逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝

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一年、二年と月日は流れる。

ヴェロージオは王都から近い都市、地方を巡り、国の領地の三分の二を回り終えた。
任された仕事は出来るだけ早く終わらせ、作った時間を利用して王都を離れ番探しを続けているが、成果は上がらない。

過去に番と出会った可能性のある土地もすでに巡ったが、十数年も経てば、町も人も変わる。

昔見た記憶の景色に似た場所は、各土地にいくつかあった。
しかし、その場所に番と認識できる該当人物はなかった。

国内、と限定してしまってよかったのか、と思いあたる。
番は他の土地へ、他国へ移動した可能性もあった。

そうなれば、残り一年で探しきれるものでもない。

一年…出会えなければグリシアとの婚姻。

番と出会いたいという気持ちは変わらない。
しかし、グリシアとの結婚に悲観的な気持ちはない。

今までずっと婚約者としてやってきた。
彼女が自分の妃になるのだと思ってやってきたのだから、有るべき形に収まるだけ。

それはそれでも構わない、とヴェロージオは思っていた。



「…グリシアが参加しない?」

天候不良で予定していた地方視察を見合わせ、予定になかった夜会へ急遽参加することになったが、側近からは婚約者の参加は無いと聞いた。

「体調でも悪いのか?」
「いえ、現在他国に行かれているようですね」
「他国?何故、」
「殿下の婚約者である以上、本来ならば簡単に他国へ赴く事が出来ませんが、国王が認めましたからね。どうやら、ご親族に会いに行かれているようです。
殿下と婚約が決まる前はよく行かれていたようで、殿下が番探しを始めたここ二年間は頻繁に通われているようです」
「…そうか」

王族の婚約者ともなれば、王都からも国からも離れ難くなる。妃教育の為、王宮に通わねばならないからだ。

「他国に親族が居るとは、知らなかったな」

長く婚約者だったのに、まだ知らない事もあるのだな。

「公爵の妹様が他国に嫁がれたはずです」
「…グリシアに従兄弟はいるのか?」

知らぬところで、縁者と言え男と会っていると思えば、嫉妬も覚える。
しかし、側近は否と答えた。
それに安堵して、ヴェロージオはグリシアへの好意に気づく。

「…今更、自覚するとはな」
「…はい?」

無意識に口からこぼれ落ちた独り言を側近に聞かれ、なんでもないと手を振って誤魔化す。

今まで近くに在りすぎて気づかなかったのかもしれない。

(もし、番と出会えても、グリシアには妃のままでいてくれたりはしないだろうか)

都合が良いだろうけれど。
番を諦めることはできない。

でも、グリシアにも側にいてほしい。

だれか他の男の手を取る所は見たくないなと思った。
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