陰陽師〜安倍童子編〜

桜 晴樹

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第一話 安倍童子、賀茂忠行に師事する。

聴耳

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童子が賀茂家に引き取られ、幾日か過ぎたある日。
まだ十にも満たぬ童子には、忠行自身が付いていなくては成らぬ為、身の回りの世話や雑務をさせる事にした。
「忠行様。朝でござりまする。」
忠行が起きる前に、童子が起こし、着替えも手伝い出した。
「童子よ。お主はまだ童じゃ。儂の面倒を見よ。と言うたが、そこまで早う起きる事はないぞ?」
忠行の子の保憲でさえ、このよわいの時には、まだ遅くまで寝ていた。それに、周りの大人にも甘えていた。
「滅相もござりませぬ。とと様、かか様にも、忠行様の言う事は何でも聞きなさいと仰せつかっておりますればこそ。」
小さな童子にも手伝って貰いやすくする為に、座りながら身支度を整える忠行は、「あい、わかった。」とだけ答えた。






忠行が陰陽寮の所に行っている間は、隅の方で大人しくしていた。とはいえ、ずっとその場にいるのはかえって疲れる。
賀茂家の敷地内の中庭には、色取り取りの草花がある。童子は、昼間は中庭で小鳥の囀りや虫の声に花々の声を聞いていた。
「ピチュピチュ(あそこの森に美味しい木の実がなってたよー!)」
「ピーヒョロロぴー!(それほんとー!今度行ってみるー!)」
童子は、小鳥の声を聞きながら、小鳥のいうあそこって何処なのかを想像する。
「ぴー!ぴーぴー!!(うちの子がいなくなったー!)」
「ちゅんちゅん(ままーぼくここだよー)」
「ぴっ!ぴひょー!!(我が子よー!)」
「ぴぴっ!(まんまー!!)」
別の小鳥が、巣立ち練習中の我が子を探し、少し休んでいた子がひょこりと現れる。親と子が高い木の上で再会を果たしたのを、童子は我が事の様に嬉しそうに聞いていた。
「にゃーん(おっ、人間!頭痒いから撫でろ!)」
そんな風に、童子が立ちながら色々な声を聞いていたら、足元に猫が擦り寄ってきた。
不遜な態度の白い猫は、童子に擦り寄って、痒い所をグリグリと押し付けてくる。
「ここが痒いの?」
頭をグリグリと撫でながら、猫に聞いていく。
「ふにゃわーんごろごろ(そこそこーおまえ気持ちいいじゃねーか!俺の子分にしてやんよー‥ごろごろ)」
絶妙な撫で加減に変な声が出てしまう猫だったが、あまりにも会話が成り立っている様な気がして、童子を見詰める。
「みー?(お前、もしかして俺の言葉わかる?)」
警戒しながらも聞く猫に童子は、こくりと、首を縦に動かし肯定した。
童子は、賀茂家に行く前に、ある生き物を助けた。その生き物を助けた時に、お呼ばれした所で、目と耳に何かを入れられた。それ以来、動物植物の言葉が分かるようになり、それまでハッキリと見えなかったモノも見えるようになった。動植物の声を聞こえる事を聴耳という。


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