逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝

文字の大きさ
上 下
9 / 11

しおりを挟む
貴族として育った者達なら、目の前のグリシアの姿に眉をひそめたはずだ。

頬を染めて、本能の儘相手を求める行為。

品のない、端ないと言われる振る舞いを、周囲の目を気にせずにグリシアはやってのける。

この場にそぐわない粘着音を立て、暫くして二人は唇を離すと、体の力が抜けたように、グリシアは男にもたれ掛かった。

「お待たせしてすいません。グリシアが、このような状態だったので」

貴族の作法を知らない男は平民で、勝手に口を開き言い訳を始める。
それなりの格好はしていても、所作にその粗さが垣間見える。

「…其方がグリシアの番か」
「…私はなんとも」

肩をすくめる男はこの国の者ではない。

男に獣人の血が混じっていなければ、相手を番と認識する機能は備わっていない。

ならば、とグリシアに目をやる。
相変わらず、此方に目を配ることなく、男を見上げている。
彼女の目にはもうこの男しか入れたくないと言わんばかりだった。

国王は、過去に見た、番を得た者の姿をグリシアに重ねた。
互いしか認めず、二人の世界を作っていた、その姿を。

「…父上、ならば二人が番同士であると証明は、できません」

ヴェロージオは、二人の姿に臆しながらも国王に訴えた。
これだけグリシアが無作法を続けていてもまだ、ヴェロージオはグリシアのことを諦めきれないでいた。

番の証明など、本人らが認めれば他者にはそれを覆す手立てなどない。
男の事はこの場にいる誰も知らないが、ここまで貴族令嬢の吟侍を捨てているグリシアの態度に、国王も王妃も、この場にいるや見届け人の宰相や近衛騎士らも、男を彼女の番だと認めつつあった。

待ったをかけたのはヴェロージオだけだった。
国王は首を振る。

「…グリシアのあの姿が何よりの証拠だろう?今の姿に、未来の王太子妃の影は微塵もない」

男に凭れ、身体を撫でられているグリシアは、抵抗もない。

「証明方法はあります!」

ヴェロージオがこの為にと調べ尽くして他国から取り寄せた魔道具を国王の前に差し出した。

「番を鑑定する道具です」

グリシアの番という男がそれを見つめ、ふっと笑ったように見えた。

「それで、番を証明しろとでもおっしゃるのですか?」
「番と言い張るなら出来るだろう!?」
「…僕は別に、番と言い張ったことはないんですがね」

それでも、反論せずにヴェロージオの望むよう、平民の男は魔道具を受け取る。

「グリシア、君も手を出して」
「…ん、」

番同士が魔道具に触れることで、光を放つ。
もし、番でなかったならば…。

二人が触れた魔道具に変化は起こらなかった。

「は、ははっ、やはりな!魔道具は証明した!お前たちは番などではなかったんだ!!」

ヴェロージオは、歓喜に震えた。
番と称してグリシアをかすめ取ろうとした平民に向け、指をつきたて断言したのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆
恋愛
 獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。  私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。  だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。 『飼い主』の存在だ。  獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。  この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。  例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。  そう。私の番は前世持ち。  そして。 ―――『私の番には飼い主がいる』

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

処理中です...