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10月27日(1)
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朝、学校の制服に着替えた私は左手に付けられた湿布をとった。
腫れは引いていないけど、パッと見では多分気付かれることはない。
手をグーパーグーパーして少し痛みがあるけど、このくらいなら我慢できる。
今日は球技大会当日。練習してきた成果を出せる時。今日が1番がんばる時だ。
賑わう教室に入ると私の席の前にはジャージに着替えたちさきちゃんと亜紀ちゃんが話していた。
「ちさきちゃん、亜紀ちゃん。おはよー今日は2人とも早いね?」
「おはよう。凪沙さん」
「お、おはよー。今日はたまたま早かったんだよ。亜紀が迎えにきてさ」
「そうなんだ」
机にカバンを置いてジャージを取り出した。
球技大会は全学年ではなく2年生のみで一日かけて行われる、朝体育館に集まって開会式が行われて、それぞれの場所で試合が行われていく。試合順は開会式の時に大きく張り出されて時間になったら集まって試合をする形だ。
「凪沙さん。大丈夫?」
「え!?」
ドキッとする。
亜紀ちゃんが私を伺うように聞いてきた。
「な、何が?」
「なんかいつもより元気ない?」
「確かに。何かあったのか?」
「何もないよぉー。いつも通り元気だよ?球技大会頑張ろうね!」
ジャージに着替えながらいつものように振る舞う。
みんなで頑張って練習してきたんだから……
SHRが終わるとゾロゾロと体育館に移動していく。
「他の学年が授業中にこうやって廊下を喋りながら歩くのって優越感あるよな」
「ちさき、球技大会も立派な授業の一環だよ」
「そうだよ!ちさきちゃん。1日体育の授業みたいなものだよ」
「一日体育とかそれはそれでいやだな」
3人で体育館に向かって歩いていると、どこからか走ってくる音が聞こえてきた。
「凪沙ちゃーーん!おはよーー!!今日もポニーテール可愛いね!写真撮っていい?あ!携帯カバンの中だった!」
「結ちゃんおはよ。朝から元気だね。でも、一応今授業中だから静かにしなきゃダメだよ」
廊下を駆け抜けて私の隣に並んだ結ちゃんは短い髪を結んで今日はおでこを出してニコニコと楽しそうにしている。
「あ、ごめんなさい。凪沙ちゃんに会えて嬉しくて。あ、ちさきちゃんと亜紀ちゃんもおはよ!」
「おはよ。悠木涼は?」
「涼くんならホラ」
結ちゃんは走ってきた方向に指を差した。
差した方を見ると女の子に囲まれた涼ちゃんがいた。
「あー。朝からモテモテだねー」
「そうなんだよ!球技大会だから観にくるって女の子がたくさんいて、朝から色んなクラスの女子が涼くんを囲んでるんだよ」
涼ちゃんのモテモテっぷりを初めて観た気がする。
いや、多分今までは気にしたことがなかったから気付いてないだけだったかもしれない。
そんな涼ちゃんを4人で見ていると、不意に涼ちゃんがこっちを向いた。
パチっと目が合って、今まで周りの子達と話していた笑顔をA4ランクの和牛からA5ランクの和牛にワンランク上げたような笑顔になった。そこまでくると味の違いなんてわからないですが……
「ちょっと、ごめんね」
涼ちゃんは周りにいる子達に断りを入れて、こっちに駆け寄ってくる。
「凪沙!おはよう」
「おはよう涼ちゃん。大丈夫なの?」
「ん?」
「さっきまで話してた人たち……」
なんだかすごく見られてる気がするんだけど……睨まれてる!?
不穏なオーラが背中から出ているような……
「大丈夫大丈夫!一緒に体育館行こ!」
気にした様子もなく涼ちゃんは私の隣に並んだ。
大丈夫!?あとで、ナイフとか向けられたりしないよね!?
「おい!こら!悠木涼!」
涼ちゃんが割って入るまでは私の隣にいた、ちさきちゃんが涼ちゃんにナイフを向けるように睨んでいる。
「あ、高坂もいたんだ。おはよう。東雲もおはよう」
「涼さんおはよう」
「わざとだろ!故意に視界に入れてなかったな!?」
「え?そんな事ないよ?」
涼ちゃんは持ち前のポテンシャルで見えないナイフを華麗に交わした。
「悠木涼の事認めたわけじゃないからな!!」
「そうなの?でも、あれ以上話すこともないんだけど…」
「ちさき。涼さんと何かあったの?」
「………」
「高坂にトイレに連れ込まれたんだよ」
「トイレじゃない!!」
一体何の話をしているんだろうか……詳しく話を聞こうか迷っていると隣にいた結ちゃんに腕を掴まれた。
「凪沙ちゃん先に行こ」
結ちゃんが私の腕を引っ張って体育館へと導いていく。
「あ、結!また先に行くなって!!」
「悠木涼!!」
そんな球技大会でみんなが浮き足だってわちゃわちゃと体育館に集まっていく。
長い長い開会式が終わって、試合順が貼り出された。
数カ所に分かれて同じ試合順の紙が貼られた、そのうちの一ヶ所に私達は集まった。
「これは…やばそうっすね」
寺田さんが呟いた。
「ズルじゃんこれ」
「ダメっていうルールはないですからね」
山野さんがちさきちゃんに言うけど、山野さんも険しい表情をしている。
私は貼り出されている紙を眺めた。
最初の対戦相手はC組。メンバーは半数が現役のバレー部員で占めていた。
「C組は手強そうだけど、みんなで練習してきたんだから頑張ろうね!」
ここまでみんなで頑張ってきたんだから…最初から弱気で挑むより、全力で挑んで負けた方が終わった後の気持ちが大分違うと思う。
「確かに凪沙の言う通りだな。今日まで練習してきたんだから当たって砕けろってことか」
「砕けたくはないですけど!バレーはチームプレーなんですから私たちのチームワークで勝てるかもしれませんよ!?」
弱気になっていたメンバーも少しやる気を取り戻した。
バレーチームが決まった時のように全員でえいえいおー!とみんなで拳をつき上げた。
第一試合が始まろうとしている。
準備体操もそこそこにみんなでコートに集まった。
腫れは引いていないけど、パッと見では多分気付かれることはない。
手をグーパーグーパーして少し痛みがあるけど、このくらいなら我慢できる。
今日は球技大会当日。練習してきた成果を出せる時。今日が1番がんばる時だ。
賑わう教室に入ると私の席の前にはジャージに着替えたちさきちゃんと亜紀ちゃんが話していた。
「ちさきちゃん、亜紀ちゃん。おはよー今日は2人とも早いね?」
「おはよう。凪沙さん」
「お、おはよー。今日はたまたま早かったんだよ。亜紀が迎えにきてさ」
「そうなんだ」
机にカバンを置いてジャージを取り出した。
球技大会は全学年ではなく2年生のみで一日かけて行われる、朝体育館に集まって開会式が行われて、それぞれの場所で試合が行われていく。試合順は開会式の時に大きく張り出されて時間になったら集まって試合をする形だ。
「凪沙さん。大丈夫?」
「え!?」
ドキッとする。
亜紀ちゃんが私を伺うように聞いてきた。
「な、何が?」
「なんかいつもより元気ない?」
「確かに。何かあったのか?」
「何もないよぉー。いつも通り元気だよ?球技大会頑張ろうね!」
ジャージに着替えながらいつものように振る舞う。
みんなで頑張って練習してきたんだから……
SHRが終わるとゾロゾロと体育館に移動していく。
「他の学年が授業中にこうやって廊下を喋りながら歩くのって優越感あるよな」
「ちさき、球技大会も立派な授業の一環だよ」
「そうだよ!ちさきちゃん。1日体育の授業みたいなものだよ」
「一日体育とかそれはそれでいやだな」
3人で体育館に向かって歩いていると、どこからか走ってくる音が聞こえてきた。
「凪沙ちゃーーん!おはよーー!!今日もポニーテール可愛いね!写真撮っていい?あ!携帯カバンの中だった!」
「結ちゃんおはよ。朝から元気だね。でも、一応今授業中だから静かにしなきゃダメだよ」
廊下を駆け抜けて私の隣に並んだ結ちゃんは短い髪を結んで今日はおでこを出してニコニコと楽しそうにしている。
「あ、ごめんなさい。凪沙ちゃんに会えて嬉しくて。あ、ちさきちゃんと亜紀ちゃんもおはよ!」
「おはよ。悠木涼は?」
「涼くんならホラ」
結ちゃんは走ってきた方向に指を差した。
差した方を見ると女の子に囲まれた涼ちゃんがいた。
「あー。朝からモテモテだねー」
「そうなんだよ!球技大会だから観にくるって女の子がたくさんいて、朝から色んなクラスの女子が涼くんを囲んでるんだよ」
涼ちゃんのモテモテっぷりを初めて観た気がする。
いや、多分今までは気にしたことがなかったから気付いてないだけだったかもしれない。
そんな涼ちゃんを4人で見ていると、不意に涼ちゃんがこっちを向いた。
パチっと目が合って、今まで周りの子達と話していた笑顔をA4ランクの和牛からA5ランクの和牛にワンランク上げたような笑顔になった。そこまでくると味の違いなんてわからないですが……
「ちょっと、ごめんね」
涼ちゃんは周りにいる子達に断りを入れて、こっちに駆け寄ってくる。
「凪沙!おはよう」
「おはよう涼ちゃん。大丈夫なの?」
「ん?」
「さっきまで話してた人たち……」
なんだかすごく見られてる気がするんだけど……睨まれてる!?
不穏なオーラが背中から出ているような……
「大丈夫大丈夫!一緒に体育館行こ!」
気にした様子もなく涼ちゃんは私の隣に並んだ。
大丈夫!?あとで、ナイフとか向けられたりしないよね!?
「おい!こら!悠木涼!」
涼ちゃんが割って入るまでは私の隣にいた、ちさきちゃんが涼ちゃんにナイフを向けるように睨んでいる。
「あ、高坂もいたんだ。おはよう。東雲もおはよう」
「涼さんおはよう」
「わざとだろ!故意に視界に入れてなかったな!?」
「え?そんな事ないよ?」
涼ちゃんは持ち前のポテンシャルで見えないナイフを華麗に交わした。
「悠木涼の事認めたわけじゃないからな!!」
「そうなの?でも、あれ以上話すこともないんだけど…」
「ちさき。涼さんと何かあったの?」
「………」
「高坂にトイレに連れ込まれたんだよ」
「トイレじゃない!!」
一体何の話をしているんだろうか……詳しく話を聞こうか迷っていると隣にいた結ちゃんに腕を掴まれた。
「凪沙ちゃん先に行こ」
結ちゃんが私の腕を引っ張って体育館へと導いていく。
「あ、結!また先に行くなって!!」
「悠木涼!!」
そんな球技大会でみんなが浮き足だってわちゃわちゃと体育館に集まっていく。
長い長い開会式が終わって、試合順が貼り出された。
数カ所に分かれて同じ試合順の紙が貼られた、そのうちの一ヶ所に私達は集まった。
「これは…やばそうっすね」
寺田さんが呟いた。
「ズルじゃんこれ」
「ダメっていうルールはないですからね」
山野さんがちさきちゃんに言うけど、山野さんも険しい表情をしている。
私は貼り出されている紙を眺めた。
最初の対戦相手はC組。メンバーは半数が現役のバレー部員で占めていた。
「C組は手強そうだけど、みんなで練習してきたんだから頑張ろうね!」
ここまでみんなで頑張ってきたんだから…最初から弱気で挑むより、全力で挑んで負けた方が終わった後の気持ちが大分違うと思う。
「確かに凪沙の言う通りだな。今日まで練習してきたんだから当たって砕けろってことか」
「砕けたくはないですけど!バレーはチームプレーなんですから私たちのチームワークで勝てるかもしれませんよ!?」
弱気になっていたメンバーも少しやる気を取り戻した。
バレーチームが決まった時のように全員でえいえいおー!とみんなで拳をつき上げた。
第一試合が始まろうとしている。
準備体操もそこそこにみんなでコートに集まった。
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