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刑務所の中の運動会~不条理なスタートライン~[神回]

刑務所の中の運動会~不条理なスタートライン~[神回]④【完結】

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競技も中盤戦、いよいよお昼に飯を食ったらラストのメインイベントの「リレー」が始まる。

俺の工場は前半戦を終わって一位で折り返しだ。

刑務所の中で楽しみと言えばまず飯だ。

この刑務所の運動会の飯は全国でも最高にレベチだった。

この楽しみにしていた年に一度の運動会恒例の「ホットモッ〇」の唐揚げミックス弁当も、結局緊張で喉を通らずにガッカリだがコーラだけはチャッカリ飲んだ。

あっという間にリレーの選手を刑務官が呼びに来た。

その仲の良い刑務官が俺のケツを軽く叩いて「頑張れよ」とウインクをしてくる。

DVで訴えるぞ。うっせえわ。

嬉しく無くは無い。

応援団はクライマックスに発狂し、俺達選手を送り出す。

一番走者が呼ばれた。

俺の出番だった。

俺はスタートラインに立つ前にストレッチする振りしながら自分の工場をチラっと見た。

工場の観覧席。

俺の工場から一人一人の歓声が見事に俺の耳に聞こえてくる。

うちの応援団なんてもう、練習で一度もした事無い事ばかり始めている。応援団長の高橋さんなんてずーっとあほの坂田だ。

それが俺の血となり肉となった。

「パーン」

という、スタートの合図と共に俺は見事に転んでしまった。

前に一回転くるっと回った。

転んだ勢いでそのまんま俺はまた走り始めた。

俺はそこからディープインパクトばりの差し馬の様な走りを見せて見事に一番でバトンを渡した。

俺の工場は何とか第三走者までギリギリ一位でバトンは渡った。

そして遂に順位は一位のまんまアンカーの出番だ。

俺の工場のアンカーは、親分だった。

親分にバトンが渡ると悠々と、親分は歩き始めた。

バトンを高く上げて、ニコニコ笑いながら歩くのだ。

リレーなのに、走らない。

バトンを右手に高く振り上げたまま、ニッコリ微笑んでいるのだ。

まるで、日本シリーズで優勝して最後にファンの前で一周歩く時の名監督の様に、悠々とゴールまで歩いた。

他の工場のヤツらも、刑務官までもほぼ全員スタンディングオベーションで親分に拍手や歓声を送った。

エールを送った。

刑務所では不思議と噂は良くも悪くも漏れる。

親分にはいい噂しかなかったのだ。

今年の運動会が親分にとってはラストイヤーだったのである。

どこの工場の不良も賛辞を送った。

刑務所に居るヤツ、保育園児以外が見事にみんな親分をリスペクトしていた。

そこに居る千人以上が全員リスペクトして賞賛していた計算になる。

また他の工場のアンカーの選手も全員、親分を抜かそうともしなかった。

親分はそのまんまニッコリ微笑んだ表情のまま一番でゴールのテープを切った。

つまり俺の工場は優勝した。

全員が歓喜の輪の中に包まれたまま抱き合ってる輪の少し外で俺だけが秘かに

「これまでのあの苦しい練習は何だったのか?」

なんて冷静に考えていた。

これが俺の刑務所の運動会で一番忘れられない思い出だ。

工場に帰ると、俺達は全員馬鹿になり輪になってウサイン・ボルトが金メダルを取った後にするあのド派手なポーズをポージングしてから抱き合って泣いた。

クソ泣いた。

男は黙って、サッポ〇ビール。

これは俺が今までに生で見てきた中で、最高に興奮して、爽やかな八百長の話だ。

-[完]-

刑務所の中で見てきた底辺のリアル。

今回は刑務所の中の運動会の話でした。
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