上 下
52 / 129

12月10日(1)

しおりを挟む
あれから数日たち私はいつもの日常に戻ってきていた。
いつものというのはお昼の呼び出しがなくなった。

急に増えたと思えばあの日以来急にパッタリとなくなったのだ。一体なんだったんだと思うことはあるけど、断るのもまた気を使うので、ないなら無いでそれは良いと思う。

今回は色んな人に迷惑をかけてしまったので、みんなにお礼をして回った。
美月さんにも無断でバイトを休んでしまったことを謝りに行ったけれど、涼ちゃんから事情を聞いていたからか謝らなくていい。と言われ私が無事で本当によかったと涙ながらに言われてしまった。



「凪沙~おはよー」
「きゃっ」

自分の席について窓の外を眺めていると、体に衝撃が来たと思ったら抱きつかれて頭をわしゃわしゃされる。

「ちさきちゃん!朝から髪ボサボサにしないでぇ」

犬にするように抱きつかれ頭を撫で回されてセットしてきた髪がボサボサにされていく。

「おーごめんごめん」
「もぉ~………」

悪びれる様子もなく。
今度は丁寧に整えるように手で髪をすくように撫でられる。

「…………」
「どした?」

私が少し考え込むように黙ると、顔を覗き込むようにしてちさきちゃんが聞いてきた。

「ちさきちゃん。手握ってもいい?」
「?」

不思議そうにして出されたちさきちゃんの手を握る。
爪は綺麗に整えられていてネイルも施された手は柔らかい女の子の手だった。

「…………」
「ホントどした?」

にぎにぎと手を握ったり、恋人繋ぎをしてみたり、ちさきちゃんの手を触っていく。
細い指。少し長い爪。ハンドクリームの匂いが少しする。
冷え性なのか、外から来たばかりだからなのか冷たい指先。

右手を弄ばれて訳がわからないと言った表情をする。

「撫でて?」
「は?」
「頭……」

よしよし。と優しく撫でてくれる。

「………」
「違う……」

「はぁ?一体なんなんだよ!!」
「いたっ」

ペシッと頭に軽くチョップを入れられた。
ちさきちゃんは私の前の席にカバンを置いて椅子に座った。

チョップを入れられた場所を軽く撫でる。
だって違うんだもん。

涼ちゃんが頭を撫でてくれる時、手を繋いだ時と違うのだ。
そりゃ別の人だし触り心地が違うのは当然だけど、そうじゃない。

結ちゃんが頭を撫でてくれた時、結ちゃんと手を繋いだ時もちさきちゃんと手を繋いだ時と同じような気持ちだった。

そう。気持ちだ。

私が感じている気持ちが違うのだ。

それが今の私にはわからない。

あれから数日が経ちいつもの日常が戻ってきた。
でも、私自身は何かが少し変わったのかもしれない。



――――――



喫茶みづきにてある男が扉を開けた。
扉についた鐘がカランと音を立てる。

このお店の店長悠木美月はいつものように「いらっしゃいませ~」と声を出そうとした。

出そうとしたが出せなかった。

その人物を見て驚き言葉に詰まったのだ。
驚きの表情を隠そうともせず悠木美月は目を大きく開いた。黒い瞳には男が映っている。

何年振りに見たその男はその年数分歳をとった印象を受けた。
しかし、その気が強そうな見た目、いつも眉間に皺を寄せた不機嫌そうな表情は相変わらずでちっとも変わってはいない。

その男が口を開いた。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「何しにきたの……」

社交辞令であろう挨拶を無視して目的を尋ねた。
男は眉間の皺を深くして美月を見つめる。

「涼の事でちょっとな……」

その一言で美月は男を睨みつけた。
男はその視線を向けられても表情一つ変えない。

「あなたと話す事なんて何もないわ」

「美月にはなくても俺はある」

男は続けた。



「涼を俺が引き取ろうと思う」



この男は涼の実の父親である。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

女の子なんてなりたくない?

我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ――― 突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。 魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……? ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼ https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる

Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。 金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。 金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。 3人しかいない教室。 百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。 がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。 無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。 百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。 女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。

君は今日から美少女だ

恋愛
高校一年生の恵也は友人たちと過ごす時間がずっと続くと思っていた。しかし日常は一瞬にして恵也の考えもしない形で変わることになった。女性になってしまった恵也は戸惑いながらもそのまま過ごすと覚悟を決める。しかしその覚悟の裏で友人たちの今までにない側面が見えてきて……

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

処理中です...