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第十三章
危険なメダカ屋さん 2
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そんなこんなでやって来ました通学路。
こういう手合いは直接確認するに限る。
「ああ、あれか……」
「あれだな」
俺とハムスケは互いに顔を見合わせ納得する。
これは怪しい。
このおじさんが仮に変なことをしていなくても、疑われてしまうには十分な材料が揃っていた。
歩道の隅っこでバケツを自身の前に置き、そのバケツの前にしゃがみ込んで道行く小学生をジッと眺めている。
服装は、よくおじさんが履いてそうなベージュ色のチノパンに水色のゴルフウェア。その上から釣り人がよく着ているベストに、キャップをかぶっている。
服装だけならそこらにいるおじさんだが、如何せんその状況と体勢がヤバい。
「あのおっさんテンプレだな」
ハムスケはあのおじさんの服装をそう表現した。
いや、確かにテンプレと言われればそうなのだが、最近ファッションにうるさくない?
自身は裸で出歩いている変態のはずなのに、こないだからやたらターゲットのファッションに厳しいのだ。
「急にオシャレに目覚めたのか?」
「何を言っているんだか? 我は最初からオシャレではないか!」
どうやらこのハムスターは鏡を見たことがないらしい。
「あそこにいるのは変態だな」
ハムスケはターゲットを指さす。
人のことは言えないだろ? 変態さん。
「なんだ、そんなところに鏡でもあったのか?」
「うん? そんなわけないだろ? 何を言って…………あっ! いま我のことをバカにしたな!」
脳みそが大豆くらいのハムスターにも今の言い回しは通じたらしい。
鏡は見ておくべきだったな、神様♪
「言っておくが、我は裸なわけではないからな!」
そう胸を張るハムスケ。
「ほう。では何だというのかね」
「これは毛を着ているのだ!」
もう言い訳が苦しくて見てられない。
見てられないので、ここらで愛しのペットと遊ぶのは止めておき仕事に戻る。
「わかった、お前はお洒落だよ。そんなことより、お前はあのおっさんをどう見る?」
「む! まあいいわかった。あの変態だろ? ダサいな」
ハムスケは、俺が露骨に話題を変えたのが少し引っかかっていたようだが、とりあえず仕事に戻る。
「服装はもう良いって! そうじゃなくて中身だよ中身」
「中身って言われてもな~バケツの前にしゃがみ込んで、小学生を熱いまなざしで見つめるおっさんなんて、中身以前の問題だろう?」
実際に言葉にすると、あのおっさんのパンチ力は凄まじい。そりゃあ子供たちが警戒するわけだ。
「本当に気が進まないのだが、直接尋ねろと?」
「中身なんて蓋を開けてみなけりゃわからんだろうが!」
このハムスターは時々鋭い言葉を発する。
ハムスケの言う通り、外面だけ見てあーだこーだ決めつけるのはよろしくない。そんなことをしていては、真実から遠ざかってしまう。
「よっしゃ! 行くか!」
「気張ってけよ!」
「お前も来るんだよ!」
俺を見送ろうとするハムスケを掴み、ポケットに押し込む。
コイツは油断するとすぐにさぼるのだから始末に負えない。
「あの……ここで何をしていらっしゃるのですか?」
俺はハムスケを格納した後、恐る恐る不審者の代名詞と呼んでも過言ではないおじさんに近づき、声をかける。
「俺か? 見たらわかるだろう?」
おっと、これはマズイ。
どうやら俺は、ハムスターよりも話が通じない輩と遭遇してしまったらしい。
バケツの前でしゃがみ込んで小学生を視姦している男が、何をしているのかを見た目で判断しろと言ってきているのだ。
俺は無言で携帯を取り出した。
「おい、にーちゃんどこに電話する気だ?」
「どこって、警察ですよ。バケツの前でしゃがみ込んで、小学生を視姦している変質者がいるので、間違いが起きないうちに対処しなければいけません」
俺は平然と答える。
「ま、まってくれ兄ちゃん! あんたは誤解をしている!」
誤解を招くような言い方をしたのはアンタだろ? そう言いたくはなったが、それをぐっとこらえ、冷静に聞き返す。
「誤解とはなんですか? 見た感じで判断するとそうなりますが?」
「わかった。ちゃんと説明するから警察は勘弁してくれ」
目の前の不審者はそう懇願する。
別にやましいことがなければ警察が来ても問題ないと思うのだが……まあ、自分でも薄々気づいていたのだろう。客観的に見たらあやしいということに。
「そういう事でしたら警察への連絡は保留しておきます」
「保留なのか……」
「何か?」
「いや、なんでもない」
当然保留だ。
今のところの彼は不審者で間違いないのだから。
「では説明してもらえますか?」
俺はおじさんに説明を促す。
「このバケツの中が見えるか?」
おじさんの指さした先、バケツの中をよく見ると何かが泳いでいる。
「これは……メダカ?」
「ああ、その通りだ」
「そうですか」
俺は再び携帯を取り出す。
「に、にいちゃん? 一体どこへ?」
「え、盗んだメダカで小学生を釣ろうとしていた不審者を通報しようと……」
「だから違うって! 最後まで話を聞いてくれ!」
しぶしぶ携帯をポッケにしまい、バケツを泳ぐメダカを観察する。
「ではこのメダカは?」
「凄いだろう! 俺が育てたんだ」
おじさんはどこか誇らしげに胸を張る。
正直どこがそんなに凄いのか理解できないが、いい年した大人がここまで誇らしげにするのだからきっと凄いのだろう。
「このメダカを貴方が育てたことは分かりましたが、それとここにいることが繋がりません」
そうなのだ。
彼がメダカを飼育しようがそれは自由なのだが、ここにいる必然性が見当たらない。
「実は……ちょっと増えすぎちゃって」
ああ、今回の事件は途轍もなくショボい気がしてきた。
こういう手合いは直接確認するに限る。
「ああ、あれか……」
「あれだな」
俺とハムスケは互いに顔を見合わせ納得する。
これは怪しい。
このおじさんが仮に変なことをしていなくても、疑われてしまうには十分な材料が揃っていた。
歩道の隅っこでバケツを自身の前に置き、そのバケツの前にしゃがみ込んで道行く小学生をジッと眺めている。
服装は、よくおじさんが履いてそうなベージュ色のチノパンに水色のゴルフウェア。その上から釣り人がよく着ているベストに、キャップをかぶっている。
服装だけならそこらにいるおじさんだが、如何せんその状況と体勢がヤバい。
「あのおっさんテンプレだな」
ハムスケはあのおじさんの服装をそう表現した。
いや、確かにテンプレと言われればそうなのだが、最近ファッションにうるさくない?
自身は裸で出歩いている変態のはずなのに、こないだからやたらターゲットのファッションに厳しいのだ。
「急にオシャレに目覚めたのか?」
「何を言っているんだか? 我は最初からオシャレではないか!」
どうやらこのハムスターは鏡を見たことがないらしい。
「あそこにいるのは変態だな」
ハムスケはターゲットを指さす。
人のことは言えないだろ? 変態さん。
「なんだ、そんなところに鏡でもあったのか?」
「うん? そんなわけないだろ? 何を言って…………あっ! いま我のことをバカにしたな!」
脳みそが大豆くらいのハムスターにも今の言い回しは通じたらしい。
鏡は見ておくべきだったな、神様♪
「言っておくが、我は裸なわけではないからな!」
そう胸を張るハムスケ。
「ほう。では何だというのかね」
「これは毛を着ているのだ!」
もう言い訳が苦しくて見てられない。
見てられないので、ここらで愛しのペットと遊ぶのは止めておき仕事に戻る。
「わかった、お前はお洒落だよ。そんなことより、お前はあのおっさんをどう見る?」
「む! まあいいわかった。あの変態だろ? ダサいな」
ハムスケは、俺が露骨に話題を変えたのが少し引っかかっていたようだが、とりあえず仕事に戻る。
「服装はもう良いって! そうじゃなくて中身だよ中身」
「中身って言われてもな~バケツの前にしゃがみ込んで、小学生を熱いまなざしで見つめるおっさんなんて、中身以前の問題だろう?」
実際に言葉にすると、あのおっさんのパンチ力は凄まじい。そりゃあ子供たちが警戒するわけだ。
「本当に気が進まないのだが、直接尋ねろと?」
「中身なんて蓋を開けてみなけりゃわからんだろうが!」
このハムスターは時々鋭い言葉を発する。
ハムスケの言う通り、外面だけ見てあーだこーだ決めつけるのはよろしくない。そんなことをしていては、真実から遠ざかってしまう。
「よっしゃ! 行くか!」
「気張ってけよ!」
「お前も来るんだよ!」
俺を見送ろうとするハムスケを掴み、ポケットに押し込む。
コイツは油断するとすぐにさぼるのだから始末に負えない。
「あの……ここで何をしていらっしゃるのですか?」
俺はハムスケを格納した後、恐る恐る不審者の代名詞と呼んでも過言ではないおじさんに近づき、声をかける。
「俺か? 見たらわかるだろう?」
おっと、これはマズイ。
どうやら俺は、ハムスターよりも話が通じない輩と遭遇してしまったらしい。
バケツの前でしゃがみ込んで小学生を視姦している男が、何をしているのかを見た目で判断しろと言ってきているのだ。
俺は無言で携帯を取り出した。
「おい、にーちゃんどこに電話する気だ?」
「どこって、警察ですよ。バケツの前でしゃがみ込んで、小学生を視姦している変質者がいるので、間違いが起きないうちに対処しなければいけません」
俺は平然と答える。
「ま、まってくれ兄ちゃん! あんたは誤解をしている!」
誤解を招くような言い方をしたのはアンタだろ? そう言いたくはなったが、それをぐっとこらえ、冷静に聞き返す。
「誤解とはなんですか? 見た感じで判断するとそうなりますが?」
「わかった。ちゃんと説明するから警察は勘弁してくれ」
目の前の不審者はそう懇願する。
別にやましいことがなければ警察が来ても問題ないと思うのだが……まあ、自分でも薄々気づいていたのだろう。客観的に見たらあやしいということに。
「そういう事でしたら警察への連絡は保留しておきます」
「保留なのか……」
「何か?」
「いや、なんでもない」
当然保留だ。
今のところの彼は不審者で間違いないのだから。
「では説明してもらえますか?」
俺はおじさんに説明を促す。
「このバケツの中が見えるか?」
おじさんの指さした先、バケツの中をよく見ると何かが泳いでいる。
「これは……メダカ?」
「ああ、その通りだ」
「そうですか」
俺は再び携帯を取り出す。
「に、にいちゃん? 一体どこへ?」
「え、盗んだメダカで小学生を釣ろうとしていた不審者を通報しようと……」
「だから違うって! 最後まで話を聞いてくれ!」
しぶしぶ携帯をポッケにしまい、バケツを泳ぐメダカを観察する。
「ではこのメダカは?」
「凄いだろう! 俺が育てたんだ」
おじさんはどこか誇らしげに胸を張る。
正直どこがそんなに凄いのか理解できないが、いい年した大人がここまで誇らしげにするのだからきっと凄いのだろう。
「このメダカを貴方が育てたことは分かりましたが、それとここにいることが繋がりません」
そうなのだ。
彼がメダカを飼育しようがそれは自由なのだが、ここにいる必然性が見当たらない。
「実は……ちょっと増えすぎちゃって」
ああ、今回の事件は途轍もなくショボい気がしてきた。
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