところでアドニナ嬢は戻りませんよ」


王太子が用意した物語通りに上手く行くはずなどない。
王城での仕事振りを辺境にいる令嬢が知る術などない。
物語のように、一般貴族同士ならあり得た…かもしれないけれど。

「劇場へ向かう」
「そんなことをしても無駄です」

「なんだと!権力を使ってでも」

「国王陛下がお呼びです。殿下」

部屋の入り口に厳しい顔をした宰相がいた。

「事業の、詳細が知りたいそうです」


ベンジンは項垂れた。

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