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12月24日 Side涼6

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「いえ!全然そんな事ないですよ!それに涼ちゃんがアメリカに行かなくでくれて私は嬉しいです」

凪沙が嬉しそうに笑った。
私も嬉しい。母さんのあの時の言葉が嘘だったんだと知って、私はここにいて良いんだってわかって安心した。

「凪沙ちゃんに色々言われちゃったし、私も反省したわ」
「あ、あの時はその……他人の私が色々言っちゃってごめんなさい!」

凪沙は勢いよく頭を下げた。
何を言ったのかはわからないけれど、ここに来る前に母さんと話をしたって言っていたし、その時に何か凪沙が言ってくれたのかも。そのおかげでこうやって母さんが来てくれたのなら凪沙には感謝しなくちゃいけない。

「気にしないで、涼の気持ちを考えてなかった私がバカだったのよ」
「そんなバカだなんて……」

「凪沙ありがとう。凪沙のおかげでアメリカに行かないですんだし、ちょっとすれ違いはあったけど母さんの気持ちもしれて良かった」

凪沙は照れくさそうにはにかんだ。

「そうそう。あの人にガツンと言ってこなくちゃいけないわ。邪魔しちゃってごめんね?それじゃ、ごゆっくり~」

母さんは片手を振りながら扉を開けて出て行った。さっぱりしてるというかなんというか……ああいう性格が私は好きだったりする。

「ホント良かったね涼ちゃん」
「……うん」

「それじゃ帰ろ?」

凪沙が扉に向かって歩き出した。それを私は腕を掴んで引き止める。
まだ大事な話が終わっていない。
振り返ってきた凪沙が私を見上げて首を傾げた。

「さっきの話の続きなんだけど……」
「さっきの?」

数秒停止したと思ったら、すぐに赤く染まる頬。目を丸くして茶色い瞳が私を見つめている。

「私、ずっと凪沙の事――」


コンコン


また扉がノックされる。

どんだけ私の邪魔をする気なんだと一号に怒鳴りたい気持ちを押し込めて“はい“と低い声が漏れた。
ガチャっと開けられた扉の先は見慣れた制服があった。

「涼さん、凪沙さん。お話は終わりました……か?…………」

東雲が私の表情を見て固まった。私が非常に不機嫌そうな不満そうな表情も隠そうとせず全面に現れていたからだろう。

「どうしたー亜紀?」

東雲の隣から高坂もヒョイとこちらを覗き込む。
凪沙の腕を掴んでいる私と目が合った。

「亜紀。タイミングが悪かったみたいだなー。もう少し待ってあげた方が良さそうだ……1時間……いや、2時間くらいは必要かもしれない」
「そうだね……」

扉が再び閉じられようとしている。

「ま、待って待って!!2時間って何!?なんでそんな長いの!?」

慌てて凪沙が止めに入る。いや、私はそのまま閉じていただいていいのですが……
早く凪沙に触れたくてウズウズする。でも、まだ私は凪沙に返事をしていないし私から告げてもいない。どう考えてもまずはちゃんと気持ちを確認し合うのが大事だというのに、私は凪沙に触れたい気持ちの方が急いでいる。

「だってこれから愛のむつみ合いをするんじゃないのか?」
「あ、愛のむつみ合い!?何?どういう事!?別に私と涼ちゃんそういう関係じゃないからね!?」

「凪沙さんまだ言ってないんですか?」
「あ、亜紀ちゃん!!そ、それはもう言ったけど……それはもういいの!涼ちゃんがアメリカに行かないことになっただけで私は十分だから」

「なんだ悠木涼がヘタレか」
「高坂、邪魔してきたのはそっちでしょ」


コンコン


4人でやいやいと言い合いを始めた時、再び扉がノックされる。
ノックと言っても、東雲が扉を開けたまま抑えているので東雲の後ろに立つ大柄の黒いスーツを着た男が開けたままの扉をノックしたのだ。

「皆さんもう話し合いは済んだのでしたら、そろそろここから場所を変えていただきたいと思います」

「あ、そうですよね。ごめんなさい。場所を貸していただきありがとうございます」

凪沙は一号に頭を下げて、すぐに部屋を出て行こうとする。掴まれていた腕を忘れていたのか、凪沙がツンのめるようにして私の所に戻った。さっきより距離が近づいて、振り返ってきた凪沙は顔を赤く染めている。

「ねぇ。凪沙」
「………」

「私の部屋来る?」
「え?」

「父さんがすごく良い部屋借りてくれたんだよ。せっかく借りてくれたんだし泊まっていかないともったいないと思わない?」

凪沙の顔がますます赤くなっていく。
「わお。だいたーん」という高坂の声は無視をした。


エレベーターに2人で乗り込んだ。
高坂と東雲はホテルのロビーで待ってるからとエレベーター前で別れて、凪沙と2人っきりになれた空間は何故か緊張した空気に包まれている。

「別に変なことしようとかそういうんじゃないからね?」
「う、うん……」

扉が開いてエレベーターを降りて、父が借りてくれた部屋の前まで行く。部屋のカードをタッチ扉を開けると、1人部屋にしてはやけに広すぎる部屋が現れた。一際大きいクイーンサイズのベッドはそういうお部屋と勘違いしてしまう気がする。

私はカバンを適当に放り投げて、凪沙に向き直ると凪沙は扉の前から移動していなかった。

「こっちおいで?凪沙」
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