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12月24日(ホテル)

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幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて突撃してくる



亜紀が部屋のドアにカードキーをかざして扉の鍵を開けた。
扉を開けると中は広く清潔感があり革のソファに大きなテレビ、窓から見える街並みも綺麗で眺めが良い。二つのベッドが少し離されて置かれている。あたしが知っている修学旅行や家族旅行で行く時のホテルより、何倍も高そうな部屋だった。

「これでここのホテルの普通のツインルームかよ」
「良い部屋だね」

亜紀がバスルームを開けて中を覗き込む。洗面台の隣にバスルーム、トイレはまた別。あたしが知っているホテルはトイレと浴室が一緒になっているようなホテルだ。それだけでここのホテルはグレードの高いホテルだと言える。


悠木涼が何も言わずにアメリカに行くことを知った凪沙とあたし達は、悠木涼を追ってここのホテルに辿り着いた。

なんだかんだあって、悠木涼を引き止めることに成功したし、凪沙と悠木涼が無事に付き合うことになった事も良かった。

それで何故あたしと亜紀はホテルの一室に2人で来たかといえば、悠木涼の母親悠木美月にお礼としてホテルに泊まって行きなさいと言われたからだ。

空港から近いここのホテルは朝早いアメリカ行きの飛行機に乗るために悠木涼の父親が手配したホテルらしい。悠木涼はアメリカに行かなくて良くなったのなら、そのまま家に帰ればよかったんだけれど、空港に近いということは家からは遠いということ…2時間以上かけて家に戻るには結構遅い時間帯になってしまった。

明日も学校があるが1日くらいサボったって問題はないけど……

亜紀と2人でホテルに泊まるなんてちょっと……いや、かなり……あたしの身が危険なのではないかと思っている。

悠木涼と凪沙が同室なのは付き合ってる2人ならば問題はないだろう。付き合いたての2人が同室とかどこまで進展するのか気になるけれど……

あたしと亜紀は付き合ってもいない2人。普通なら何もない。普通の友人、幼馴染同士ならお風呂に入ってそれぞれのベッドで寝て終わりなはずなのだけど……

相手が亜紀だからな……

バスルームから出てきた亜紀は今度は窓際に歩いて行って、外を眺めている。外の光がメガネに反射してキラキラと光っている。

構えすぎてもどうしようもないか……

「亜紀。お風呂どうする?先、入るか?」

窓の外を見ていた亜紀が振り返り、考えるそぶりを見せる。

「……ちさきが先に入っていいよ」
「じゃ、お言葉に甘えて先に入るかぁ」

今日は学校からそのまま悠木涼を追いかけてホテルまできた。ここまで遠出をするのは旅行の時くらいしかないし、結構歩き回ったから足もパンパンでゆっくりと湯船に浸かりたい。

あたしは湯船にお湯を貯めるために蛇口を捻った。

「ちさき。ルームウェアあった」
「ん?ありがとう」

亜紀が洗面所の隣にあるカゴにルームウェアを2人分置いた。白のセパレートタイプのルームウェアはここでも高級ホテルっぽさがある。着心地が良さそうな見た目をしている。

下着はホテルのある建物の下の階に立ち並ぶお店で購入してある。

亜紀が脱衣所から出て行くのを確認してから高校の制服を脱いだ。


「あぁあぁ~」

良い匂いのするシャンプーとコンディショナーで髪を洗い。ボディソープを手で泡立ててから体を洗った。明るく染めて傷んだ髪も高級ホテルのシャンプーとコンディショナーで洗えばトリートメントした後みたいに仕上がった。髪を束ねてから湯船に浸かると自然と声が漏れた。

「今頃凪沙と悠木涼はイチャイチャしてんのかねぇ」

ようやく付き合い始めた2人。盛り上がらないはずがない。特に悠木涼の方だ。あれだけ嬉しそうにして凪沙から手を離さずベタベタと……母親の前だっていうのに……

「ちさき」
「!!?」

目を閉じて今日のことを振り返っていると、急に脱衣所の方から声をかけられた。
驚きすぎてゆったりと足を伸ばして浸かっていた体が滑り、顔に水飛沫がかかった。

「な、何!?」

曇りガラスの向こうには亜紀のシルエットが見える。

「一緒に入っていい?」
「はぁ!?!?」

「一緒に入る」
「ちょっちょちょま!待って待って!!もう上がるから待って!!」

良く見ると曇りガラスに浮かび上がっている亜紀のシルエットは肌色の面積が多い。……もう脱いでる?

ガラガラ……

あたしの制止など無視して扉を開けた亜紀は服を着ていなかった。

「なんでもう脱いでるんだよ!」
「お風呂に入るんだから脱ぐよね?」

「まだあたしが入ってるだろ!?!?」
「ここのお風呂広いから2人入っても余裕だと思うけど……」

「そういう問題じゃない!!」

あたしは亜紀を直視できずに水面を見つめた。
亜紀はなんでもないように髪を洗い出した。なんで堂々としているんだ!?

「昔は一緒にお風呂入ってたよね」
「小学校低学年くらいまでの話だろ!?」

「女同士だしお風呂一緒に入っても問題ないと思うけど、大浴場とか普通でしょ?」
「そりゃそうだけど」

口元を水につけてぶくぶくと意味もなく泡を作る。

「ドキドキする?」
「恥ずかしくてドキドキしてるだけだ」

亜紀の細身の体を見てとかではない。あたしよりも身長が少し高いのに細身で制服に隠されている胸元はそこそこのボリュームを誇っている。あたしは無駄な脂肪もついているくせに亜紀よりも大きくないし綺麗でもない。堂々と見せれるような体をしていない。

気づけば洗い終わったらしい亜紀が浴槽に足を入れた。

「ちさき、もっと前いって」

直視しないようにずっと水面を見ていたあたしは足を折り曲げ前にずれた。
あたしの後ろに亜紀が入り込むと溢れたお湯が流れ出ていく。

浴槽内で丸く足を抱えるようにして入っていたあたしの後ろから、亜紀の足が左右から伸ばされ挟み込むようにしてあたしを後ろから抱え込んだ。

「ちさき、もたれていいよ」

亜紀があたしの体を引いた。背中に亜紀の胸が当たっているのがわかる。
ドキドキと一心不乱になり続ける鼓動が背中越しに伝わっているんじゃないかと落ち着かない。

「凪沙さんと涼さんうまくいってよかったね」
「ん?あ、あぁそうだな…」

普通に話し始めた亜紀に気を張っていたあたしは少し力が抜けた。

「2人って実は………」
「え?何?」

「付き合う前からキスとかしてるんだよね」
「………はぁ!?!?!?」

びっくりして思わず亜紀の方を振り返った。
案外近くにいる亜紀とばっちり目があった。濡れた黒髪と今はメガネが外されて遮るものがない黒い瞳。首から下はもちろん何も着ていない。下がりそうになった視線を無理やり上げた。

「付き合ってなくてもキスとかしちゃっていいんじゃないかな?」
「いや、普通しないでしょ?」

「凪沙さんと涼さんはしてたんだって」
「2人は両想いだったから……」

亜紀がじっとあたしを見つめてくる。見つめられる視線をあたしは逸せなくてずっと見つめ合う形になっている、亜紀に抱え込まれるようにして浸かっている体は、湯船から抜け出せそうにない。

「なんでキスをしたんだろうって私なりに考えたんだけど……相手の気持ちを知りたかったのかなって」
「相手の気持ち?」

「キスしたらどういう反応をするのかで相手の気持ちがなんとなくわかるのかなって……」
「まさか……そんなのでわかるわけないでしょ」


「試していい?」


亜紀の瞳にあたしが映り込んでいる。真剣な眼差しで見つめられ囚われたように動けない。

あたしの気持ちを知ろうと探ってくる瞳が、あたしの内側にも侵食してくるようだ。熱い視線があたしの体を熱くしていく…早まる鼓動は熱を持って全身に駆け巡っていく。

「い、いやだめだろ……あたしの気持ち知ってどうするんだよ」
「反応によっては……あの2人みたいに……」

あの2人みたいに?付き合いたいってことか?

あたしは亜紀とキスをしたらどんな反応をするんだ?嫌とは思わないが、嬉しいとも違う気がする。自分でもどういう反応をするんだかわからない。あたしもちょっと知りたいと感じてしまった。

少しずつ近づいてきている亜紀から目が離せなくなる。

ドッドッドッと脈打つ感じが全身に広がっている。熱い……
亜紀が近づいてくるにつれて顔がはっきりと見えなくなっていく。

体を捻って振り返った状態で亜紀に後ろから抱きしめられている。亜紀の体は柔らかくて、こんなに素肌の接触をしたのは初めてで全然嫌だと感じない。

ぼやけた視界いっぱいに亜紀がいるんだとわかる。

亜紀に抱きしめられた腕があたしをキュッと強く抱きしめた……

――あたしの意識は遠くなっていく。



「―――ちさき……ちさき。大丈夫?」

あたしは気づいたらベッドの上に寝かされていた。体にはタオルがかけられている。

「………え?」
「ちさき……」

片手にペットボトルの水を持った亜紀があたしが寝ているベッドに腰掛け心配そうに覗き込んできた。

「ごめんね。私より長くお湯に浸かってたからのぼせちゃったみたい」
「あー。ごめん……」

ぼーっとする思考でなんとか状況を理解する。亜紀がここまで運んでくれたんだろう。

「水飲める?」
「んーー」

あたしは片手で胸元のタオルを押さえて上半身を起こした。どうやら何も身につけていならしい。亜紀に全身見られたのか……

ペットボトルの水を一口飲んで徐々に取り戻していく思考で、あたしは亜紀とキスをしたのだろうか?という疑問にたどり着いた。

反応であたしの気持ちを知るのであれば、キスをしていてものぼせてしまって反応を返せていないだろうし、キスをしてないなら尚更わからないという結果に落ち着いていそうだ。

「とりあえず、服……着る……」

あたしは立ちあがろうとベッドから足を下ろした。フラッと体がよろけたところを亜紀が支えてくれる。

「座ってて、ルームウェア持ってくるから」

亜紀が脱衣所に置いてあったルームウェアと下着を持って出てくる。
甲斐甲斐しくあたしに服を着させていく。

下着、パンツ、上着に腕を通したところで気づいた。

「自分で着れるわ!!」

思考がまだぼんやりとしていたせいで、介護されていた。
自分でボタンを留めていく。

「無理しなくていいのに……」
「もう平気だから!!」

今更ながらに恥ずかしくなってくる。だいぶすっきりとした思考で立ち上がり脱衣所に行って半乾き状態の髪をドライヤーで乾かしていく。

スキンケアもしっかりと済ませて部屋に戻ると、亜紀が心配そうにあたしを見つめてくる。

「もう平気だからマジで……」
「そう」

「あたしもう寝るわ」

あたしは布団に入った。今日はもう疲れたし他にやることもない。
目を閉じて再び意識を手放そうとしていると、ゴソゴソと布団が動く。

「何してるんだよ……」

ベッドは二つあるんだから当然別々で寝るんだと思っていたんだが、何故か亜紀はあたしがいるベッドに潜り込んできた。

「濡れたままのちさきを寝かしたから布団少し湿っぽい」
「………」

そんなこと言われたらもうダメだとか言えないじゃないか……
亜紀に心配もかけちゃったし、今日はもうおとなしく寝ることにする。

「おやすみ亜紀」
「おやすみ」

後ろから抱きしめられる。

お風呂で抱きしめられたことを思い出し、柔らかい肌を思い出し、亜紀の胸が背中に当たってたことを思い出し、キスされそうになっていたことを思い出し。

ドキドキと心臓が早まってのぼせた事を思い出して


今日はもう眠れないかもしれない。



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