家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?

DANDY

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第九章

勝ち続ける馬 2

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 やって来ました競馬場。例の無敗の馬、ライジングサンが走るレースは今から30分後。俺達もとりあえず客席の方に足を運ぶ。

 周りには、馬券を握りしめた熱いおっさんたちが奇声を発している。

「まるで動物園みたいだな」そうハムスケに話を振るが、返事がない。どこに行った? さっきまで一緒にいたのに。

 そう思い周りを見渡すと、馬券を握って騒ぐおっさんたちの中に、見覚えのあるハムスターがいた気がしたが、見なかったことにした。

 そうして時間が経過し、例の馬、ライジングサンがいよいよ発馬機にスタンバっている。

 全身を覆う漆黒の毛並みは実に見事なもので、全身から王者の風格が放たれている。

 俺がライジングサンに見惚れていると、合図が響き渡り、レースが始まる。

 結果は、最初から分かってしまった。スタートからライジングサンが突っ走り、そのままリードを広げ切ったままゴール。正直面白くもなんともない。

「圧倒的ではないか」

 俺はいつの間にか帰ってきていたハムスケに感想を求める。

「ちきしょう!」

 ハムスケは馬券をくしゃくしゃに握りつぶし、悔し涙を浮かべている。

「どうした? なんで泣いてるんだ?」

「ほら、ライジングサンって強いだろ? だからあえての大穴狙いに行ったら玉砕だよ」

 なんてバカなハムスターなのだろうか。結果が分かっている賭け事で負けてやがる。

「バカ。ライジングサンがずっと負けなしだから調査依頼が来たんじゃないか! そのライジングサンが負ける方に賭けるとか、正気か?」

「面目ねえ」

 しくしく泣くハムスケを見て、今度からコイツにギャンブル禁止令を出そうと強く誓った。

「それよりも、俺より競馬を見慣れているお前の目にはどう映った?」

 なんでハムスターが、人間である俺より競馬慣れしているのかは謎だが、事実なのだから仕方がない。

「特別おかしな点は無いように見えたけどな~それでも一つだけ妙に思ったのは、ライジングサンの騎手の人、鞭を打つ回数が極端に少なかったな」

「え、そうか? 結構振ってたと思うけど」

「あれは見せ鞭だ。本当に打っているのは、振った回数の一割ほどにも届かないだろう」

 俺は素直に感心してしまった。ライジングサンの騎手にではなく、見せ鞭なんていう専門的なことを知っていたハムスケに対してだが……

「鞭を打つ回数が少ないとどうなんだ?」

 俺は素人感丸出しで質問する。

「鞭で打たれると、スピードを上げる馬が多い。しかし、逆に走るのをやめてしまう馬もいるから一概には言えないが……ライジングサンの前の騎手の映像が見たいな」

 今回は、まるでハムスケがメインで探偵業をしているみたいだ。

「じゃあ一度戻るか」

「そうだな。お前のパソコンで入会は済ませてある」

「なんの入会だよ」

「競馬の過去映像が見れるサービスさ!」

 ハムスケは決め顔でそう告げる。

 ちょっとカッコよく見えた自分の目玉を抉り出したい気分だが、今回はハムスケの競馬知識に大分助けられているのは事実だった。



 事務所に戻った俺達は、ビール片手に過去のライジングサンが出馬したレースを全て見尽くした。

 収穫はあった。というより今との差異ぐらいでしか、推理の仕様がない。過去のレースを見て思ったことは、ライジングサンは昔からそこそこ強い馬だったということだった。

 そしてハムスケが気にしていた、前の騎手の時の映像も見たが、結構ライジングサンを鞭で叩いていた。その時の順位も悪くないが、今ほど圧倒的な成績ではない。

「う~ん……鞭で叩いた時にスピードが上がる時と、下がるときがあるということは、結構タイミングが大事ってことか」

 俺は、なけなしの競馬知識を振り絞って考える。

「今回の鍵はライジングサンではなく、騎手の方と見たぜ!」

 ハムスケは得意げに胸を張る。

 癪だが、ハムスケの言う通りだ。競走馬とはいえ生き物だ。突然走るスピードそのものが急速に上がるとは考えにくい。そうなってくると、残る要因は騎手の方だろう。

「次の調査対象は騎手の富田さんに決定だな」

 ライジングサンの騎手こと、富田さん。今度は彼の、ライジングサン以前のレース結果を追うことにした。





 目が覚めると、どうやら俺はソファーで寝ていたらしい。気になってテーブルの上のハムスケを見ると、いまだに富田さんの過去のレースを見ていた。

 これも仕事なのだから、最後までしっかり見なければいけないのだが、なにせレースの量がライジングサンとは桁違いだ。

 富岡さんはかなりのベテランで、そのレース数も当然多い。

「それでどうだったんだよ結果は」

 俺は完全にハムスケに頼りきりだ。たまには良いだろ?

「……上手い」

 ハムスケはそう一言だけ呟いた。

「そんな雰囲気を出して答えるほど上手いのか!」

「上手い、上手いが、やっぱり今ほどの強さは無いな。単純にライジングサンとの相性が良いだけなのか、それとも別の要因か?」

「ちょっと見せてくれ」

 このままでは、出来る探偵ポジションをハムスケに取られそうなので、俺も仕事に復帰する。

 ライジングサンに乗り始めてからのレースと、その前の馬に乗っていた時のレースを見比べると、ある違和感に気が付いた。

「なあハムスケ。昔と今だと、富田騎手のレース後の様子や、インタビューの表情が別人みたいに違うんだけどどう思う?」

「なに! そこまでは見てなかった!」

 前言撤回。ハムスケに出来る探偵ポジションは無理そうだ。今回はただ単純に競馬のレースが好きなだけで、レースが終わったら次のレースに切り替えてやがった。

 まったく……レース前後の様子から推理するのが探偵だろうに。

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