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11月15日(2)

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「知らなかったの?」
「うん」

映画を見終わって私たちの間にある空気は重たかった。
勝手に私が微妙な空気を感じているだけかもしれないけど、だって……だって……あんな…


濃厚なエッチなシーンがある恋愛映画だって思わなかったんだもん!!


なんて映画のチケット渡してくれてるんですか美月さん!!!

『彼氏とか誘って楽しんできてね』ってそういう意味だったんですか!?高校生に渡す映画のチケットじゃないですよ!

俳優さんと女優さんがすっぽんぽんでしたよ!?この映画18禁じゃないんですかね?

それを涼ちゃんと2人で見るなんて……恥ずかしすぎる……
ちゃんと調べてみるべきだった。ただの恋愛映画だと思ったのに。

「なかなか過激だったね」
「ゔ、うん………」

あー気まずい……映画見終わった後って『面白かったね!』とか言ってカフェで映画の感想を語り合うような雰囲気じゃないのかな?

この後2人でカフェ行って映画の感想とか語り合えないよ!
俳優さんの体がシックスパックでとか女優さんのスタイルがボンッキュッボン!!で綺麗だったとかそんな感想を語り合えない!!濃厚な舌を絡め合うキスシーンの話とかできない!!

2人の出会いからすれ違いを経ての最後のエッチなシーンだったけど全部そこに持っていかれちゃったよ!

隣に座る涼ちゃんはどんな反応をするのか冷や汗かきながら横目で伺ったら……平然と見てたけど……

「ふふ」

突然涼ちゃんが笑い出した。

「そんなに最後のシーンが気になっちゃう?」
「うぇ!?」
「さっきからずっとソワソワしてる」

顔が熱くなっていくのがわかった。気にしすぎて逆に不審な人になっちゃってるらしい……

「気になっちゃうっていうか……友達同士で見るには刺激が強かったというか」
「確かに高校生2人で見るにはちょっとね……でも」

涼ちゃんはちらっと私を見た。

「凪沙は……そういう経験とかしたことあるの?」
「んっ!!!」

映画館を出てあてもなくショッピングモールの中を手を繋いで2人で歩いている道中。
まさかそんな話を急に振られるとは思ってなかった。

「急に何!?」
「だって凪沙って前に彼氏いたよね?」
「いたけど………」
「じゃあ、あるんだ?」

なんで恋愛映画の濃い目なエッチシーンを観た後にこんな私の性事情をお話ししなくちゃいけないんだろ……
だからって特に話すこともないんだけど。

「ない」

恥ずかしくなって涼ちゃんの方から顔を背ける。
ペットショップが見える。猫かわいい……

「ないの?」
「ないよ」

私まだ高校2年生なんだし、なくても不思議じゃないでしょ。

「彼氏いたからって必ずシてるわけじゃないと思うけど?それに付き合ってたって言っても長続きしなかったんだから」
「そうなんだ……」

なんで涼ちゃんはちょっと嬉しそうにしているんだ。口元を手で隠しててもバレてるからね?

「涼ちゃんは?」
「え?」
「涼ちゃんは恋人いたことある?もしかしてもう経験済み?あ、ちょっと待って。やっぱりカフェ行こう!!涼ちゃんの恋バナ聴きたい!!」

「え?え!?えぇぇぇ!?!?」

繋いでいた手を引っ張り近くにあったカフェに涼ちゃんを連れ込んだ。



窓際のカウンター席のテーブルに先月発売されたばかりの新作のフラペチーノを置いた。ここも涼ちゃんが支払ってくれた。美月さんご馳走様です。

「凪沙って新作とか新商品とか好きなの?」

隣に座った涼ちゃんの手には特にカスタマイズしていないカフェラテが握られている。

「新商品好きっていうより、流行には敏感でいたいんだよね。誰かと話す時の話題にもなるし、コスメ系だと新色が出たりとかしたら試してみたり?自分磨きにもなるし、他の人にもオススメできるし」

「すごいね。そういうところでも頑張ってるんだね」

ありがと。と言ってフラペチーノを飲む。うん。甘い。

「今つけてるリップも新色だったりするの?」
「そうそう。初めて使ってみたんだけど似合う?」

唇をチュッとするように涼ちゃんに見せた。

「………………あー、うん!よく似合ってる」

すっごい間があったけど似合ってなかったかな?こういう色合いは結構私にあってるんだけど……
涼ちゃんは窓の外に目を向けてカフェラテを一口飲んだ。

「それで、涼ちゃんは今までどんな恋をして来たのかな?」
「ゔっ……」

窓の外を見つめながら、めちゃめちゃ嫌そうな顔をしている。横顔だけでもすごくよくわかる。

「な、凪沙の話も聞きたいなぁ?」
「私!?私は特にないよ?仲良かった男の子と付き合って別れた。以上」

「えぇ!もっと詳しくっ!」
「本当に面白い話じゃないよ?」

仕方なく元彼の話をすることになった。二股されたこと、体目的だった人、付き合った後にゲイだと告白して来た人。考えてみたら高2にしては酷いお付き合いをしてきたと思う。よく男性不信にならなかったなって思うくらい。

「よく男性不信にならなかったね?」

涼ちゃんも同じ事を思ったらしい……

「どの人も別れた後は私って男運ないなぁくらいにしか思わなかったな」
「そうなの?」
「うん。みんな元々は仲の良い友達からで、付き合ってみたら本性が見えて、こんな人だったんだって思ってその後は友達には戻らなかったけど……そんなものかなって」

「それって………本当に好きだったの?」

「好きだったよ。でも、今考えたらその好きって恋愛的な意味じゃなかったかもね」

恋愛的な意味の好きじゃなかったら、私ってまだ本当の恋をしてきたことがないって事になる。

私はいつ本当の恋を知るんだろうか………


俯いて手元のフラペチーノに視線を向けていると、横から涼ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。
優しく撫でてくれる涼ちゃんの手の温もりで、少し落ち込んだ気持ちも優しく癒された。



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