家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?

DANDY

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第十二章

何かにはまる奥様 3

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「何がそんなにマズイんだ?」

「冊子の内容を簡単にまとめると、子供が出来ない体質によく効く薬って感じだった」

 俺は耳を疑う。

 なるほど……そうきたか。

 そういう方向で攻めてくるとは思わなかった。

「薬ってあの薬?」

「そうあの薬」

 確認のために聞き直したが、やっぱりあの薬だった。

 要するに薬物だ。

 あのおっさん、不妊症に悩む若い主婦を集めて、怪しげな薬物を売りつけるつもりらしい。

「あの冊子に5万円払っていたということは、あの冊子の購入=薬の購入と考えて良さそうだな」

「そうだと思う。我が開いたページにURLの案内が書いてあった」

 不妊症で悩むのは主に若い女性。

 年配の女性が来ないことを最初から見越してのネット利用か。

 実際に直接薬物を配ると足が付き易いからな。

 しかしこれは困ったことになった。正直言って、俺一人の手に余る。これは警察に届けるしかない。

 だがそうなると、問題になるのは証拠をどうやって入手するかだ。

 今この建物の入り口を無理矢理壊してあの冊子を入手するのもありだが、違法行為をして入手した証拠は、証拠として認められないケースもある。

 それを考慮すると、合法的にあの冊子を手に入れるしかない。

「どうしたものか……」

「なにを悩んでる?」

 ハムスケは、腕を組んでいかにも悩んでる俺の顔をジッと見る。

「どうやってあの冊子を、合法的に手に入れようかと思ってな」

「な~んだそんなことか!」

 ハムスケはケラケラ笑いながら、俺の横顔にもたれかかる。

「何か良いアイデアでもあるのか!?」

 俺は期待に満ち溢れた眼差しをハムスケに送る。

 コイツから、アイデアを頂戴する日が来るとは思わなかった。

「和人が女装すれば良いんじゃん!」

 ハムスケは、最高の決め台詞を放った主人公の如く、ドヤ顔で叫ぶ。

 なんて頭の柔らかいハムスターなのでしょう……

「俺はお前を誤解していたようだ」

「おお! ついに我を崇める時が……」

「お前の頭は柔らか過ぎて、どうやら脳が溶けだしているらしい」

「それがどうした! 脳が溶けたって神は神だ!」

「いや違う! 脳がメルトダウンした神なんてただのハムスターなんだよ! 帰ったらしばらく高級ヒマワリの種は無しだ」

「そんな~」

 ハムスケは潤んだつぶらな瞳を俺に向けるが、俺はあの瞳がハムスケの演技だと知っているのだ。

「良いから他の方法はなんか無いのか?」

「直接あのおっさんに貰う」

 なかなかに大胆なハムスターだ。絶対探偵に向いてない。

「論外だ! 警戒されて終了だ」

「じゃあ…………お腹すいた」

 なんて欲望に忠実なハムスターなんだろうか?

 絶対に今の場面で出てくる台詞じゃないよね?

「はぁ~分かったもう帰ろう。実際、ここに居ても見つかるリスクが上がるだけで、なんの解決案も出てこない」

 俺は、足音を消すために踵をつけずにつま先立ちをしながら屈むという、結構キツイ姿勢で出口を目指す。

「なんて奇怪なポージングで脱出するんだこの飼い主」

 ハムスケは俺の耳元で、俺にだけ聞こえる声量で囁く。

 高級ヒマワリの種を封印された腹いせのつもりなのだろう。

「良いから黙ってろ」

 小さく返事をして、俺は元来た道をこの奇怪なポージングのまま進み、敷地を抜けた。

「とっとと離れるぞ!」

 俺はさっきのポーズの代償に、足をつりそうになりながら急いでこの場を離れる。

「もう大丈夫だろう」

 俺はそう言って息を整える。

 どうして今回俺がここまで慎重なのかというと、相手が薬物を売るのが目的だからだ。

 今回のケースが違法薬物にあたるものなのか、それとも小麦粉みたいな物を、そういう効果があると偽って売りつけているだけなのかは分からないが、もしも前者だった場合、バックに暴力団が関係していることが多いのだ。

「何かいい案が思いつきそうか?」

 ハムスケは息を切らす俺に他人事のように尋ねる。

「それを今から考えるんじゃないか。とりあえず一旦戻ろう、もう疲れた」

 俺はそう言って事務所に向かって歩き出す。

「帰りにパフェ買って」

「イチゴで良いか?」

「オッケー」

 俺は疲れて思考回路が上手く回っていないようだ。

 ハムスターってパフェ食ったっけ?

 そう疑問に思ったのは、コンビニのレジで購入した後のことで、もう手遅れだった。



「あ~あ疲れた」

 俺は事務所に戻るとソファーに崩れ落ちる。

「若いもんがだらしない」

 ハムスケは早速パフェを頬張っている。

「お前は冊子の中を見てきた以外、俺の肩に乗ってただけなんだから条件が違う。それにお前の方が若い」

 俺はソファーに崩れた体勢から、ストロベリーのシロップで口周りを真っ赤に染める、中々にバイオレンスな神様を眺めながら答える。

「それで、肝心の解決はどうするんだ?」

「ぶっちゃけ、池内さんの奥様が何にお金を使っているかは分かったから、依頼人さんに説明して、警察に連絡して終わりにしたい気持ちもあるけど……」

「けど?」

「今の状態で警察に連絡しても、まともに取り合ってくれるかどうか……それと、真剣に悩んでいる人を食い物にするようなやり口は気に食わない」

 俺は疲れてはいても、その思いだけは抱いたままだった。

 池内さんだけではなく、あの場にいた女性たちは、皆精神的に切羽詰まっている人達なのだ。

 詐欺やら胡散臭い宗教やらは、そういった焦りにつけこむ。

「とりあえず連絡だな」

 俺はそう言って、携帯を手にした。


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