逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝

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つがいを見つけたら…婚約を解消する…?」
「…グリシアはそれを認めたの?」

王太子ヴェロージオは、婚約者グリシアに伝えたことと同じ事をそのまま両親である国王夫妻にも話した。

「母上。国法でも番の扱いは何人にも代えがたい存在と、そう明記されておりますよね」
「それはそうだけれど…」

王妃はチラリと王を見遣る。

獣人の血を残すこの国も、他の番を持つ種族の国と同様に、番の存在は大きい。

番。運命の相手。
其れは一つの人生で出会えるかどうか。
もし出会えたときの衝動は、それまでのどんな経験よりも衝撃を受けると聞く。

ヴェロージオも、王族とはいえ、番に憧れをもつ青年の一人だった。

「…ヴェロージオ。我々王族は貴族との繋がりもある。番に憧れる気持ちもわからなくもないが、公爵家の後ろ盾は必要だろう?」
「…グリシアの実家ですか」
「そうだ」

国王の言いたいこともわかる。
だけれど、公爵家のチカラがなければヴェロージオは王にはなれないのか?

そんなことはない。
現国王の妃の実家も大きな力を持つ貴族ではなかった。
それでも王妃は立派にその立場を守っている。

「王になるに、絶対に必要とは思いません」
「ヴェロージオ」
「気に入らなければ、私を廃嫡してください」

ヴェロージオは引かなかった。
ここで引けば、ヴェロージオは今後出会う番と共に生きる道を失う。

「ヴェロージオ…」
「私のわがままを、どうかお聞き入れください」

なんとも言えぬ顔をする国王と、難しそうな顔で息子を見つめる王妃。

「何も一生とは申しません。三年だけ時間をください。もし、それでも番と出会えなければ、…グリシアと結婚いたします」

グリシアが、自分も番を見つけたら婚約を解消できるのだと思われていることは伏せた。
もちろんその可能性だってあるのだが、…何故かその言葉にヴェロージオはモヤモヤとした。

自分は番を見つけたら婚約解消する気なのだから、彼女だってそう思って当然だろう。
ヴェロージオに番が現れず、彼女に番が見つかれば…婚約を解消せざるをえない。
ヴェロージオが言い出したことだからだ。

(番はそう簡単に見つかるものでもない)

番を欲する気持ちと、二つの相対する思いがヴェロージオの中で渦巻いている。


「期限をつけるというのか?何か、宛があるのか?」

父の声に、ヴェロージオは顔を上げた。

「ここ最近、昔のことを思い出したのです」
「昔…?」

ヴェロージオは頷いて、聞き返した王妃に目を向けた。

「私は遠い昔に番と出会っている。この王都ではなくどこか地方で」

国王夫妻は揃って顔を見合わせた。

「私は幼い頃地方の視察に同行したことはありませんか?」
「…ある。しかし、何処で?」
「そこは鮮明ではなくて。小さな片田舎だったと思うのですが、そこで。
おそらく番は平民だと思います」

夫妻は口を開けた。
その表情は、驚きと戸惑いを表している。

「国を巡る許可を。必ずや番を見つけて戻ってきます」

決意を固めた瞳に、国王は何も言わなかった。
王妃は目を閉じ、天を仰いでいた。

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