家のハムスターの態度がでかすぎるけど、なんだかんだと助けてくれるからしょうがない?

DANDY

文字の大きさ
上 下
1 / 49
第一章

ハムスター襲来!?

しおりを挟む
「やっぱりこの広さで一人は寂しいな」俺は一人呟いた。呟いた場所は、自宅兼事務所となっている柊探偵事務所だ。

 まあ探偵事務所といっても、皆さんが想像しているようなバイオレンスな依頼などほとんどなく、実際には迷子のペットを探して欲しいだの、ご近所トラブルの仲裁だの、挙句の果てにはただのお悩み相談だったりと……ここを探偵事務所として使っている人などほとんどいないのが現状だ。

 そして俺が、この柊探偵事務所を一人で切り盛りする 柊 和人。まだ20歳そこそこだが、亡くなった父の事務所を引き継いだかたちだ。父の時から依頼内容が偏っていたのは知ってはいたが、ここまでとは思わなかった。

 ちなみに俺が独り言をこぼしたのは一階の客間で、俺の生活スペースは二階にある。そこで冒頭の呟きに戻るのだが、俺は現在この自宅兼事務所に一人暮らしだ。恋人でもいれば良かったが、生憎と今までいたことがない。ルックスにはそこそこ自信があるのだがなんでだろう? 
 とにかく一人でいるのも寂しいのでペットでも飼うかと思い立ったのがさっきだ。

 問題は何を飼うかだ。犬や猫を飼おうかとも思ったが、値段も張るしなにより世話が大変だ。それに結構長生きするから軽い気持ちで飼うべきではないと思う。水槽で魚を飼うのも良いが、あまりペット感がしないのだ(あくまで個人の感想です)そうして導き出された結論がハムスターだ。

 ハムスターは平均的に2~3年が寿命と言われていて、価格もリーズナブル。世話もそこまで大変ではないにも関わらず、ちゃんとペット感を享受できる。

 俺は決意を固めペットショップへと向かった。俺が住むこの町は、都会の喧騒とは少しだけ距離を置きつつも、そこまで田舎ではない絶妙な位置にある。しかも小さい町ながら、徒歩圏内に生活に必要なものが全て揃っているという住みやすさが抜群に良いところだ。

 空には薄い雲が伸びていて、昼間にも関わらず若干の薄暗さを感じる。歩道と車道の間に立ち並ぶ街路樹は、その葉を黄色やら茶色やらに染めてヒラヒラと辺りに漂わし、秋の訪れを知らせてくれる。

 そうして歩き続けること15分、最寄りのペットショップの自動ドアを潜り、迷わずハムスターコーナーへ。ケージの中を眺めていると、ケージ内に設置されているオブジェクトのてっぺんに乗った、偉そうなハムスターが目に留まった。俺は気づいたらそのハムスターを指差していた。

「すいません。コイツで……」

「わかりました。この子ですね」

 店員さんは、ニコニコしながら俺が選んだハムスターを移動用のケージに入れ替えて俺に渡す。俺はハムスターを受け取るとそそくさと店を後にした。

 家に着いてケージに入っているハムスターをまじまじと眺めると、ハムスターは俺の目をしっかりと見つめ返してきた。なんて可愛いんだ…………いやいやおかしくない? こんなにじっくり人の顔をジロジロ見つめる小動物なんているか?

「いつまでこんなところに閉じ込めておくつもりだ? 若造」

 え? 今喋った? 誰が? コイツが?

「そんなわけないよね?」

「現実を受け入れるのも大事だぞ?」

 俺の独り言だったはずのものが会話に変換されてしまった。いや、でも……ないないきっと疲れてるんだって、そうに違いない。けど……

「お前今喋った?」

 俺は自分でもどうかと思うが、念のための確認としてハムスターに問いかけた。答えなど期待していない。というより答えが無い方が助かる。主に精神衛生上の問題で。

「耳が遠いのか? さっきから喋っているだろ?」

 期待していない答えが帰ってきてしまった。だがこう何度も聞こえるものが幻聴のはずもなく、どうやら認めざるをえないようだ。ついさっき買ったハムスターが喋りだしたということに……

「わかった悪かった。なかなか信じられない案件だったものでつい」

「まあそう気にするな。お前は早いほうだって、ペットショップの店員なんて受け入れるのに一週間かかったからな~」

 そりゃそうだよな。普通そんなに早く受け入れられるわけがない……ん? 今店員って言ったか?

「ちょっと待ってくれ、じゃああの店員はお前が喋れると分かってて俺に売ったのか?」

「そうなるな。あの店員は心底我を嫌っていたから、売れて清々してるだろうな」

 だから妙にニコニコしてやがったのか。クレームの電話でもいれてやろうかとも考えたがやめた。都合よくその店員さんが出れば良いが、そうじゃなかったら頭がおかしい人決定だ。これからも通うことになるであろう店でヤバい奴扱いはマズイ。

「シンプルな疑問を解きたいのだが」

「良いぞいいぞ言ってみ?」

 ハムスターは腰? に手をあて、偉そうなポーズをとっている。

「なんで喋れるの? もしかして俺が知らないだけでみんな喋れるとか?」

「いやいやそんなわけないでしょ! 動物が喋るわけないじゃん」

 ハムスターはゲラゲラ笑いながら否定してきた。なんだろうすごくむかつく……というよりコイツに言われる筋合いは無いと思うのだが……

「じゃあなんでお前は喋れるんだよ!」

「だって我、神だもん」

 神だもんじゃねえよ! 神ってあの神? コイツが? 寿命2~3年のクセに?

「いやいや神って」

「神だもん!」

「それでゴリ押ししてくんなよ!」

「神だから世話しろ! 可愛がれ!」

 ようはコイツ、神として崇めろじゃなくて普通にペットとして愛でろと言いたいらしい。それにしても態度がでかい。デカすぎる。どっちが上なのかハッキリさせなければーーー

「とりあえずお前が神なのは百歩譲って認めたとして、態度がデカすぎる。これからお世話される奴の態度じゃねえ!」

「良いじゃないか神なんだから」

 コイツ、神って言っとけば何言っても許されると思ってやがるな。

「じゃあ分かった。お前が本当に神様だったらなんかしらの奇跡で俺を手助けしろ!」

「なんで我がそんなことを?」

「良いか? 本来ペットというのは喋らないから良いんだよ。喋らないで、ただそばにいてくれるから皆ペットを飼うんだ。なのにお前喋るじゃん! ペットとしての役割全然果たしてくれないじゃん! だから家賃代わりになにかしろ」

 俺はなにも間違ったことは言っていないと思う。まあ本当にコイツが神様とやらで、奇跡の一つや二つ起こせるならの話しだが……

「わかった……いいだろう。ただし、一日一回だけだ。というより一回しか出来ない」

「回数制限なんてあるのか」

「当たり前だ。それに起こせる奇跡もささやかなものだけだ」

「なんだよ、そのささやかな奇跡って」

「例えば……アイスのアタリとかそんな感じ?」

 しょぼすぎじゃないか? いくらなんでもアイスのアタリは無いぞ。俺も二十歳超えてるし……

「そんな目で我を見るな! 神にだっていろいろあるんだ! それになんでも叶えられるなら、貴様に愛でろなんて頼まんわ!」

 至極当然の返しをされてしまった。確かに、なんでも出来たら俺に頼ることは無いだろうし、なんならペットショップで売られているわけがないのだ。

「分かったよ。とりあえずなんでも良いから、神様の証明としてなんか奇跡起こしてみ?」

 俺は腕組みをしてハムスターに提案した。とりあえずなんでも良いから奇跡を起こしてもらわないと、さすがに喋るってだけでは神様認定は出来ないな。

「出来ない……」

「今なんと?」

「いや~自分の意思じゃ出来ないんだよね~これが! そんな簡単に出来たら、奇跡って言わないじゃん?」

 ハムスター(自称神様)は完璧な開き直りを見せた。ということは、コイツは今のところただの喋るネズミってことか。

 しかしなんだかんだ言っても話しているうちに愛着も湧いてきたし、よく考えたら寂しくてハムスターを飼ったんだから、喋るってむしろ良いんじゃない? という発想の転換をすることで精神を落ち着かせた俺は、再びハムスターに話しかける。

「はぁ……わかったわかったもう諦めたから、これからよろしくな」

「我を頼りにしてくれて良いんだぜ?」

 つくづく思うのだが、コイツのこの自信はどこから湧いてくるのだろう? 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

八奈結び商店街を歩いてみれば

世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい―― 平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編! ========= 大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。 両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。 二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。 5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。

いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経
キャラ文芸
【京都×動物妖怪のお仕事小説!】 「目付け役」――。それは、平時から妖怪が悪さをしないように見張る役目を任された者たちのことである。 しかし、妖狐を専門とする目付け役「狐番」の京都担当は、なんとサボりの常習犯だった!? 京の平和を全力で守ろうとする新米陰陽師の賀茂紬は、ひねくれものの狐番の手を(半ば強引に)借り、今日も動物妖怪たちが引き起こすトラブルを解決するために奔走する! これは京都に潜むもふもふなあやかしたちの物語。 エブリスタにも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...