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12月29日 Side涼6

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60-52

第3クォーターが終わる頃、チームの点差は僅かに開いた。それでもいつでもひっくり返せるような点差。私は10分間椅子を温め続けていた。

出番は一度も訪れる事なく、試合に挑むメンバー達に声を出して応援するだけ……結は13得点まで稼ぎ途中で交代をした。これ以上の点差が出なくて良かったと思うと同時にこのまま出番が来ないのではないかという不安に駆られる。

このままいけばチームとしては勝てるかもしれない。でも勝負には負ける。

結には負けたくない。もし、私が結に負けて凪沙と距離を置くように迫られ、結と凪沙の距離が近くなってしまったら……凪沙が結の事を好きになってしまったら……

そんなことになるはずないと思うけど、絶対なんて言い切れない。

凪沙と私はまだ付き合い始めたばかりで、もしかしたら“やっぱり涼ちゃんの事恋愛的に好きとは違ったかも“とかいわれるかもしれない。

絶対に嫌だ。そんなことを言われれば私は………あ、ヤバい目頭が熱くなってきた。

咄嗟にタオルで汗を拭いている風を装って、顔をタオルで覆った。

「涼くん。涼くん」

ポンポンと肩を叩かれる。この声は結か……
タオルを外してそばに立つ結を下から見上げた。

「何?」

少し低めの声が出てしまったのは仕方ない。だってネガティブな妄想を繰り広げていたら凪沙に振られたのだから……ちょっと目頭が熱くなってしまったのをバレないように、表面上は強く振る舞わないと、またタオルで顔を拭くことになる。

「コーチ。呼んでる」

ちょいちょいと結がコーチを指差した。
コーチの周りにはチームメイトが集まり話し合いをしているみたいだ。いつの間にか私1人椅子に座っていた。

「悠木!」
「はい!!」

慌てて立ち上がりみんなのいるところに駆け寄る。
コーチは私をひと睨みして集まっている全員を見渡した。

「第4クォーターはスターティングメンバーでいく。準備しろ」
「「はい!!」」

コーチには後でコッテリ叱られそうだが、また試合に出られるだけで嬉しくなる。ここで結との点差を逆転させればいい。チャンスはまだある。

私は軽くストレッチをして試合開始を待った。


―――

ボールが結に渡る。私は走り結からパスを取れるように先回りをする。
案の定結は別のチームメンバーにパスを渡したが、私はゴール下でチームメンバーからのパスをもらい、ボールを上げてゴールにふわりと投げ入れた。

13対10。残り3点差なんてあっという間にひっくり返してやる。相手チームがボールをコートに戻す前に私は走り出し、すぐディフェンスに入った。

ずっと私をマークしている相手チームの人も私が前半よりも速度を上げて走る為、慌ててついてくるような状況になっている。

ハーフタイムと第3クォーターで20分以上の休憩を取れたし、あと第4クォーターの10分間で試合が終わるからあとは全力で走り回るしかない。

点数は開かなければ縮まりもしない試合展開が続く。

結がボールを取り相手コートに切り込んで、相手チームのディフェンスをかわしながら、小柄な結が強引にゴール下まで入り込みボールを上げて輪の中に入れた。

第4クォーターだからか、結は切り込み無理やりシュートを打つ回数が増えた気がする。

17-12。得点数が縮まらない。

私はパスを受けて相手コートに攻め入った。私にへばり付いている相手が邪魔くさい。苛立ちを覚えながらもシュート体勢を取った。頭上に掲げたボールをワンハンドシュートで遠くのゴール目掛けて放った。

入れ!!!

高めに放ったボールはなんとかゴールに入り3ポイントシュートを成功させる。

これであと2点。今はチームの点数より結と自分の得点数の方が気がかりだった。

すぐディフェンスに戻り相手チームがパスを回すボールを目で追い、足で追った。近くに迫ったボールに手を伸ばしボールを奪うようにしてキャッチする。

タイマーをチラリと確認すれば残り1分弱。もしかしたら最後のチャンスかもしれない。

私はすぐ走る。邪魔をしてくる相手をかわしながらゴールを目指した。近づくゴールに無我夢中でボールを持った手を伸ばす。

ドンッ

体に衝撃が走った。手からボールがこぼれ落ちる。

え………

ゴールに入らなかったボールが体育館の床にあたり跳ねる。私の体は押された衝撃で床に尻餅をついた。転がっていくボールを見つめる。

入らなかった。17-15。これで入れば同点だったのに……

ピーー
 
とホイッスルの音が体育館中になった。ビクリとする体。
慌ててタイマーを見れば34秒で止まっている。審判を見ればファールのサイン。フリースローだった。

チームメイトが駆け寄ってきて、いつまでも立ち上がらない私を心配するように覗き込んできた。

体は怪我とかはなく痛いところもない。ただ、得点を取りたいという気持ちで周りが見えていなかっただけ。

私は立ち上がりフリースローラインに立った。

フリースローは入れば1点、今回のフリースローは2本。両方入れば2点。

ダムッダムッとボールを叩きつけて両手でボールをキャッチした。狙いを定めてボールを放つと輪の中に吸い込まれるようにしてボールは入っていった。

ふぅと息を吐き出した。体育館端に見える凪沙が私を見ている。口元が動いて声が届かなくても何を言っているんだかわかった“がんばって“拳を作って応援してくれている。

絶対に入れる。

入った場合すぐにディフェンスに戻り、ボールを奪ってゴールに叩き込めば得点数を逆転させることができる。

私はドクドクと早まる心臓を感じつつ、落ち着いた動きでボールをゴールに放った。

山なりのボールはゴールに向かって飛んでいき、さっきとは少しズレた軌道でボールは輪の縁を転がるような動きをして、そのまま


ーーー輪の外に転がり落ちた
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