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11月15日(4)

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「わざわざ家まで送ってくれなくても良かったのに」
「夜道を女の子1人で歩くの危ないでしょ?凪沙を1人で帰すと母さんにも怒られちゃうしね」
「涼ちゃんだって女の子なのに……」

最近は随分と日が暮れるのが早くなった。

2人で電車に乗って私の家がある最寄り駅で2人で降りた。今日は一日ずっと涼ちゃんと手を繋いで歩いていて、寒くなった空気で冷たくなる手も右手だけはずっと暖かかった。

住宅街に入って行くにつれて人通りも少なくポツポツとある街灯が暗くなった道を照らして、家までの道標になっている。

涼ちゃんが私の家まで送ってくれるのは何回目だろうか。バイト終わりは毎回涼ちゃんが駅か家の近くまで送ってくれて最近ではそれが当たり前のようになってきている。

美月さんと涼ちゃんの好意に甘えてしまっていて、駅までならまだしもこうして家の近くまで送ってくれるのは申し訳なさも出てくる。それでも涼ちゃんは嫌な顔ひとつせずに毎回送ってくれるのだ。

いつもと違うのはこうして手を繋いでいる事。

普通に2人で映画を観てカフェでおしゃべりするだけだったら、ただのおでかけだったのが今日はずっと2人で歩く時は手を繋いでいた。それが今日はデートだと意識させられる。

家が近づくたびに、ポツポツある街灯を通り過ぎるたびに2人の間に空白の時間が生まれる。

居心地が悪いわけじゃない。ただ今日が終わりに近づいているだけ……

お昼ご飯がクレープでも、ちょっと過激なエッチシーンがある映画も、2人で恋バナや他愛ない話をしたカフェも楽しかった。

涼ちゃんと繋いでいる手が少しキュッと握られる感覚がした。
思わず隣にいる涼ちゃんを見上げると柔らかいく細められた瞳と目が合った。

「今日は楽しかったよ」
「うん。私も楽しかったよ。改めて優勝おめでとう。がんばったね」

今日のお出かけは涼ちゃんががんばった成果によるもので、球技大会で優勝したらデートというお願いを私が受け入れた。多分優勝していなくてもあんなにがんばったところを見ているし、私も涼ちゃんに迷惑をかけてしまったからきっとお出かけはしたと思うけど………

「凪沙。……私の事、意識してくれた?」
「え?」

繋いでいる手が少し強くなった。

「クレープ……私があげたクレープ、食べてどうだった?」
「……あま…かった」

涼ちゃんの眉が少し下がった。

「映画……私と一緒に観てどうだった?」
「………恥ずかしかったかな?」

多分涼ちゃんはそういうことを言っているんじゃないんだと気づいた。

球技大会が終わった後、2人で特別教室で話した時。涼ちゃんの事を恋愛対象としてみているか聞かれた。あれから少し経った今、結局私は答えを出せずに放棄して普通に過ごしていた。

「……こうやって手を繋いでいてどうだった?」
「デート…なんだなって思った……」

繋いでいた手を引かれて人気のない路地裏に連れて行かれる。
背中に塀が当たる。涼ちゃんが私の瞳を覗き込むようにして見つめてくる。

「意識した?」
「わ、わからないよ……恋愛対象として、意識するなんて……どうやったらいいか、わからない」

ずっと放棄していたんだ。わかるはずない。
私は涼ちゃんから瞳を逸らして俯いた。
涼ちゃんはこんなにもがんばってくれているのに……私はそれを考えようともしていなかった。

私の頬を涼ちゃんが優しく撫でてくる。徐々に下がってくる手は私の顎を軽く掴んで顔を上げさせる。
涼ちゃんの被ったキャップで街灯の灯りが遮られた黒い瞳とまた目が合った。

「私の事、みて?」

私はジッと涼ちゃんの瞳を見つめた。

徐々に涼ちゃんの顔が近づいてきているような気がした。

掴まれている顎は離してはくれない。

唇が触れそうな後数センチのところで涼ちゃんは止まった。

「私の事、意識して?」


チュッ


小さく涼ちゃんが呟いた後、唇に柔らかい感触を感じた。
すぐにそれはキスだと気づいた。

「私の事、ちゃんとみて?」

ちゅ、ちゅっと角度を変えながら何度も唇を押し付けてくる。

「ん……りょ……んぁ、ちゃ…」
「な、ぎさ……ん」

下唇を食まれたり、上唇を吸われたり、何度もキスを繰り返す。

女の子の唇ってこんなに柔らかいんだ……それにキスってこんなに気持ちよかったかな……
涼ちゃんが私の感触を楽しむように何度も押し当ててくる。

繋がれたままの右手は絡まるように握られて、いつの間にか顎を掴まれていた手は、私の頬を優しく撫でながら頭の方に移動していく。

「はぁ、りょ………んっ……」

息継ぎもままならない。
頭に移動した涼ちゃんの手が私の頭を優しく撫でた。

「んん!!!」

撫でられたのは頭なのに背中がゾクゾクっと疼いて涼ちゃんの肩を思いっきり押した。

「はっ、はぁ…はぁ……はぁ」
「はぁはぁ……」

涼ちゃんの顔はキャップで影を落としていても、首や耳まで真っ赤になっているのがわかる。私も多分顔を真っ赤にしているんだろう。顔が熱い。

「ご、ごめん……やりすぎた……」
「あ、いや、そうじゃなくて」

拒絶されたと思ったのか、不安そうな瞳を私に向けながら謝ってくる。
背中の謎のゾクゾク感に耐えられなかったとかちょっと説明しにくくて私も濁した返答になってしまった。

涼ちゃんのキスは別に嫌じゃなかった……むしろ気持ち良いくらいで……
私は涼ちゃんのキスが嫌じゃないと感じる自分にも驚いた。

涼ちゃんは顔を隠すようにキャップを深く被り直した。

「でも、凪沙にはちゃんと意識してもらいたくて……」
「う、うん」
「じゃ、じゃあ帰るね!また明日!!」

涼ちゃんは駅までの道を駆けて戻っていった。


涼ちゃんの唇には新色のリップがうっすら移っていた。







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