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第十一章 試練 その3
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階段の先にあったのは、さっきの部屋とは打って変わって殺風景な部屋だった。
単純に地面を掘っただけのような状態で、壁はただの土壁、地面は辛うじて石畳となっている。
そして部屋の入り口には例の脱落者を示す数字が書かれており、分母は最初の階段を突破した七四〇。
分子は、なんと一五〇人を下回っていた。
「減り過ぎだろ!」
僕は叫ぶ。
そんなことがあり得るのだろうか?
あの部屋で脱落になるパターンは、宝の山にダイブして底なしの穴に落ちるぐらいしかないが、どうやら相当数の神たちはその罠にハマってしまったらしい。
僕の中で神様のイメージが崩れていく感覚がした。
もっとしっかりしていると思っていた。
「古今東西、神というのは財宝に弱いものさ」
モジャモジャは吐き捨てるように言った。
そう語るモジャモジャの目は、どこか遠くを見つめているような気がした。
「そうなの? じゃあモジャモジャも?」
美優はすかさずモジャモジャを弄ろうと口をはさむ。
だけど答えは出ている。
本当にモジャモジャが財宝に弱いのなら、アレキサンドライトなんて粋な回答は出さない。
「いいかいお嬢ちゃん。我にとってもっとも大切なのは人間なのさ」
モジャモジャは美優の目を真っすぐ見つめて答えた。
今まででもっとも本気を感じられる一言だ。
最初にあった時のモジャモジャとはどこか違うような、そんな違和感。
「そんなこと言うキャラだっけ?」
僕は茶化す。
モジャモジャはそんな殊勝なことを言うキャラではない。
もっと自分大好きで、人間なんてなんとも思っていない唯我独尊、だけど神としてはポンコツなのが本来なのに、どういうことだろうか? 何か心境の変化でも?
「一回お前の中の我のイメージを改めろ!」
モジャモジャはそれだけ言い残し、部屋の中を進んでいく。
さっきの部屋とは違って、全然突きあたりが見えない。
しかも照明も暗く、自分の周囲しか見えない。
「ちょっと待ってよ!」
僕と美優は先を行くモジャモジャを追いかける。
このまま先に行かせてたら、いずれ見失う。
「なんだこれ?」
モジャモジャに追いついた時、モジャモジャはそんな素っ頓狂な声を発していた。
それもそのはず。
何もないと思っていた室内、その中央に小さな木製の台が置かれていた。
学校の教室の机程度の大きさで、その机には刃物で刻んだように数字が刻まれていた。
「どうしたの?」
僕と美優は揃って身を乗り出し、モジャモジャの横から机の上を覗き込む。
そこには数字が掘られていた。
分母はさっきの通過者一五〇。
分子は〇。
まだ何も試練は終わっていない。
つまりこれは……。
「この先に待ち受けている試練の突破者はゼロ人だということか」
モジャモジャは鋭い目つきで部屋の奥を睨む。
ゼロ、突破者が一人もいない。
確かにヘケトもアヌビスも言っていた。
誰も紋章まで辿り着いていないと。
これは警告なのかもしれない。
引き返すなら今だというメッセージ。
「どうするの?」
美優は不安そうにモジャモジャを見る。
帰りたい気持ち半分。
モジャモジャに生きていて欲しい気持ち半分。
そんな感情が入り混じったような目。
「やるさ。やるしかないんだ。君たちを戻すためにも、我が死なないためにも」
そうだった。
戻っても意味がない。
モジャモジャはもうすぐ消えてしまう。
どっちみち挑むしか道はないのだ。
「それにアイツまで死んでしまう。ヘマはできない」
モジャモジャはたびたび僕たち以外の人間の存在をちらつかせる。
まるでそれが当たり前であるかのように、最初からずっとそうであったかのように口にする。
もしかしたら狭間からディオスワールドに来たことで、記憶がしっかりと戻ってきたのかも知れない。
そうでなければ辻褄があわない。
「アイツって?」
僕はたまらず尋ねる。
もしかしたら今なら答えを聞けるかもしれない。
「アイツはアイツさ。他の何者でもない」
はぐらかしているのか本気なのか、望んだ答えは聞けなかった。
そして今は深堀する時ではない。
もっとも重要なのはここから三人で生きて帰ること。
僕と美優は神ではないからゴッドツリーにはならないだろうけれど、無事にここから出れる気もしない。
結局は挑むしかないのだろう。
三人で力を合わせて……。
さらに部屋の奥に進んでいくと、突き当りの壁に人一人が入れるぐらいの小さな部屋が現れた。
どうやら行き止まり。
小さな部屋には何もない。
ただの電話ボックスぐらいの部屋だ。
「何これ?」
美優は首をかしげる。
僕も同意だ。
なんだこれ?
「一人しか入れなくない?」
さきほど三人で力を合わせて突破しようと決意した直後のこれだ。
しかし入ったところで何があるわけでもなさそうだが……。
「誰が入る?」
「そんなの我に決まっているだろう!」
モジャモジャが名乗り出る。
まあそうだろうな。
ここまで来て、僕や美優が中に入るのもおかしな話ではある。
「入って大丈夫なの?」
美優は明らかに怪しんでいる。
単純に何もない部屋か、何かのトラップのような気はしているが何とも言えない。
今までが今までなだけに、入ってから最後の試練が始まる可能性だってある。
不安が頭の中でぐるぐる回る。
さっき見た数字が原因だ。
突破者はゼロ。
いくら試練が難しくても、突破者ゼロなんて普通じゃない。
もしかしたらトラップに全員が引っかかっただけで、最後の試練すら受けさせてもらえていないのではないかと思ってしまう。
だから不安だ。
モジャモジャがあの部屋に入った瞬間、何か良くないことが起きる気がして……。
僕は今まさに部屋に入ろうとしているモジャモジャの後ろ姿を、ただ黙って見守ることしかできなかった。
単純に地面を掘っただけのような状態で、壁はただの土壁、地面は辛うじて石畳となっている。
そして部屋の入り口には例の脱落者を示す数字が書かれており、分母は最初の階段を突破した七四〇。
分子は、なんと一五〇人を下回っていた。
「減り過ぎだろ!」
僕は叫ぶ。
そんなことがあり得るのだろうか?
あの部屋で脱落になるパターンは、宝の山にダイブして底なしの穴に落ちるぐらいしかないが、どうやら相当数の神たちはその罠にハマってしまったらしい。
僕の中で神様のイメージが崩れていく感覚がした。
もっとしっかりしていると思っていた。
「古今東西、神というのは財宝に弱いものさ」
モジャモジャは吐き捨てるように言った。
そう語るモジャモジャの目は、どこか遠くを見つめているような気がした。
「そうなの? じゃあモジャモジャも?」
美優はすかさずモジャモジャを弄ろうと口をはさむ。
だけど答えは出ている。
本当にモジャモジャが財宝に弱いのなら、アレキサンドライトなんて粋な回答は出さない。
「いいかいお嬢ちゃん。我にとってもっとも大切なのは人間なのさ」
モジャモジャは美優の目を真っすぐ見つめて答えた。
今まででもっとも本気を感じられる一言だ。
最初にあった時のモジャモジャとはどこか違うような、そんな違和感。
「そんなこと言うキャラだっけ?」
僕は茶化す。
モジャモジャはそんな殊勝なことを言うキャラではない。
もっと自分大好きで、人間なんてなんとも思っていない唯我独尊、だけど神としてはポンコツなのが本来なのに、どういうことだろうか? 何か心境の変化でも?
「一回お前の中の我のイメージを改めろ!」
モジャモジャはそれだけ言い残し、部屋の中を進んでいく。
さっきの部屋とは違って、全然突きあたりが見えない。
しかも照明も暗く、自分の周囲しか見えない。
「ちょっと待ってよ!」
僕と美優は先を行くモジャモジャを追いかける。
このまま先に行かせてたら、いずれ見失う。
「なんだこれ?」
モジャモジャに追いついた時、モジャモジャはそんな素っ頓狂な声を発していた。
それもそのはず。
何もないと思っていた室内、その中央に小さな木製の台が置かれていた。
学校の教室の机程度の大きさで、その机には刃物で刻んだように数字が刻まれていた。
「どうしたの?」
僕と美優は揃って身を乗り出し、モジャモジャの横から机の上を覗き込む。
そこには数字が掘られていた。
分母はさっきの通過者一五〇。
分子は〇。
まだ何も試練は終わっていない。
つまりこれは……。
「この先に待ち受けている試練の突破者はゼロ人だということか」
モジャモジャは鋭い目つきで部屋の奥を睨む。
ゼロ、突破者が一人もいない。
確かにヘケトもアヌビスも言っていた。
誰も紋章まで辿り着いていないと。
これは警告なのかもしれない。
引き返すなら今だというメッセージ。
「どうするの?」
美優は不安そうにモジャモジャを見る。
帰りたい気持ち半分。
モジャモジャに生きていて欲しい気持ち半分。
そんな感情が入り混じったような目。
「やるさ。やるしかないんだ。君たちを戻すためにも、我が死なないためにも」
そうだった。
戻っても意味がない。
モジャモジャはもうすぐ消えてしまう。
どっちみち挑むしか道はないのだ。
「それにアイツまで死んでしまう。ヘマはできない」
モジャモジャはたびたび僕たち以外の人間の存在をちらつかせる。
まるでそれが当たり前であるかのように、最初からずっとそうであったかのように口にする。
もしかしたら狭間からディオスワールドに来たことで、記憶がしっかりと戻ってきたのかも知れない。
そうでなければ辻褄があわない。
「アイツって?」
僕はたまらず尋ねる。
もしかしたら今なら答えを聞けるかもしれない。
「アイツはアイツさ。他の何者でもない」
はぐらかしているのか本気なのか、望んだ答えは聞けなかった。
そして今は深堀する時ではない。
もっとも重要なのはここから三人で生きて帰ること。
僕と美優は神ではないからゴッドツリーにはならないだろうけれど、無事にここから出れる気もしない。
結局は挑むしかないのだろう。
三人で力を合わせて……。
さらに部屋の奥に進んでいくと、突き当りの壁に人一人が入れるぐらいの小さな部屋が現れた。
どうやら行き止まり。
小さな部屋には何もない。
ただの電話ボックスぐらいの部屋だ。
「何これ?」
美優は首をかしげる。
僕も同意だ。
なんだこれ?
「一人しか入れなくない?」
さきほど三人で力を合わせて突破しようと決意した直後のこれだ。
しかし入ったところで何があるわけでもなさそうだが……。
「誰が入る?」
「そんなの我に決まっているだろう!」
モジャモジャが名乗り出る。
まあそうだろうな。
ここまで来て、僕や美優が中に入るのもおかしな話ではある。
「入って大丈夫なの?」
美優は明らかに怪しんでいる。
単純に何もない部屋か、何かのトラップのような気はしているが何とも言えない。
今までが今までなだけに、入ってから最後の試練が始まる可能性だってある。
不安が頭の中でぐるぐる回る。
さっき見た数字が原因だ。
突破者はゼロ。
いくら試練が難しくても、突破者ゼロなんて普通じゃない。
もしかしたらトラップに全員が引っかかっただけで、最後の試練すら受けさせてもらえていないのではないかと思ってしまう。
だから不安だ。
モジャモジャがあの部屋に入った瞬間、何か良くないことが起きる気がして……。
僕は今まさに部屋に入ろうとしているモジャモジャの後ろ姿を、ただ黙って見守ることしかできなかった。
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