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寝起きに知らない場所はきつい
しおりを挟む意識が浮上すると、頬が冷たいことに気が付く。
寝る前は――――、そう。
仕事終わりに百伽の家で宅飲みをしていた。
こたつに入っていたはずだが、随分冷たい場所に移動してしまったものだと違和感に瞼を持ち上げる。
「………………んん?」
しばらくぼんやりしていたが頭の中で整理がしきれない。
大雑把な性格の百伽の部屋は汚いというわけではないが物が多い。
部屋に遊びに来る度に片づけて私が片付けてはいるものの、元から物が多いのだから歩けるスペースが確保できたくらいだ。
つまり、目を空ければ嫌でも生活感漂う部屋の一面が見えてしまう。
だが、どうだろう。
今、私の目に入った光景には家具など一切存在していない。
例えるなら。
「投影前のプラネタリウム……?」
明かりを消して、今にも星を映し出そうとするその途中のような。
私が寝ている間に百伽は引っ越しでもしたのだろうか。私に一切気付かせないように。
そうだとしたら百伽はこんな世界にいるべき人材ではない。
今すぐアサシンとして活躍できる世界に行かなくては才能がもったいない。
「でも百伽はどちらかというとバーサーカーの方が似合う……」
「んー……?」
ポロ、と溢した一言に横の方から寝ぼけた声が聞こえてハッとする。
勢いよく体を起こし声のした方を向くとまぎれもなく百伽が同じような体制で横になっている。
「え、百伽、なんで横に」
こたつで飲んでいるときは大体そのまま寝てしまうため向かい合わせの場所にいる。
そのまま横になったとして、こんなに近くにいる可能性などないのだ。
段々と意識がはっきりしてきて周りを見渡す余裕が出てくる。
ここがどこかはわからない。
ただ、はっきりしているのは百伽の家ではないということだ。
誘拐――?
施錠はしっかりとしたはずだし考えにくいがこの状況に結び付く他の可能性を見いだせない。
とにかく油断は禁物だ。
「百伽、百伽――、起きて」
「……んー? ちよ? もう朝? でも今日休みじゃん……もう少し」
「それどころじゃない。ゆっくりでいいから目を開けて」
「ええ~……もう、な、に……」
緊張を含んだ私の声に百伽がゆっくりと目を開ける。
私の顔を見た百伽を視線で誘導して空間に向けさせると、百伽は首を動かし、そしてゆっくりと体を起こす。
「あ、れ? 千代、うちの部屋、改装した?」
「してないよ。家主に断りもなくそんなことしない」
「だよね。じゃあ、なにここ。プラネタリウム?」
「私もそうかと思ったんだけど、なんとなく違う気がする」
恐らく天井はドーム型だ。部屋の角と呼べる場所がない。
その中心に私たちは寝そべっていたのだ。
当然こたつもなく、床は冷たかったが冬の床にしてはまだマシな方だ。
百伽は静かに深呼吸をすると背筋を伸ばした。
「千代の把握している状況は?」
「ごめん、ほとんど情報なし。百伽の少し前に床の冷たさで目が覚めて、あとは百伽と同じ」
「わかった。ありがと。とりあえず何かあった時すぐ動けるようにそっと背中合わせで立とう」
「ふふ、りょーかい」
すぐに肝の据わるあたりが百伽のすごい所だ。
背中合わせになると先程まで冷えていた肌に体温が伝わり気持ちが落ち着いてくる。
「立った瞬間にレーザー光線打たれるかもしれないしそっとね」
「うわーちょう嫌な可能性。でもこういう障害物のない部屋の定番トラップだもんね」
「そうそう。この間観た映画も『なんだ、何もないじゃないか』って男が言った瞬間にレーザーが照射されてずるりと……」
「がっつりと死亡フラグ立てちゃったわけね。それは不可避」
くすくすと笑いながらそっと立ち上がる。
視線を巡らすが今のところ異変はないようだ。
と、二人で一瞬息を吐いた瞬間――。
パッ、と真上から光が当てられ思わず顔を下に向けてしまう。
「うっ! な、なに!?」
「まぶしくて、よく、見えない……!」
やっぱり罠だったのかとなんとか腕で光を遮りながら前を向くと、
「やーやー待ってたよー! こんなところでお待たせしてごめんねー!」
少女のような少年のような中性的な声がして思わず身が跳ねる。
「誰だ!?」
同じように百伽が腕で光を遮りつつ声のした方を向く。
「ああ、ごめんね。暗い所にいたのに急に照らしたら眩しいよね」
声の主がパチン、と指を鳴らすとゆっくりと眩しさが緩くなっていく。
それに比例して視界もはっきりし、百伽以外の人影をとらえることが出来た。
その人は百伽と私を交互に見ると心底嬉しそうに口角を上げた。
「ようこそ。伝説のエキストラ。さあ、わしの頼みを聞いておくれ」
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