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10月27日(5)
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第3セットが始まった。
ボールを上げる。それを山野さんがD組のコートに叩き落とす。
試合は一進一退で、どちらが勝ってもおかしくない状況だった。私の我儘で山野さんがボールを追ってまでトスを上げることはなく、私がほぼ上げている。
痛みは増す一方で長引く試合に焦りを感じる。
上がるボールは半分以上はちゃんと上げれているが痛みで上手く上がらなかったボールも多い。
私のせいで取られた点数もたくさんある。
「天城さん!!」
上がったボールの下にいってトスを上げる。
亜紀ちゃんがスパイクを打とうとジャンプをするがタイミングが合わずネットに引っかかった。
もっと私がちゃんと上げていれば………
「ドンマイ亜紀」
「ごめん。亜紀ちゃん」
亜紀ちゃんは不思議そうな顔をする。息が上がっていてはぁっと呼吸を整えている。
「凪沙さん。ごめんなさい…ボール入れられなくて」
「亜紀ちゃんのせいじゃないよ!私がちゃんと上げられてないから……」
私のせいでタイミングが合わなかったんだ……それなのに亜紀ちゃんに謝らせてしまった。
「凪沙!今反省会してる場合じゃないから」
「今は試合に集中しましょう」
ちさきちゃんと山野さんに肩を叩かれて我に帰る。今は試合中……次はちゃんと上げなくちゃいけない。
……
……
……
24-23
点を取られたり取り返したりを繰り返していくうちにマッチポイントまできた。
ズキズキする左手を見ないようにする。どうなってるんだか見るのが怖い……指が上手く曲げられない……
今はまだ第二試合。この後もE組とB組の試合がある。次の試合相手は涼ちゃん達のクラスでお昼休憩後の午後からの試合だから、少し時間があるしその間に指も落ち着くかもしれない。
相手チームからサーブボールが入ってくる。
「はい!!」
寺田さんがレシーブしてくれたボールを力一杯トスする。
――指に痛みが走った。
上がったボールを亜紀ちゃんが狙いを定めて相手コートに打つがあまりスピードもなく、レシーブされトスを上げ力強くA組のコートに返された。ボールが転がる。
転がるボールを目で追った。24-24。マッチポイントからの同点……ここからは二点連続して得点を取った方が勝ち。
苦しくなってきた呼吸を深呼吸をして整えようとする。苦しい……
転がったボールを山野さんが拾い上げ、線の外側に立つ。
アンダーサーブから放たれたボールは相手コート内に落ちていって、流れるようにボールが動いてまた私たちコートに戻ってくる。
山野さんがレシーブしてくれたボールを追いかけて、ボールを迎えるために手を挙げた。
自分の手が視界に入る。
え………
手にぶつかったボールは上がらず落ちていった。
「天城さん!!」
山野さんが駆け寄ってくる。ちさきちゃんや亜紀ちゃん、寺田さん杉本さんもそれにつられて私の周りに集まった。
はぁはぁと息が上がっている。呼吸を抑えてみんなに笑顔を向けた。
「あ、ごめんね。トス上がらなかった……疲れてるのかも」
「凪沙。大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!取り返そう!」
「天城さん……」
「大丈夫だよ。山野さん。ちょっとミスっちゃっただけだから」
私はボールを拾い、笑って山野さんに手渡した。
「取り返そうね!次はちゃんとトス上げるから」
「………」
山野さんはボールを受け取って、サーブを打つ位置に立った。
――山野さんが放ったアンダーサーブはネットに引っかかりコートの中に落ちた……
今日初めて山野さんはサーブでミスをした。
24-26
スコアボードに表示された点数を見る。
呼吸が乱れて苦しい……悔しい……辛い……
「惜しかったね!山野さんもドンマイ!!」
「ごめんなさい!!私がミスしたせいで負けてしまって……」
「それを言うならあたしだってレシーブミスしまくりだって!!次のB組の試合頑張ろうね!凪沙」
「………え!?あ、うん。頑張ろうね」
いつの間にか右手を力強く握りしめて、歯を食いしばっていた。深呼吸をして体の力を抜く。
山野さんが私の前に立った。
「ごめんなさい。私のミスで負けてしまって……」
眉をハの字にして悲しそうな表情で私にいってくる。
本当に?
サーブは本当に山野さんのミスなの?
わざとネットに当たるように打ったんじゃなくて?
私は山野さんをジッと見つめる。でも、山野さんは責められない。
悪いのは全部私だ。
わざとネットに当たるように打ってたとしても、それは山野さんが私の怪我を心配してのことだ。
言ってないし、隠してたとしてもきっと山野さんにはバレているんだろう。
「天城さん。手……見せてください」
山野さんが真剣な表情をした。
私は一瞬ビクッとするけど、平静を装って手を出した。
「急にどうしたの?」
私は笑って手を見せる。額から汗が流れてポタリと垂れ体育館を濡らした。
「……反対の手……左手を見せてください」
左手は私のジャージのポケットの中にしまっている。
腫れ上がった左手を私は試合中に見てしまった。そりゃ、指も曲がらないはずだ……
私は山野さんから視線を逸らした。
見せたくない……見せたらもう終わってしまう。今までみんなで頑張ってきたのを私のせいで……
足が後退り、山野さんから離れようとする。
「天城さん!!」
山野さんの手が私の左腕を掴んだ。
「おいおい。どうした?仲間割れか??」
「大丈夫ですか?」
ちさきちゃんと亜紀ちゃん、寺田さんと杉本さんが集まってくる。
「天城さん。左手……見せてください」
優しい声色でお願いをしてくる山野さんの表情は今にも泣きそうだった。
――私はそっとポケットから左手を出した。
ボールを上げる。それを山野さんがD組のコートに叩き落とす。
試合は一進一退で、どちらが勝ってもおかしくない状況だった。私の我儘で山野さんがボールを追ってまでトスを上げることはなく、私がほぼ上げている。
痛みは増す一方で長引く試合に焦りを感じる。
上がるボールは半分以上はちゃんと上げれているが痛みで上手く上がらなかったボールも多い。
私のせいで取られた点数もたくさんある。
「天城さん!!」
上がったボールの下にいってトスを上げる。
亜紀ちゃんがスパイクを打とうとジャンプをするがタイミングが合わずネットに引っかかった。
もっと私がちゃんと上げていれば………
「ドンマイ亜紀」
「ごめん。亜紀ちゃん」
亜紀ちゃんは不思議そうな顔をする。息が上がっていてはぁっと呼吸を整えている。
「凪沙さん。ごめんなさい…ボール入れられなくて」
「亜紀ちゃんのせいじゃないよ!私がちゃんと上げられてないから……」
私のせいでタイミングが合わなかったんだ……それなのに亜紀ちゃんに謝らせてしまった。
「凪沙!今反省会してる場合じゃないから」
「今は試合に集中しましょう」
ちさきちゃんと山野さんに肩を叩かれて我に帰る。今は試合中……次はちゃんと上げなくちゃいけない。
……
……
……
24-23
点を取られたり取り返したりを繰り返していくうちにマッチポイントまできた。
ズキズキする左手を見ないようにする。どうなってるんだか見るのが怖い……指が上手く曲げられない……
今はまだ第二試合。この後もE組とB組の試合がある。次の試合相手は涼ちゃん達のクラスでお昼休憩後の午後からの試合だから、少し時間があるしその間に指も落ち着くかもしれない。
相手チームからサーブボールが入ってくる。
「はい!!」
寺田さんがレシーブしてくれたボールを力一杯トスする。
――指に痛みが走った。
上がったボールを亜紀ちゃんが狙いを定めて相手コートに打つがあまりスピードもなく、レシーブされトスを上げ力強くA組のコートに返された。ボールが転がる。
転がるボールを目で追った。24-24。マッチポイントからの同点……ここからは二点連続して得点を取った方が勝ち。
苦しくなってきた呼吸を深呼吸をして整えようとする。苦しい……
転がったボールを山野さんが拾い上げ、線の外側に立つ。
アンダーサーブから放たれたボールは相手コート内に落ちていって、流れるようにボールが動いてまた私たちコートに戻ってくる。
山野さんがレシーブしてくれたボールを追いかけて、ボールを迎えるために手を挙げた。
自分の手が視界に入る。
え………
手にぶつかったボールは上がらず落ちていった。
「天城さん!!」
山野さんが駆け寄ってくる。ちさきちゃんや亜紀ちゃん、寺田さん杉本さんもそれにつられて私の周りに集まった。
はぁはぁと息が上がっている。呼吸を抑えてみんなに笑顔を向けた。
「あ、ごめんね。トス上がらなかった……疲れてるのかも」
「凪沙。大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!取り返そう!」
「天城さん……」
「大丈夫だよ。山野さん。ちょっとミスっちゃっただけだから」
私はボールを拾い、笑って山野さんに手渡した。
「取り返そうね!次はちゃんとトス上げるから」
「………」
山野さんはボールを受け取って、サーブを打つ位置に立った。
――山野さんが放ったアンダーサーブはネットに引っかかりコートの中に落ちた……
今日初めて山野さんはサーブでミスをした。
24-26
スコアボードに表示された点数を見る。
呼吸が乱れて苦しい……悔しい……辛い……
「惜しかったね!山野さんもドンマイ!!」
「ごめんなさい!!私がミスしたせいで負けてしまって……」
「それを言うならあたしだってレシーブミスしまくりだって!!次のB組の試合頑張ろうね!凪沙」
「………え!?あ、うん。頑張ろうね」
いつの間にか右手を力強く握りしめて、歯を食いしばっていた。深呼吸をして体の力を抜く。
山野さんが私の前に立った。
「ごめんなさい。私のミスで負けてしまって……」
眉をハの字にして悲しそうな表情で私にいってくる。
本当に?
サーブは本当に山野さんのミスなの?
わざとネットに当たるように打ったんじゃなくて?
私は山野さんをジッと見つめる。でも、山野さんは責められない。
悪いのは全部私だ。
わざとネットに当たるように打ってたとしても、それは山野さんが私の怪我を心配してのことだ。
言ってないし、隠してたとしてもきっと山野さんにはバレているんだろう。
「天城さん。手……見せてください」
山野さんが真剣な表情をした。
私は一瞬ビクッとするけど、平静を装って手を出した。
「急にどうしたの?」
私は笑って手を見せる。額から汗が流れてポタリと垂れ体育館を濡らした。
「……反対の手……左手を見せてください」
左手は私のジャージのポケットの中にしまっている。
腫れ上がった左手を私は試合中に見てしまった。そりゃ、指も曲がらないはずだ……
私は山野さんから視線を逸らした。
見せたくない……見せたらもう終わってしまう。今までみんなで頑張ってきたのを私のせいで……
足が後退り、山野さんから離れようとする。
「天城さん!!」
山野さんの手が私の左腕を掴んだ。
「おいおい。どうした?仲間割れか??」
「大丈夫ですか?」
ちさきちゃんと亜紀ちゃん、寺田さんと杉本さんが集まってくる。
「天城さん。左手……見せてください」
優しい声色でお願いをしてくる山野さんの表情は今にも泣きそうだった。
――私はそっとポケットから左手を出した。
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