陰と陽

桜 晴樹

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始まり

屋敷内

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目を瞬いたその時、目の前で空間が歪み、森谷達は屋敷内に飛ばされていた。それはほんの一瞬の出来事だった。

「っ?!」

森谷達の目の前には、それを見た者は倒れ発狂する者達がいるであろう、そんな人成らざる異形のモノ達がいた。異形の者達の姿は様々で、動物の顔をした者だったり、頭に角が生えていたり、金魚の形や筆や紙等々‥。様々な魑魅魍魎の類の怪異なモノノ怪達であった。その部屋の中でもざっと見て50体位であろうか。大人数のモノノ怪達が、大広間に集まっていた。そのモノノ怪達の前には、和食の乗った盆があり、モノノ怪達は盃を手に持っている。
その姿はさながら、今から宴会でも始まるかの様だった。
驚いた森谷は、思わず尻餅をついてしまい、隣にいた茨木に縋り付いてしまった。

「っ!‥。」

本来森谷の実家の祓い屋は、出発前に遠くからでも相手を視る事で、前もってあらゆる対策を立てる事が出来る。そしてどんな時でも慎重に行動をする。それがどんな相手であっても怯まず、無理だと思ったら逃げる対策も立てておく。それが望ましい本来の姿ではあるが、森谷は家業の手伝いを少ししかしてこなかった。森谷が出来る事は、悪霊を追い払い、迷える魂を成仏させる事くらいだ。今回も、浮遊霊を祓う位の仕事だろうとしか考えていなかった。だからこそ小遣い欲しさに渋々手伝いに来ただけのようなものだ。それがどうしてこうなった。森谷は後悔した。自身が修行を疎かにしていた。そう今回は、そこが裏目に出た最悪の形だった。そんな風に反省しても遅い。
半人前の森谷には、まだこの仕事は荷が重過ぎた。あとは、どうにかして此処を切り抜けるしか無い。だが、そうはいっても足に力が入らず、未だに茨木にしがみついている。
そんな森谷を見る事もせず、前を向いている茨木も、やはりこの現状を打破する事を考えていた。茨木は、森谷のお守りだ。森谷に何かあった時の為に、幾らか場数を熟している茨木が選ばれた。それは今回の様な場に遭遇した場合も視野に入れてはいた。だが、モノノ怪達の数が想像以上に多過ぎた。後数人程、優秀な祓い師がこの場に居れば、制するか逃げる事が出来たのだが、今この場にいるのは、茨木と震えている森谷の2人しかいない。
万事休す。2人の頭にはその言葉が過った。正にその言葉の示す通り、もはやこの場から逃げ出す事叶わず万策付きた。
そんな2人がどうするべきかを、思案しながらも周りを眺めていたが、モノノ怪達も、やはり急に現れた2人に驚いていた。驚いて盃を持ったまま固まっている。
その姿を見ると、森谷はもしかしたら話し合いが出来るかもしれない。そのように思った矢先の事ー。

ぱん!ぱん!ぱん!

大広間に突如大きな音が響き渡る。
それは入り口にいて2人をこの広間に押し込めた女だった。

「皆々様、今宵はお集まりいただき誠に有り難う御座います。今宵、お集まり頂いたのには訳がありますわ!」

女は、森谷を見てニヤリと笑った。

(っ、なんだこの女‥。)

嫌な予感しかしない。そう森谷は、直感的に思った。

「ふふっ。私は何もしませんよ。ご安心ください。」

にこりと女は笑った。今しがた見せた笑みとは違い、更に訝しむ。が、主導権は彼方にある為に、森谷は何も言えなかった。

「此度は、宴会をより盛り上げる為にある趣向をご用意致しましたの。」

そうして、女が手を上げ振り下ろした時には

「な、なんだこりゃ!?」

森谷も茨木も着物に変わっていた。

「今、我々は現世と常世の中間点にしか存在を許されておりません。それは、我々を封じ込めた一族がいたからですわ!」

そして、女は森谷に手を向けた。

「彼方に居られまするおのこは、我等を封じ込めた一族の末裔でありますわ!」

女が発した瞬間、ザワっと周りが響めいた。
「あいつらが俺等を‥」「彼奴等を倒せば我等の天下ぞ?」「奴等の血と肉で潤せば力が湧くか?」


ーーーーーー殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!!ーーーーー


会場内に響き渡る無数の声。

「っ!!」

殺気立つ会場内。話し合い等出来る筈もなく、それは何時襲い掛かるかもしれない恐怖。


リーーーーーーン・・・・・・。


リーーーーーーン・・・・・・。


リーーーーーーン・・・・・・。


まるで鈴の様な音が鳴り響いた。
茨木が何かを唱え、森谷の腕を掴み立たせ、そうしている間にーー。

その場から2人は消えた。


場が騒然となる。

「ふふっ。逃げられちゃいましたねー!」

女は高く跳ねるとくるっと廻った。廻った女は人の姿ではなく狐の姿になった。
他のモノノ怪達も一様にくるっと廻ったと同時に姿が狐に変わった。

「ふふ、今頃は主人あるじの所でしょうか‥。これからが大変ですよ。ふふふ‥。」

女、いや狐が可笑しそうに笑う。それを見た周りの狐達もクスクスと可笑しそうに笑い出した。

そうして、いつの間にか狐も屋敷も消えて、その場所には空き地しか無くなっていた。

森谷達に依頼した男も外にいた筈なのにいつの間にか姿を消していた。

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