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十
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魔道具の変化に戸惑っていたのは、フレイグではない。
フレイグとグリシア、王太子以外の人間だけだ。
意気揚々と「番ではない証明」をした王太子は満足そうな笑みを浮かべている。
フレイグは公爵の言うように、「本人らが番と言い張ればなんとかなる」とは思っていなかった。
グリシアの態度で周囲を黙らせられるだろうと、公爵は思っていたようだが。
「その魔道具で、番を証明するというのは不可能だと思いますよ」
喜ぶ王太子に、フレイグは告げた。
「試しに、王太子殿下と国王陛下もそれに触れてみてください」
王太子はなにを言い出すのだと言わんばかりに、此方を見下ろす。
魔道具の不調と印象付けたいのだろうとでも言いたげな王太子は馬鹿にしたような顔をしていた。
「それを寄こしてみろ」
しかし、国王はフレイグの言うままに、王太子の用意した魔道具を持てと示し、王太子は渋々それに従っていた。
殿下がそれを陛下に渡すその時、白々しい光が魔道具から発せられた。
「…え?」
「これは」
番証明の魔道具は、今まさに、それを証明していた。
王太子は呆然とそれを見つめている。
「…父上が、私の番…?」
「そんなわけがあるか」
国王は興味を失い、魔道具を王太子に押して返す。
「番証明として開発されたその魔道具ですが、欠陥があったので現在販売はなくなっています」
画期的な発明だと言われた道具だったが、誤作動を起こさせる事が発見されてからは、悪用を危惧して販売が終了したものだ。
商人として、そういった情報は網羅している。
先程、魔道具に触れた際、フレイグは誤作動を誘発させたのだ。
まぁ、事前に王太子があの魔道具を入手したことも、商売仲間から既に得ていた。
商売仲間は【なかなか流通していない貴重な骨董魔道具】としてそれを王太子に売りつけた。
安価な魔道具に、疑問を持たなかった王太子のミスだ。
売買契約書にはちゃんと【骨董品】と明記してあるので、売りつけた商人が訴えられることもないはずだ。
「それに、番の証明方法は他にあるのではないですか」
魔道具を呆然と見つめていた王太子が顔を上げる。
そこには一縷の希望を持つ目をしていた。
フレイグは哀れに思う。
【番探し】などと言い出さなければ、グリシアは彼の隣に居たままだった。
フレイグの腕に落ちることもなかったのに。
「…それは?」
「僕とグリシアを引き離せばいい」
フレイグの言葉に、腕の中のグリシアが身動ぎ、国王は身体を揺らした。
彼は知っているのだ。引き離された番の末路を。
「引き離して、どう証明するというんだ!」
続きを待てぬ王太子は言い募る。
「番であったなら、相手を求め狂い死ぬ」
「…は、」
「過去にこの国にいらしたのではないですか。番と引き離され狂い死んだ男が」
目に見えて顔色を悪くした国王にはフレイグは見向きもしない。
その件に王が関わっていようがいまいが、別に王を問い詰めるつもりもない。
その男と友人だった公爵が如何するかは知らないけれど。
「さぁ、殿下。番証明の方法を提示致しましたが、実行されますか?
もちろん、グリシアが狂死して番と証明された暁には報復しますよ」
「なに、を」
「この国の王太子は【番殺し】だと、番を擁護する他国に知らしめます」
今は友好国でも、一気に敵国に回る魔法の言葉だ。
王族らのタダでさえ悪い顔色が、更に悪くなっている。
「待て…グリシアは番を得た。それにより王太子ヴェロージオとの婚約は、今ここに解消される」
国王が立ち上がって宣言をした。
そうするしかない。
王太子はそれを見届け、顔を伏せた。
王太子殿下も、死を迎える結末と知らなければ二人の引き離しを強行していたかもしれない。
そうなれば、グリシアが狂い死ぬ…まではいかないだろう。
グリシアはフレイグの番ではない。
ただ、グリシアはフレイグの放つ魔力に酔っている。
彼女が食べ続けた果実に込めたフレイグの魔力を体内に取り入れ続け、番の本能を消し去りその代わりに、グリシアの身体はフレイグの魔力を求めるようになっていた。
まるで麻薬のように。
引き離され、フレイグの魔力入りの果実を摂取しなくなれば、まるで番を求めるようにグリシアは必死にフレイグを欲するだろう。
取り乱しフレイグを求めるグリシアの姿を王太子に見せつけてやれば、番と誤認できるかもしれないと、考えていた。
しかしそこまでせずに、国王が番と認めた。
異議を唱えなかった王太子も、それに準ずるしかない。
グリシアを、心から愛する故に引いた。
フレイグは、不安そうなグリシアの背中を撫でて安心させてやった。
見下ろした目線の先にグリシアの瞳がある。
額に唇を落としてやると、嬉しそうに微笑んでいた。
フレイグとグリシア、王太子以外の人間だけだ。
意気揚々と「番ではない証明」をした王太子は満足そうな笑みを浮かべている。
フレイグは公爵の言うように、「本人らが番と言い張ればなんとかなる」とは思っていなかった。
グリシアの態度で周囲を黙らせられるだろうと、公爵は思っていたようだが。
「その魔道具で、番を証明するというのは不可能だと思いますよ」
喜ぶ王太子に、フレイグは告げた。
「試しに、王太子殿下と国王陛下もそれに触れてみてください」
王太子はなにを言い出すのだと言わんばかりに、此方を見下ろす。
魔道具の不調と印象付けたいのだろうとでも言いたげな王太子は馬鹿にしたような顔をしていた。
「それを寄こしてみろ」
しかし、国王はフレイグの言うままに、王太子の用意した魔道具を持てと示し、王太子は渋々それに従っていた。
殿下がそれを陛下に渡すその時、白々しい光が魔道具から発せられた。
「…え?」
「これは」
番証明の魔道具は、今まさに、それを証明していた。
王太子は呆然とそれを見つめている。
「…父上が、私の番…?」
「そんなわけがあるか」
国王は興味を失い、魔道具を王太子に押して返す。
「番証明として開発されたその魔道具ですが、欠陥があったので現在販売はなくなっています」
画期的な発明だと言われた道具だったが、誤作動を起こさせる事が発見されてからは、悪用を危惧して販売が終了したものだ。
商人として、そういった情報は網羅している。
先程、魔道具に触れた際、フレイグは誤作動を誘発させたのだ。
まぁ、事前に王太子があの魔道具を入手したことも、商売仲間から既に得ていた。
商売仲間は【なかなか流通していない貴重な骨董魔道具】としてそれを王太子に売りつけた。
安価な魔道具に、疑問を持たなかった王太子のミスだ。
売買契約書にはちゃんと【骨董品】と明記してあるので、売りつけた商人が訴えられることもないはずだ。
「それに、番の証明方法は他にあるのではないですか」
魔道具を呆然と見つめていた王太子が顔を上げる。
そこには一縷の希望を持つ目をしていた。
フレイグは哀れに思う。
【番探し】などと言い出さなければ、グリシアは彼の隣に居たままだった。
フレイグの腕に落ちることもなかったのに。
「…それは?」
「僕とグリシアを引き離せばいい」
フレイグの言葉に、腕の中のグリシアが身動ぎ、国王は身体を揺らした。
彼は知っているのだ。引き離された番の末路を。
「引き離して、どう証明するというんだ!」
続きを待てぬ王太子は言い募る。
「番であったなら、相手を求め狂い死ぬ」
「…は、」
「過去にこの国にいらしたのではないですか。番と引き離され狂い死んだ男が」
目に見えて顔色を悪くした国王にはフレイグは見向きもしない。
その件に王が関わっていようがいまいが、別に王を問い詰めるつもりもない。
その男と友人だった公爵が如何するかは知らないけれど。
「さぁ、殿下。番証明の方法を提示致しましたが、実行されますか?
もちろん、グリシアが狂死して番と証明された暁には報復しますよ」
「なに、を」
「この国の王太子は【番殺し】だと、番を擁護する他国に知らしめます」
今は友好国でも、一気に敵国に回る魔法の言葉だ。
王族らのタダでさえ悪い顔色が、更に悪くなっている。
「待て…グリシアは番を得た。それにより王太子ヴェロージオとの婚約は、今ここに解消される」
国王が立ち上がって宣言をした。
そうするしかない。
王太子はそれを見届け、顔を伏せた。
王太子殿下も、死を迎える結末と知らなければ二人の引き離しを強行していたかもしれない。
そうなれば、グリシアが狂い死ぬ…まではいかないだろう。
グリシアはフレイグの番ではない。
ただ、グリシアはフレイグの放つ魔力に酔っている。
彼女が食べ続けた果実に込めたフレイグの魔力を体内に取り入れ続け、番の本能を消し去りその代わりに、グリシアの身体はフレイグの魔力を求めるようになっていた。
まるで麻薬のように。
引き離され、フレイグの魔力入りの果実を摂取しなくなれば、まるで番を求めるようにグリシアは必死にフレイグを欲するだろう。
取り乱しフレイグを求めるグリシアの姿を王太子に見せつけてやれば、番と誤認できるかもしれないと、考えていた。
しかしそこまでせずに、国王が番と認めた。
異議を唱えなかった王太子も、それに準ずるしかない。
グリシアを、心から愛する故に引いた。
フレイグは、不安そうなグリシアの背中を撫でて安心させてやった。
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