逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝

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十一

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婚約解消が認められ、屋敷に戻る馬車の中で、グリシアはウトウトしていた。

平民生まれの自分が、国母になるなんて、あまりにも恐れ多いと幼い頃から心にずっとあった。
ようやくそんな重責から逃げることができた安堵からかもしれない。

揺れる馬車の振動と、隣に座る想い人から発する気配が眠りの世界に誘った。


「上手く行っただろう?」

微睡むグリシアに聞こえてきたのは義父ちちの声。

「無事婚約解消には至りましたが、…【番】だけで押し切るのは無理でしたよ」

続くのは、ずっと隣に居たフレイグの声だ。

「王太子が急にグリシアに執着をみせてきましたからね。魔道具まで用意して」
「ふんっ、今更だな。…疑われてはないのだな?」
「恐らく。グリシアのおかげで」

頭を撫でる感触が心地よい。
それを口に出すことはできない。
目を開けることもできない。
身体はまだ眠ったままのようだった。


「…番の狂死を理由に、逃れたのか。なるほど」

フレイグが城での出来事を伝え、終える。 

「公爵様…一つ良いですか?」

改まったフレイグの声。

「殿下の番は、…もしかして、グ…」

「…さぁ…私にはわからな…」

「公爵様が、…しかして、…家を恨みに…だから、【…殺し】を求め…」

二人の声が遠のいていく。
断片的な会話は理解できず、再びグリシアの意識は飲まれていった。


「おはよう?」

グリシアが目覚めたのは、屋敷の自室の寝台の上だった。
目の前にあるのはフレイグの顔で、グリシアに覆い被さっているような格好で、…。

「えっえ、え?」

真っ赤になってグリシアは混乱した。
そんな様子に、フレイグは忍び笑いをして、「馬車で眠ったグリシアを部屋まで運んだだけだよ」と言った。

「少し前にはこの国の王様の前でキスを強請ってたのに。この距離で照れるの?」

面白そうな顔をしたフレイグに対し、グリシアはその光景を思い出して真っ赤な顔が青くなる。

「あれは、違っ」

違うのだ。
あれは、グリシアの意思ではない。
フレイグから放たれる気にグリシアの身体が反応したのだ。

理由はわからないけれど。

今思い出しても頭を抱える。 
国王陛下の前で余りにも失礼な態度を取っていた。
貴族令嬢としてはありえない失態だ。

あの場では、周囲の目など全く気にならなかったのは何故なのだろう。

「違う?僕とのキスが?」

悲しそうに眉尻を下げられる。
嫌なはずがない。

ただ…フレイグに触れると、ずっと昔に持っていた物を失ったような感覚がある。

それが何かはわからない。

どんなに考えてもわからない。
思い出せないのだから、仕方がない。


グリシアは過去ヴェロージオを捨て、未来フレイグと生きていくと決めたから。
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