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10月14日(1)

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私は帰ってきてから制服姿のまま自分の部屋のベッドの上に横になっていた。

『頑張るだけ無駄』

そう涼ちゃんは言った。
少しは涼ちゃんの事を知れたと思えた。まだまだ知らない事はたくさんあってこれからたくさん知っていくこともあるだろうけど、でも頑張るだけ無駄だなんて

「思ってほしくないな――」

その日は寝るまで涼ちゃんについて考えていた。



今日はやけに天気が良くこれは秋晴れというやつなのだろうか。秋といえど女子のソフトボール、男子のサッカーが外でって言うのは日中はまだ暑そうだ。開けられた扉の外で集まるTシャツ短パン率の高いクラスのみんなを見た。
とても日に焼けそうだ。上下長袖ジャージの私はチャックを上までキュッと閉めた。

球技大会のチーム分けが決まって次の体育から球技大会に向けた練習が始まった。体育の授業は隣のクラス(B組)と合同で行われて隣のクラスは涼ちゃんと結ちゃんがいる。上下長袖ジャージの涼ちゃんと一緒にTシャツ短パンの結ちゃんが嬉しそうにこちらに手を振っていたので振り返した。2人ともどうやらバレーボールチームみたいで体育館に集まっていた。体育館は半分は男子のバスケで使用されて、もう半分が女子のバレーボールで使われる。体育館中央にはネットで仕切りがされていた。

準備体操が終わるとすらっとした体型でスポーツマンな川上せつこ先生(せっちゃん先生)が「チーム毎に分かれて練習はじめてー授業後半は試合しまーす」と言う合図とともにコートの半分に私たちのクラスが集まった。私たち3人と山野さんと寺田さんと杉本さんの仲良し3人組の人たちがこのクラスのバレーボールチームだ。

Tシャツに長ズボンで今は明るい髪をポニーテールに結んでいるちさきちゃんが器用に片手でボールをポーンポーンと上げながら質問をしてくる。

「バレー経験者の人っているの?」

もちろん私は授業でバレーをしたことがある程度の素人なので首を振って黙っていると仲良し3人組のひとり山野さんが「私一応中学でバレー部だったよ」と答えていた。他の人たちはやってないみたいで経験者が1人いるだけでも心強いなって思う。ちさきちゃんもどうやら同じ事を思っていたみたいで

「それは心強いね!じゃぁ、山野さんがリーダーって事でいい?」

山野さんをバレーボールチームのリーダーに任命していた。他の人たちも頷いたりして、もちろん私も異論はない「いいよぉ」と賛同を示す。

「他に経験者がいないんだったら、わかった!がんばるね!」

山野さんは胸元に片手で拳を握っていてやる気が出ているみたいだった。私も山野さんに頑張ろうねっと一緒に拳を握ってやる気を出した。照れたように笑った山野さんは「天城さんのために頑張ります!」と両手で拳をギュッとしてさらに真剣さが増して、私のためじゃなくてクラスのみんなのために頑張ろうねとは言えなかった。

まずはトス練習をしましょう!という指示のもと2人ずつに分かれて練習を始めた。自然と別れた配置で私は亜紀ちゃんとトス練習を始める。

両手で放たれる軌道は狙った位置とは違う方向にいったりして安定したトス練習にはならなくて、レシーブなんてどこか別の方向に飛んでいってしまう。それを亜紀ちゃんが器用に返してくれるのでなんとかボールを落とさずに続けられている。隣のコートを見ると涼ちゃんと結ちゃんが楽しげにボールを打ち返していて運動部との実力の差を感じてしまった。

バスケ部だから同じ球技のバレーも上手いんだなぁ。なんて思っていると隣で練習していた寺田さんとちさきちゃん側から「あ、ごめん」と聞こえた。
寺田さんが強く打ち返してしまったらしく体育館中央に張られたネットの方向にボールが転がっていってちさきちゃんが取りに向かっていた。そんなよそ見ばかりしていた私も気づいた時にはボールが目の前にあって咄嗟にレシーブをしたら思ったより強く打ってしまって、ちさきちゃんの方に飛んでいってしまった。
亜紀ちゃんが追いかけていって、ちさきちゃんがボールを拾い上げてくれる。

「ごめんねぇ!」
両手を合わせて2人に謝る。気を引き締めてちゃんと練習しないとなぁなんて亜紀ちゃんの方を見ていると、2人が戯れあっていた。ほんとに2人は仲が良い、最近はちさきちゃんが振り回されてるような印象だけど幼馴染って良いなって羨ましく思う。

もうすぐ練習時間も終わりに近づいてきた頃、視線を感じて隣のコートを見ると涼ちゃんが手招きしていた。亜紀ちゃんに「ちょっと行ってくるね」と断りを入れてから涼ちゃんの方へ向かう。

「あれ?結ちゃんは?」

見ると一緒に練習していたはずの結ちゃんがいなかった。

「お花を摘みに行っててさ。それで…ちょっと昨日の事で謝りたくて…」

昨日の事?何に対して謝りたいんだろう?謝ることなんてあったかな?

「帰り際にさ。変な事言っちゃったから空気悪くしちゃったなって思って…ごめんね。気にしなくていいから」

申し訳なさそうに眉を下げて涼ちゃんは昨日の事を謝ってきた。確かに気にはなったしちょっと変な空気にはなっちゃったけど謝るような事ではないし私はできるだけ明るく答えた。

「ううん。大丈夫だよ。涼ちゃんが謝るような事じゃないから」
「ホントごめんね。今日もバイト?お店行くからさまた駅まで送らせてよ。昨日のお詫びも兼ねて」
「バイトだけど、昨日のことはホント大丈夫だから涼ちゃんも気にしないでね」

涼ちゃんがにこやかに笑ってちょっと安堵したようだった。

「それじゃ、練習試合始めるから集まってー」

先生の方にみんなが集まっていく。結ちゃんも走って戻ってきた。と思ったら私を見つけて速度をあげ全力疾走してきた。びびる…

「凪沙ちゃん!え?涼くんとお話ししてたの?え?涼くん抜け駆け??」
「そんなんじゃないよ」

私の側までやってきた結ちゃんは隣にいた涼ちゃんに詰め寄っていた。涼ちゃんも勢いに押されつつ3人でせっちゃん先生のところに集まる。

半円状に集まった生徒たちに向けてせっちゃん先生が試合の説明を始めた。奥の方ではちさきちゃんたちが集まっていて、私は気付けば隣のクラスの人たちと混ざっていて今だけB組気分を味わっていた。

「凪沙ちゃんが同じクラスだったら良かったのになぁ」

右隣にいる結ちゃんは私を見つめながら小声で話しかけてくる。

「そしたら授業中も隠し撮りされちゃう感じなの?」

バシャシャシャシャシャ……という連写音を響かせながら受ける授業を想像してクスッと笑ってしまった。

「凪沙ちゃんやっぱり可愛い…今携帯持ってないのが悔しい」
「結ちゃんは可愛い可愛い言い過ぎじゃない?」
「いや!一年の頃から思ってた!隣のクラスだったのでお近づきになれる機会がなくてこうやって話せるようになってマジで嬉しい!涼くんに感謝!」
「別に私に感謝されるようなことないけど…」

せっちゃん先生の話を聞きながら小声で会話していると急に『だからダメだって!!』と言うちさきちゃんの声がして見ると、亜紀ちゃんとちさきちゃんが見つめあって固まっていた。きっと亜紀ちゃんがちさきちゃんに何かしたんだろうなってクスクス笑ってしまった。
右隣にいる涼ちゃんも「あの2人何してるの?」と言って笑っていてせっちゃん先生は「東雲亜紀、高坂ちさき授業終了後の片付けよろしくなー」と2人に罰当番を普段より何段階も低いトーンで言って更に笑った。

A組対B組の練習試合は見事惨敗に終わった。強すぎるでしょ…特にバスケ部2人は身長も高いしジャンプも高くってそんな場所から放たれるアタックは山野さん以外拾える人がいなかった。山野さんも頑張ってはくれてたけど流石に全部のアタックを拾えるわけもなく…拾えてもその後みんなで相手コートに返すのが精一杯だった。
球技大会で優勝するにはB組の最強タッグを倒せるくらいの練習をしなきゃいけないなんって…かなり険しい道のりになりそうだけど私は頑張ろうと思う。
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