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第三章 未定
第四話 孤児院(3)
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「まずここが礼拝堂って私達が呼んでる場所。この孤児院は表向きは教会の慈善事業ってことになってるわ」
「……教会……? この世界にはキリスト教があるんですか?」
「キリストではないけど宗教はあるわ。私も詳しくは知らないけどね」
そう言って彼女は俺の手を引いて礼拝堂を抜ける。
「いい匂い……」
うっすらとだが、ビーフシチューのような香りが俺の鼻腔を擽った。どうやら、少し先にある室内から漂ってきているらしいその匂いは、何も口にしてなかった俺の食欲を刺激してくる。
「ふふ、わかる? 今、晩御飯の準備をしているの。確か今日の当番はーー」
「こらああああああ! まてええええええええええ!!」
「?!」
突如、肉を加えた犬みたいな動物とおたまを持ってその動物を追いかける少女が飛び出してくる。
「こらこら、ここは走ったらダメよ」
「あっ! 優子姉ッ!」
まるで生活指導の教師に見つかったような表情をして、真っ赤な髪をツインテールに結った少女は立ち止まった。
「だってあのくそ犬がアタシがせっかく用意した肉を取ったんだよ! って早く取り返さないとーー」
「待ちなさい」
優子さんの短い言葉に、駆ける犬を追おうと再び走りだした少女がピタリと止まる。それを流し目で確認した犬は今が好機とばかりに最奥にある扉へ消えていった。
「……なんで止めるのさ?」
不服そうな表情を浮かべてこちらを振り向いた彼女の瞳は、まるで爬虫類のように瞳孔が細くなっていて、頬の下辺りには薄く鱗の様な物が生えていた。
「ついて来なさい」
そう言って優子さんは彼女と僕の手を引くと、犬が消えていった扉を開く。
「「あっ……」」
そこには、小さな子供に肉を与える犬の姿があった。
「あなたは当番をサボって鍛練ばかりして気づかなかったみたいだけど、最近ここらに住み始めたのよ」
「うぅ……ごめんなさい…………」
しゅんとツインテールを垂らして項垂れる少女。
「謝らなくてもいいわよ、怒ってないから。あ、でも罰として彩ちゃんにここを紹介してあげて」
「はあ!? でもアタシには料理当番がーー」
「私が変わるわ。なんだか漂ってくる匂いが焦げ臭くなってきたし……どうせ強火で一気にやろうとか思ってたんでしょ 」
ギクリ
ツインテールが大きく跳ねる。……分かりやすい子だなこの子は。
「じゃ、お願いね」と厨房と思われる場所へ入っていく優子さん。
「えっと……とりあえずよろしくなのか……?」
ぎこちない笑みを浮かべて、俺を見てくる少女。
「…………よろしくお願いします」
小さく微笑んで、俺も挨拶を返す。
「ああいいっていいってため口で。アタシそんな堅苦しいのは嫌いだから!」
それに対し、ニカッと人懐こい笑みを浮かべた彼女は俺の背中をバンバンと叩く。
「えっと、彩って言ったっけ? アタシの名前はドラ子。竜の魔法少女だ! あっ、でも優子姉の前では本名の竜子って呼んでくれよな……あの人、魔法少女の名前で呼ぶと、すげえ怒るから」
「……優子さんは魔法少女が嫌いなんですか?」
先程から抱いていた疑問を投げ掛けると、ドラ子はうんうんと頷きながら言った。
「そうなんだよ。基本的に自分は絶対に変身しないし、変身端末を開こうともしないんだ。メープルを見たら凄い形相で殺そうとするし……まあ、悪い人じゃないんだけどなッ!」
「へえ……そうなんですか……」
ますます深まる優子さんの謎。なぜあの人は魔法少女であるのに魔法少女が嫌いなのか。
「ってお前元気ねえな? 大丈夫か?」
「!? え、ええ……大丈夫ですよ……」
不思議そうな表情をして俺を覗き込んでくるドラ子に、慌てて言葉を返す。
「だいじょうぶなわけないです」
「!?」
雛葉と呼ばれていた、全身を紫色の魔女服で覆った魔法少女、が現れる。
「雛葉じゃねえか!? てめえ今までどこ行ってたんだよ!」
「べつにどこにいてもいいでしょう。ロンロン、きてください」
ドラ子を無視して俺の手を取る雛葉ちゃん。
「待てよ! 彩の世話はアタシが優子姉からーー」
「あなたはロンロンがどんなめにあったのかしってるんですか?」
「はあ?」
雛葉ちゃんの言葉に首をかしげるドラ子。
「なにもしらないぶがいしゃが、ずけずけとはいりこんでこないでください」
「黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって!」
そういい捨てる雛葉ちゃんに、ドラ子が掴みかかる。だいぶ体格差があったので、雛葉ちゃんの足が宙に浮いた。
「ねーねー、どらこおねーちゃんとひなばおねーちゃん、なにしてるの?」
「「「!?」」」
白い蓬髪をした三歳くらいの女の子が、きょとんとした顔をして俺の足に引っ付く。
「けんかはらめなんらよ? ゆーこおねーちゃががおーなるよ?」
「「「………………」」」
長い沈黙に耐えかねたのか、ドラ子は雛葉ちゃんを地面に降ろす。
「……チッ、いくぞ綾」
「んあ……」
綾と呼ばれていた女の子をドラ子は肩に担ぐと、スタスタとどこかへ消えていく。
「……教会……? この世界にはキリスト教があるんですか?」
「キリストではないけど宗教はあるわ。私も詳しくは知らないけどね」
そう言って彼女は俺の手を引いて礼拝堂を抜ける。
「いい匂い……」
うっすらとだが、ビーフシチューのような香りが俺の鼻腔を擽った。どうやら、少し先にある室内から漂ってきているらしいその匂いは、何も口にしてなかった俺の食欲を刺激してくる。
「ふふ、わかる? 今、晩御飯の準備をしているの。確か今日の当番はーー」
「こらああああああ! まてええええええええええ!!」
「?!」
突如、肉を加えた犬みたいな動物とおたまを持ってその動物を追いかける少女が飛び出してくる。
「こらこら、ここは走ったらダメよ」
「あっ! 優子姉ッ!」
まるで生活指導の教師に見つかったような表情をして、真っ赤な髪をツインテールに結った少女は立ち止まった。
「だってあのくそ犬がアタシがせっかく用意した肉を取ったんだよ! って早く取り返さないとーー」
「待ちなさい」
優子さんの短い言葉に、駆ける犬を追おうと再び走りだした少女がピタリと止まる。それを流し目で確認した犬は今が好機とばかりに最奥にある扉へ消えていった。
「……なんで止めるのさ?」
不服そうな表情を浮かべてこちらを振り向いた彼女の瞳は、まるで爬虫類のように瞳孔が細くなっていて、頬の下辺りには薄く鱗の様な物が生えていた。
「ついて来なさい」
そう言って優子さんは彼女と僕の手を引くと、犬が消えていった扉を開く。
「「あっ……」」
そこには、小さな子供に肉を与える犬の姿があった。
「あなたは当番をサボって鍛練ばかりして気づかなかったみたいだけど、最近ここらに住み始めたのよ」
「うぅ……ごめんなさい…………」
しゅんとツインテールを垂らして項垂れる少女。
「謝らなくてもいいわよ、怒ってないから。あ、でも罰として彩ちゃんにここを紹介してあげて」
「はあ!? でもアタシには料理当番がーー」
「私が変わるわ。なんだか漂ってくる匂いが焦げ臭くなってきたし……どうせ強火で一気にやろうとか思ってたんでしょ 」
ギクリ
ツインテールが大きく跳ねる。……分かりやすい子だなこの子は。
「じゃ、お願いね」と厨房と思われる場所へ入っていく優子さん。
「えっと……とりあえずよろしくなのか……?」
ぎこちない笑みを浮かべて、俺を見てくる少女。
「…………よろしくお願いします」
小さく微笑んで、俺も挨拶を返す。
「ああいいっていいってため口で。アタシそんな堅苦しいのは嫌いだから!」
それに対し、ニカッと人懐こい笑みを浮かべた彼女は俺の背中をバンバンと叩く。
「えっと、彩って言ったっけ? アタシの名前はドラ子。竜の魔法少女だ! あっ、でも優子姉の前では本名の竜子って呼んでくれよな……あの人、魔法少女の名前で呼ぶと、すげえ怒るから」
「……優子さんは魔法少女が嫌いなんですか?」
先程から抱いていた疑問を投げ掛けると、ドラ子はうんうんと頷きながら言った。
「そうなんだよ。基本的に自分は絶対に変身しないし、変身端末を開こうともしないんだ。メープルを見たら凄い形相で殺そうとするし……まあ、悪い人じゃないんだけどなッ!」
「へえ……そうなんですか……」
ますます深まる優子さんの謎。なぜあの人は魔法少女であるのに魔法少女が嫌いなのか。
「ってお前元気ねえな? 大丈夫か?」
「!? え、ええ……大丈夫ですよ……」
不思議そうな表情をして俺を覗き込んでくるドラ子に、慌てて言葉を返す。
「だいじょうぶなわけないです」
「!?」
雛葉と呼ばれていた、全身を紫色の魔女服で覆った魔法少女、が現れる。
「雛葉じゃねえか!? てめえ今までどこ行ってたんだよ!」
「べつにどこにいてもいいでしょう。ロンロン、きてください」
ドラ子を無視して俺の手を取る雛葉ちゃん。
「待てよ! 彩の世話はアタシが優子姉からーー」
「あなたはロンロンがどんなめにあったのかしってるんですか?」
「はあ?」
雛葉ちゃんの言葉に首をかしげるドラ子。
「なにもしらないぶがいしゃが、ずけずけとはいりこんでこないでください」
「黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって!」
そういい捨てる雛葉ちゃんに、ドラ子が掴みかかる。だいぶ体格差があったので、雛葉ちゃんの足が宙に浮いた。
「ねーねー、どらこおねーちゃんとひなばおねーちゃん、なにしてるの?」
「「「!?」」」
白い蓬髪をした三歳くらいの女の子が、きょとんとした顔をして俺の足に引っ付く。
「けんかはらめなんらよ? ゆーこおねーちゃががおーなるよ?」
「「「………………」」」
長い沈黙に耐えかねたのか、ドラ子は雛葉ちゃんを地面に降ろす。
「……チッ、いくぞ綾」
「んあ……」
綾と呼ばれていた女の子をドラ子は肩に担ぐと、スタスタとどこかへ消えていく。
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