2 / 2
.
しおりを挟む
小太郎が生を受けたのは1854年安政元年だった。
その頃、年号が変わる前の嘉永7年に日米和親条約が締結した年だ。
年号が嘉永から安政に変わってから、江戸で小太郎が生まれた。
その頃の江戸後期は、慌ただしく変わっていく時代の中で、武士の家の子供は、大人達が交わす物騒な世の中の心配事も、子供なりに案じてはいたが、何処か他人事で自分達の身の上に降り掛かるなんて思わなかった。
1864年元治元年、世間は新撰組の池田屋事件、蛤御門の変、度重なる事件の最中に小太郎は10歳の頃、父が過激派の志士達の手により討たれた。
それを教えてくたのは、その場で難を逃れた父の仕事仲間であり同志だった。
難を逃れた同志を助けたのは、偶々江戸に隊士募集の為に来ていた新撰組だった。
あくる日、仕事仲間から訃報を聞いた母は倒れた。そのまま寝たきりになり、住んでいた家も追い出され、狭い長屋住まいになった。
父の親族と母は折り合いが悪く、そして、母の親も亡くなったばかりで、母の味方はいなかった。だから、寝たきりになった母を助ける様な親族は1人もいない。
(‥父上‥。父上‥。)
辛い時に、父を思い出す小太郎に手を差し伸べる者はいない。
(私が、父上の仇を討ちます。だから、父上見ていてください。)
そんな小太郎を病床に臥せっている母は心配していた。
いつか、子供が何処か遠くへ消えてしまうのではないか。自身の病が治ればどうにか子の哀しみを癒せる筈なのに、自身の不甲斐なさで泣きたくなる。
だから、布団の中で何時も子に言い聞かせた。
「小太郎や、仇討ちなど考えるでないぞ。」
「母上、何を仰いますか。此れは父の名誉の為ですぞ。私は剣の稽古をして立派な侍になり、父上を斬った男を見つけて成敗しますぞ!」
息を巻いて話す小太郎に、でも、と母は心配そうにする。
「母上、今はこんな長屋住まいですが、私が新撰組に入れる様になり、俸禄がもらえる様になれば、少しは良い暮らしもできましょう!そして、父上の仇を討ち、断罪するべき悪を全て懲らしめるのです!」
小太郎が決意に満ちた瞳で熱く語る。それを母が静かに静止をかける。
「仇討ち等しても良い事等なりませぬ。静かに暮らすべきなのです。」
「如何してですか!それでは哀しみだけを背負って行けというのですか!?」
嫌々と駄々をこねる様に胸の内から叫ぶ。父を殺された。それは子供心に深く傷を負い闇が出来る。その闇が膿の様になり、心に広がりを見せる。その闇はいつか自身をも傷付けるであろう。きっといつか後悔する。それを小太郎自身も分かってはいた。母の心配も分かっている。それでも何もしないのも許せない。だから、小太郎は決意した。自分と同じ目に合う者を、少しでも減らす為にも悪を斬る。その決意は固いものになっていた。
その頃、年号が変わる前の嘉永7年に日米和親条約が締結した年だ。
年号が嘉永から安政に変わってから、江戸で小太郎が生まれた。
その頃の江戸後期は、慌ただしく変わっていく時代の中で、武士の家の子供は、大人達が交わす物騒な世の中の心配事も、子供なりに案じてはいたが、何処か他人事で自分達の身の上に降り掛かるなんて思わなかった。
1864年元治元年、世間は新撰組の池田屋事件、蛤御門の変、度重なる事件の最中に小太郎は10歳の頃、父が過激派の志士達の手により討たれた。
それを教えてくたのは、その場で難を逃れた父の仕事仲間であり同志だった。
難を逃れた同志を助けたのは、偶々江戸に隊士募集の為に来ていた新撰組だった。
あくる日、仕事仲間から訃報を聞いた母は倒れた。そのまま寝たきりになり、住んでいた家も追い出され、狭い長屋住まいになった。
父の親族と母は折り合いが悪く、そして、母の親も亡くなったばかりで、母の味方はいなかった。だから、寝たきりになった母を助ける様な親族は1人もいない。
(‥父上‥。父上‥。)
辛い時に、父を思い出す小太郎に手を差し伸べる者はいない。
(私が、父上の仇を討ちます。だから、父上見ていてください。)
そんな小太郎を病床に臥せっている母は心配していた。
いつか、子供が何処か遠くへ消えてしまうのではないか。自身の病が治ればどうにか子の哀しみを癒せる筈なのに、自身の不甲斐なさで泣きたくなる。
だから、布団の中で何時も子に言い聞かせた。
「小太郎や、仇討ちなど考えるでないぞ。」
「母上、何を仰いますか。此れは父の名誉の為ですぞ。私は剣の稽古をして立派な侍になり、父上を斬った男を見つけて成敗しますぞ!」
息を巻いて話す小太郎に、でも、と母は心配そうにする。
「母上、今はこんな長屋住まいですが、私が新撰組に入れる様になり、俸禄がもらえる様になれば、少しは良い暮らしもできましょう!そして、父上の仇を討ち、断罪するべき悪を全て懲らしめるのです!」
小太郎が決意に満ちた瞳で熱く語る。それを母が静かに静止をかける。
「仇討ち等しても良い事等なりませぬ。静かに暮らすべきなのです。」
「如何してですか!それでは哀しみだけを背負って行けというのですか!?」
嫌々と駄々をこねる様に胸の内から叫ぶ。父を殺された。それは子供心に深く傷を負い闇が出来る。その闇が膿の様になり、心に広がりを見せる。その闇はいつか自身をも傷付けるであろう。きっといつか後悔する。それを小太郎自身も分かってはいた。母の心配も分かっている。それでも何もしないのも許せない。だから、小太郎は決意した。自分と同じ目に合う者を、少しでも減らす為にも悪を斬る。その決意は固いものになっていた。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
100日後に玉砕する島
中七七三
歴史・時代
秘匿名「X島」に配属された指揮官・兵は、その日から100日後に玉砕を経験する。
【参考文献】
「玉砕の島」 佐藤和正
「タラワ」 H・I・ショー
「ペリリュー島戦記」 ジェームズ・H・ハラス
「沖縄シュガーローフの戦い」 ジェームズ・H・ハラス
「地獄のX氏まで米軍戦い、あくまで持久する方法」 兵頭二十八
「英霊の絶叫」 舩坂弘
空蝉
横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。
二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
恋子のいちご日記 / ほぼ毎日20時連載
akemihiyoko
歴史・時代
舞台は1972年の日本。激しかった学生運動が落ち着き始め、高度経済成長期が終わろうとしている時代。
1949年生まれの22才の恋子の日記を小説にしました。
NFTコレクションも販売しております。
https://opensea.io/collection/koiko

壬生狼の戦姫
天羽ヒフミ
歴史・時代
──曰く、新撰組には「壬生狼の戦姫」と言われるほどの強い女性がいたと言う。
土方歳三には最期まで想いを告げられなかった許嫁がいた。名を君菊。幼馴染であり、歳三の良き理解者であった。だが彼女は喧嘩がとんでもなく強く美しい女性だった。そんな彼女にはある秘密があって──?
激動の時代、誠を貫いた新撰組の歴史と土方歳三の愛と人生、そして君菊の人生を描いたおはなし。
参考・引用文献
土方歳三 新撰組の組織者<増補新版>新撰組結成150年
図説 新撰組 横田淳
新撰組・池田屋事件顛末記 冨成博
「磨爪師」~爪紅~
大和撫子
歴史・時代
平安の御代、特殊な家系に生まれた鳳仙花は幼い頃に父親を亡くし、母親に女手一つで育てられた。母親の仕事は、宮中の女房たちに爪のお手入れをすること。やんごとなき者達の爪のお手入れは、優雅で豊かな象徴であると同時に魔除けの意味も兼ねていた。
鳳仙花が八歳の頃から、母親に爪磨術について学び始める。この先、後ろ盾がなくても生きていけるように。
鳳仙花が十二歳となり、裳着の儀式を目前に母親は倒れてしまい……。親の後を継いで藤原定子、そして藤原彰子の専属磨爪師になっていく。
長徳の政変の真相とは? 枕草子の秘めたる夢とは? 道長が栄華を極められたのは何故か? 藤原伊周、隆家、定子や彰子、清少納言、彼らの真の姿とは? そして凄まじい欲望が渦巻く宮中で、鳳仙花は……? 彼女の恋の行方は? 磨爪術の技を武器に藤原定子・彰子に仕え平安貴族社会をひっそりと、されど強かに逞しく生き抜いた平安時代のネイリストの女の物語。
第弐部が5月31日に完結しました。第参部は8月31日よりゆっくりじっくりのペースで進めて参ります。
※当時女子は平均的に見て十二歳から十六歳くらいで裳着の儀式が行われ、結婚の平均年齢もそのくらいだったようです。平均寿命も三十歳前後と言われています。
※当時の美形の基準が現代とものと著しく異なる為、作中では分かり易く現代の美形に描いています。
※また、男性の名は女性と同じように通常は通り名、または役職名で呼ばれ本名では呼ばれませんが、物語の便宜上本名で描く場合が多々ございます。
※物語の便宜上、表現や登場人物の台詞は当時の雰囲気を残しつつ分かり易く現代よりになっております。
※磨爪師の資料があまり残って居ない為、判明している部分と筆者がネイリストだった頃の知識を織り交ぜ、創作しております。
※作中の月日は旧暦です。現代より一、二か月ほどズレがございます。
※作中の年齢は数え歳となっております。
※「中関白家」とは後世でつけられたものですが、お話の便宜上使用させて頂いております。
以上、どうぞ予めご了承下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる