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11月17日 凪沙の知らない話1

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やってしまった。

完全に失敗したと思う。やりすぎ……家に帰ってからその事ばかり考えて自己嫌悪している。

しかも凪沙がバイトの日は毎回帰りは送っていっているのに昨日は合わす顔がなくて行けなかった……

一昨日のデートの別れ際、凪沙に私の事を意識してくれているか尋ねた。以前聞いた時もそうだったが、私の事をまだ恋愛対象として見てくれていないことは明らかで、私はどうしたら凪沙が意識してくれるのか、私の事を見てくれるのか考えた結果がキスだった。

当日の服装もできるだけカッコよくしていった。凪沙は男の子が好きな女の子なのだから、男の子みたいにカッコよくしていけば良く見られるんじゃないかと思った。

それは成功したんじゃないかと思う。カッコいいねって言われたし……

デート中も意識してもらえるように行動したつもりだったけど……あまり効果はなさそうだった。

だから、別れ際に軽くキスしてしまえばその日のデートはキスの事でいっぱいになり、私の事を意識してくれるようになると思ったんだけど……

「嫌われたら意味ないじゃん……」

私は大きくため息をついた。

最初は軽く唇に押し当てるだけのキスだけにしようと思ってた。

それが……唇を離して目が合った瞬間。ちょっと色素が薄い茶色寄りの瞳に見つめられて気がついたら引き込まれるように顔を近づけていた。

吐息の合間に名前を呼ばれて夢中になって唇に吸い付いて……

我に返ったのは凪沙が私を遠ざけるように押し返した時。
その後はそこから逃げるようにして駅に向かって、気づいたら自分の部屋にいた。



「絶対嫌われたよなぁ」

朝の登校時間。生徒が靴を履き替えてワラワラと教室に向かって行く。
私は下駄箱から上履きを取り出して放り投げた。コロッと転がった上履きは横向きに倒れた。

はぁーー……酷いことした上に逃げるなんて最低だよな…

履いてきたローファーを取るついでに上履きの向きも直して履く。

「悠木さん」
「ん?」

ローファーを下駄箱にしまっていると横から声をかけられた。
振り返った先には見たことあるような顔…誰だったかな?

割と顔が広い私はいろんな人と話す機会も多いけど、その全員の名前を覚えているかと言われたら微妙なところだ。

メガネをかけていてその中の瞳は鋭く私を見ている。第一ボタンまでしっかり留まっているシャツと乱れのないネクタイ。模範生徒そのもの如何にも真面目そうな見た目。あー。絶対生徒会長してそうな容姿。

「生徒会長?」

「副会長です!!」

「えっ!?その見た目で副会長!?!?」
「なんか失礼ですわね」

生徒会長してますみたいな見た目と威圧感あったから絶対そうだと思ったのに、副会長だったか……

「副会長さんが私に何か用ですか?」
「2年D組の龍皇子要(りゅうおうじ かなめ)と言います」

「えっ!!名前かっこいい!!強そう!絶対生徒会長向きの名前じゃん!」
「か、かっこ!?つよそう!?……い、いや、名前で生徒会長になれる訳じゃありませんから」

副会長の龍皇子さんはコホンと咳払いをして私に向き直った。

うん。絶対生徒会長の方が似合うと思う。副会長でもすごいけど……同じ2年生だから見覚えがあったのか、クラスが違うからあまり関わりがなくて知らなかった。

「ちょっとお時間ありますか?」
「ん?まぁ、HR始まるまでなら……」

「それじゃあ、ちょっとついて来てください」

そういうとさっさとどこかに歩いて行く。


どこに向かっているんだろうか……普段授業を受けている教室が並ぶ方とは反対側。音楽室や視聴覚室など特別教室が並ぶ方へ龍皇子さんは向かっている。

たまにある教室移動でくることはあってもなかなか普段来ない場所だ。凪沙や高坂と話をした特別教室は1階で今歩いているのは3階。少し眺めの良い窓の外は多くの生徒が学校に入って行くのが見える。今日は雲もなく秋晴れの様相だ。

「ここです。どうぞ」

龍皇子さんは教室の前に来ると鍵を使って扉を開けた。
上のプレートを見ると『生徒会室』と書かれている。

それはそうか、副会長さんだもんな。

初めて生徒会室にお邪魔する。生徒会室なんて生徒会に入った人くらいしか出入りしないイメージだけど、私が入っても大丈夫なのか?

授業で使われている教室の半分程度の部屋の壁沿いには棚が置かれ中にはたくさんの分厚いファイルがぎっちり埋まっていて、教室の真ん中に長机二つが並べられパイプ椅子が添えられている。窓に近いところには机とちょっと良さげな椅子。良く漫画とかで出てきそうなくらい平凡な生徒会室だった。

「普通」
「は?」

鋭い眼差しが横から刺さった。

東雲も眼鏡女子だけどこんなに鋭い視線を送られたことはなかった。同じ眼鏡女子なのに眼鏡を通した瞳の鋭さが全然違う。副会長の眼鏡は特殊効果でも付属されているんだろうか……『にらみつける』的な……

「いえ、なんでもないです」
「………そうですか」

後から入ってきた龍皇子さんは生徒会室の鍵を内側からかけた。
最近もこのシチュエーションあったな………2人きりで話したいからと教室に入れられて内鍵をカチリとされるやつ……高坂の時もそうだったけど、告白っていう雰囲気でもないから私にとっては碌な話じゃないんだろう。

思わずため息がでそうになる。

「それでお話ってなんですか?」
「あまり時間もないので率直に申し上げますと」


「2年A組の天城凪沙さんと関わるのはやめていただきたいのです」


「は?」

今度は私がにらみつける番だった。



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