陰と陽

桜 晴樹

文字の大きさ
上 下
2 / 4
始まり

怪しきモノ

しおりを挟む

時間にして2時間は経っていただろうか。

「大変遅くなりすみません!」

中肉中背の30代位の少し草臥れた感じの男性が現れた。車を停めて走ってきた所為か、さらに草臥れた様に映る。

「ん、アンタが依頼人か。」

「はい、児玉健太と言います。本当に遅くなり申し訳御座いません!何度も連絡をしても繋がらなく、ご迷惑をおかけしました。」

「いや、無事ならそれで良い。」

森谷は何となくだが、今回の依頼人が来るのに時間がかかった理由は察しが付いていた。

「ここに来るまでの間‥。」

そうして語り出した依頼人の児玉健太こだまけんたは、待ち合わせ場所に向かう途中で事故に遭遇したらしい。幸い事故は大事に至らなく、近くにいた児玉も怪我はなかった。だが、警察の事情聴取も有り、遅くなる事を直ぐに森谷達に電話を掛けたが、携帯ではダメならと公衆電話からも何度かけても圏外になり繋がらず、そうしているうちに何時もは間違えない道を間違えて彷徨っていた。
森谷達の方も、何度も児玉に連絡をしたが繋がらず、時間だけが経過していた。
そうしている内に、約束していた時間が14時で、今は16時になっていた。
あと1時間もすれば17時になり、俗に云う逢魔が時と呼ばれる時間に差し掛かる。
逢魔が時というのは、夕暮れに現世と常世(あの世)が交わるという時間帯がある。その時間帯は、妖怪や幽霊等怪しい者達が跋扈し、出会う率が一段と高くなる時間帯である。

(あちらさんに呼ばれているという訳か‥。)

面倒臭い‥。そう、独り言ちながら森谷は、茨木と話している児玉を見る。
そんな児玉の周りには、幾つかの影が見えた。その影は、生きているものには見えない。大方事故に遭遇した際に拾ってきたか、元々憑いていたものだろう。そう思うが、森谷は軽くなら払ってやろうと手を伸ばした。

「なあ、」

「あちらに見てもらいたいものがあります。」

森谷の言葉を遮る様にして、児玉が彼方を指し示した。
その方角に目を向けると、今まで気付かないのが不思議な位に今の世に不釣り合いな立派な武家屋敷があった。

「「!?」」

森谷と茨木は、驚きと同時に身構える。

ギィィッ

軋んだ門が開く音がした。

森谷は、懐から数珠と模様の入っている呪符を取り出した。
茨木は、腕に数珠を巻き付け、独鈷杵どっこしょを構える。
お互いに武器を構えた理由は、霊の中には特に強い思念体がいる。それを相手にする時は、最悪のバターンで身体を縛られてしまい、身動きを封じられる。それを恐れての事だ。こちらの力が強ければ跳ね除けられるが、今回相手をするのは、結構強い霊若しくは妖の類いだろう。そうすると、手こずる可能性が高いと判断し、対霊用武器を構えた。

森谷達が構えるのと同時に、武家屋敷から人が現れた。その人は、着物を着た1人の女だった。

「皆々様、ようこそお越しくださいました。」

女は、森谷達に深々と頭を下げ挨拶してきた。

「児玉、御苦労だったね。」

女が手を叩けば、児玉が倒れた。その顔は、まるで生気がないかの様だ。

「「っ!?」」

先ずは、彼の安全を確保する方が先なのだが、下手に動くと相手に隙を与えてしまう。
どうするべきか悩んでいると女が手を口元に当てた。

「ふふっ。別に死んではいませんよ。」

そう妖艶に微笑んだ女の頭には、いつの間にか角が生えている。

「おまえはっ!」

角が生えているという事は、妖の中でもランクが高い鬼だ。
女は、いつの間にか森谷達の目の前まで来ていた。

「ほほっ。そんな無粋なモノを女性に向けてはいけませんよ。」

茨木の手にある独鈷杵を撫でながら女は笑んだ。その笑みは凶悪であり、人を虜にもする不思議な笑みであった。

「さあさあ、お二人とも!あちらにお二人の歓迎会を開いてますよ!お早くしてくださりませ!」

鬼の歓迎会とは、妙な事を云う女は、森谷と茨木の金縛りを解いた。そうして、森谷と茨木はいつの間にか、屋敷の中に放り込まれた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

煩い人

星来香文子
ホラー
陽光学園高学校は、新校舎建設中の間、夜間学校・月光学園の校舎を昼の間借りることになった。 「夜七時以降、陽光学園の生徒は校舎にいてはいけない」という校則があるのにも関わらず、ある一人の女子生徒が忘れ物を取りに行ってしまう。 彼女はそこで、肌も髪も真っ白で、美しい人を見た。 それから彼女は何度も狂ったように夜の学校に出入りするようになり、いつの間にか姿を消したという。 彼女の親友だった美波は、真相を探るため一人、夜間学校に潜入するのだが…… (全7話) ※タイトルは「わずらいびと」と読みます ※カクヨムでも掲載しています

声にならない声の主

山村京二
ホラー
『Elote』に隠された哀しみと狂気の物語 アメリカ・ルイジアナ州の農場に一人の少女の姿。トウモロコシを盗んだのは、飢えを凌ぐためのほんの出来心だった。里子を含めた子供たちと暮らす農場経営者のベビーシッターとなったマリアは、夜な夜な不気味な声が聞こえた気がした。 その声に導かれて経営者夫妻の秘密が明らかになった時、気づいてしまった真実とは。 狂気と哀しみが入り混じった展開に、驚愕のラストが待ち受ける。

ルール

新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。 その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。 主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。 その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。 □第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□ ※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。 ※結構グロいです。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。 ©2022 新菜いに

禁踏区

nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。 そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという…… 隠された道の先に聳える巨大な廃屋。 そこで様々な怪異に遭遇する凛達。 しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた── 都市伝説と呪いの田舎ホラー

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

放浪さんの放浪記

山代裕春
ホラー
閲覧していただきありがとうございます 注意!過激な表現が含まれています 苦手な方はそっとバックしてください 登場人物 放浪さん 明るい性格だが影がある 怪談と番茶とお菓子が大好き 嫌いなものは、家族(特に母親)

バベルの塔の上で

三石成
ホラー
 一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。  友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。  その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。

フランソワーズの耳

猫又
ホラー
主婦、有明伽耶子、ある日突然、他人の思惑、心の声が聞こえるようになってしまった 優しくて働き者の夫、頼りになる義母、物静かな義父。 さらに仲良く家族ぐるみで仲良くしていたご近所達。 さらには犬や猫、鳥までのさえずりが理解出来てしまいパニック状態。 酷い本心、罵詈雑言を吐き出すのは誰か? 伽耶子はそれらとどう戦うのか? 関係は元に戻れるのか?

処理中です...