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第十二章
何かにはまる奥様 4
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「はい。直接お話したいことがあるので、よろしければ奥様もご一緒していただけますか?」
俺はそう言って電話を切る。
合法的にあの冊子を手に入れる方法を思いついたのだ。
なんてことはない。依頼人の奥様が持っているのは知っているのだから、それを譲ってもらえばいいだけの話しだ。
後はその中身を精査して、警察に突き出せば無事解決という算段だ。
「すみません、池内です」
数時間後、依頼人である池内さんとその奥様がやって来た。
「奥様に事情などはもう?」
「はい。最近金使いが荒いから探偵さんに依頼したと説明は終わってます」
「この度はご迷惑おかけしました」
そう言って池内夫妻は頭を下げる。
どうやら大きなトラブルも起きずに経緯を説明出来たらしい。
「いえいえ、ということはお金の使い道もすでに?」
「ええ、話しています。そしてこれが見せてほしいと言われた冊子です」
そう言ってバッグから冊子を取り出し、俺に渡す。
「お借りします」
俺は冊子を受け取り中を開く。
ページ数は3ページほどで、冊子というよりパンフレットと呼んだほうが正しい感じがした。
中に書いてあることを要約すると、子供が出来ないのは神に対するうんぬんかんぬん……で、それを薬を使ってうんぬんかんぬん……
つまり、金出して薬買って神に祈れと書いてあるのだ。
「酷いなこれは」
俺はうっかり声に出していた。
「この薬はいつごろ届きますか?」
「明日届きます。探偵さんがおっしゃってた通り、効果が無いことは分かっていますが、キャンセル不可だったので……」
「では明日それを取りに伺います。そしてその薬を警察に持って行き、成分の調査と共に、その薬と冊子を証拠として提出して警察に動いてもらう予定です」
「分かりました。よろしくお願いします」
そう言って立ち上がり、2人は事務所を後にした。
「後は明日か」
「そうだな」
ハムスケも今回はしっかり聞いていたらしい。
「今日は紅茶に入らないのか?」
「熱いんだよ!」
やっぱり熱かったらしい。
翌日、池内さん宅で例の薬と冊子を受け取り、顔見知りの警察署へ向かう。
「柊探偵事務所の者ですが……」
「ああ、柊さん! お噂は聞いております。お父様に負けず劣らずの活躍っぷりですね!」
訪れた先には、父の時から交流があった刑事、永崎さんが待っていた。
「自分なんてまだまだですよ」
俺はそう謙遜して、取調室へ向かう。
そもそも俺はハムスケの奇跡の助けもあって、今の成績なのだ。神様の助けなしで、今の俺とほとんど変わらない活躍をしていた親父は、一体何者だったのだろうか?
家ではあまり仕事の話はしなかったので、警察の中でもある程度名が通るほど活躍していたとは思わなかった。
「お座りください」
俺は永崎さんの指示で席に着く。
「それで、電話で予めお話しさせていただいた通りなのですが、これが件の薬と冊子になります」
永崎さんに池内さんからお借りした物を渡す。
冊子を開いた永崎さんは、じっくりと慎重に読んだあと、ため息をつく。
「もう完全にクロですねこれは」
「まあ自分も冊子の中を見た時に、その薬の成分に関わらず、アウトだと確信しました」
それぐらい、冊子の中身が酷かった。
本当にこんな胡散臭い文章で騙される人がいるのかと思ったが、今読んでる冊子は、実際に騙されていた池内さんから借りているものなので、強くは言えない。
真剣に悩んでいたり追いつめられていたりすると、人間の思考力というのは一気に低下する。今回の一件はそれを実感するのに十分なものだった。
「それでここからの流れは?」
この後の警察の流れが気になる。
「この後、鑑識にこの薬の成分を調べてもらって、それから乗り込みたいところですね。住所は貴方から聞いていますし、被害者の方も薬の発送リスト等から特定出来そうですしね、それで万事解決ではないでしょうか」
「ではこの後の処理はお任せします」
俺は深々と頭を下げる。
探偵の役割はここまで、ここからは警察の領分だ。
「いえ、こちらこそ。情報提供ありがとうございました! また何かあった際は連絡下さい」
彼も彼で頭を下げる。
そうそう警察沙汰になるような依頼は避けたいのが本音なのだが、有事の際は仕方がない。
俺はそのまま警察署を出て事務所に戻る。
今回の依頼は意外なかたちで終わったが、それも一興か。
「結構大事になったな~」
事務所に戻ると、ハムスケはデカいソファーの中心にちょこんと座り、タブレットで映画を見ていた。
「何見てるんだ?」
「うん? 宗教系の映画」
十中八九わざとなのだろうが、こんな意図的な映画の見方をするハムスターがいるだろうか?
というよりも、映画を見るハムスターがそもそもいないことに気が付いた。
俺は着替えると、なんとなしにその映画をハムスケと一緒に見始めたのだった。
3ヶ月後、警察から連絡があり、無事にあの宗教団体を取り締まることが出来たと連絡が入った。
どうやら想像以上に大きな組織だったらしく、全国数か所で同じ詐欺紛いのことをしていたらしく、ほとんど全て一網打尽に出来たと永崎さんは興奮気味に伝えてくれた。
それともう一つ嬉しいニュースがある。
どうやら池内夫人が身ごもったらしいのだ。
依頼人であった池内さんが電話越しではあったが、テンション高く報告してくれた。
その電話を受けながら、俺の朝食用のパンをかじっているハムスケを見る。
これをもし奇跡と呼ぶのなら、その奇跡を起こした神様がどっちの神様かなんて考えるまでもないのだ。
俺はそう言って電話を切る。
合法的にあの冊子を手に入れる方法を思いついたのだ。
なんてことはない。依頼人の奥様が持っているのは知っているのだから、それを譲ってもらえばいいだけの話しだ。
後はその中身を精査して、警察に突き出せば無事解決という算段だ。
「すみません、池内です」
数時間後、依頼人である池内さんとその奥様がやって来た。
「奥様に事情などはもう?」
「はい。最近金使いが荒いから探偵さんに依頼したと説明は終わってます」
「この度はご迷惑おかけしました」
そう言って池内夫妻は頭を下げる。
どうやら大きなトラブルも起きずに経緯を説明出来たらしい。
「いえいえ、ということはお金の使い道もすでに?」
「ええ、話しています。そしてこれが見せてほしいと言われた冊子です」
そう言ってバッグから冊子を取り出し、俺に渡す。
「お借りします」
俺は冊子を受け取り中を開く。
ページ数は3ページほどで、冊子というよりパンフレットと呼んだほうが正しい感じがした。
中に書いてあることを要約すると、子供が出来ないのは神に対するうんぬんかんぬん……で、それを薬を使ってうんぬんかんぬん……
つまり、金出して薬買って神に祈れと書いてあるのだ。
「酷いなこれは」
俺はうっかり声に出していた。
「この薬はいつごろ届きますか?」
「明日届きます。探偵さんがおっしゃってた通り、効果が無いことは分かっていますが、キャンセル不可だったので……」
「では明日それを取りに伺います。そしてその薬を警察に持って行き、成分の調査と共に、その薬と冊子を証拠として提出して警察に動いてもらう予定です」
「分かりました。よろしくお願いします」
そう言って立ち上がり、2人は事務所を後にした。
「後は明日か」
「そうだな」
ハムスケも今回はしっかり聞いていたらしい。
「今日は紅茶に入らないのか?」
「熱いんだよ!」
やっぱり熱かったらしい。
翌日、池内さん宅で例の薬と冊子を受け取り、顔見知りの警察署へ向かう。
「柊探偵事務所の者ですが……」
「ああ、柊さん! お噂は聞いております。お父様に負けず劣らずの活躍っぷりですね!」
訪れた先には、父の時から交流があった刑事、永崎さんが待っていた。
「自分なんてまだまだですよ」
俺はそう謙遜して、取調室へ向かう。
そもそも俺はハムスケの奇跡の助けもあって、今の成績なのだ。神様の助けなしで、今の俺とほとんど変わらない活躍をしていた親父は、一体何者だったのだろうか?
家ではあまり仕事の話はしなかったので、警察の中でもある程度名が通るほど活躍していたとは思わなかった。
「お座りください」
俺は永崎さんの指示で席に着く。
「それで、電話で予めお話しさせていただいた通りなのですが、これが件の薬と冊子になります」
永崎さんに池内さんからお借りした物を渡す。
冊子を開いた永崎さんは、じっくりと慎重に読んだあと、ため息をつく。
「もう完全にクロですねこれは」
「まあ自分も冊子の中を見た時に、その薬の成分に関わらず、アウトだと確信しました」
それぐらい、冊子の中身が酷かった。
本当にこんな胡散臭い文章で騙される人がいるのかと思ったが、今読んでる冊子は、実際に騙されていた池内さんから借りているものなので、強くは言えない。
真剣に悩んでいたり追いつめられていたりすると、人間の思考力というのは一気に低下する。今回の一件はそれを実感するのに十分なものだった。
「それでここからの流れは?」
この後の警察の流れが気になる。
「この後、鑑識にこの薬の成分を調べてもらって、それから乗り込みたいところですね。住所は貴方から聞いていますし、被害者の方も薬の発送リスト等から特定出来そうですしね、それで万事解決ではないでしょうか」
「ではこの後の処理はお任せします」
俺は深々と頭を下げる。
探偵の役割はここまで、ここからは警察の領分だ。
「いえ、こちらこそ。情報提供ありがとうございました! また何かあった際は連絡下さい」
彼も彼で頭を下げる。
そうそう警察沙汰になるような依頼は避けたいのが本音なのだが、有事の際は仕方がない。
俺はそのまま警察署を出て事務所に戻る。
今回の依頼は意外なかたちで終わったが、それも一興か。
「結構大事になったな~」
事務所に戻ると、ハムスケはデカいソファーの中心にちょこんと座り、タブレットで映画を見ていた。
「何見てるんだ?」
「うん? 宗教系の映画」
十中八九わざとなのだろうが、こんな意図的な映画の見方をするハムスターがいるだろうか?
というよりも、映画を見るハムスターがそもそもいないことに気が付いた。
俺は着替えると、なんとなしにその映画をハムスケと一緒に見始めたのだった。
3ヶ月後、警察から連絡があり、無事にあの宗教団体を取り締まることが出来たと連絡が入った。
どうやら想像以上に大きな組織だったらしく、全国数か所で同じ詐欺紛いのことをしていたらしく、ほとんど全て一網打尽に出来たと永崎さんは興奮気味に伝えてくれた。
それともう一つ嬉しいニュースがある。
どうやら池内夫人が身ごもったらしいのだ。
依頼人であった池内さんが電話越しではあったが、テンション高く報告してくれた。
その電話を受けながら、俺の朝食用のパンをかじっているハムスケを見る。
これをもし奇跡と呼ぶのなら、その奇跡を起こした神様がどっちの神様かなんて考えるまでもないのだ。
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