崩れゆく世界に天秤を

DANDY

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第八章 強襲と逃亡と 3

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「足元気をつけろよ」

 俺は木の根が脈打つ山道を、慎重に歩いていく。登っていく。時折背後を確認しながらちゃんと真姫がついてこれているか確認する。

「分かっているけど……歩きにくい!」

 真姫はそう文句を垂れながらも、一歩ずつ確実に前進する。星の使徒の反応はこの山の頂上とまではいかないが、それでも中腹より高い位置だ。

 登れば登るほど、俺達の行く手を阻む木々は太く立派になっていく。太い物になると、俺の胴体を軽く超えるほどの木も存在する。木の葉は青々と生い茂り、その何重にも重ねられた葉っぱ達は、太陽の光を半分ほどシャットアウトしてしまっている。

「結構歩いたな」

「そうね。でももう近いでしょ?」

 俺達が険しい山道を登り始めてすでに三時間以上が経過していた。もうすっかり日も落ちて、鬱蒼うっそうと生い茂る高さ四メートル級の木々達が支配するこの山は、完全に暗闇が支配していた。

 肩で息をしながら、携帯のライトで辺りを照らしながら慎重に登山を続ける。動物の鳴き声もしなければ水の音もなく、周囲に響くのは、俺達が落ち葉を踏んだ時の音だけだ。

「もうすぐだ」

 俺は携帯に表示された数字を見てそう口にする。

 真姫は答える余裕が無いのか、一度だけ頷くと俺の手を握って歩き出す。真姫と足並みを揃えて前方の茂みを抜けると、そこは大きく開けた空間があった。

 この一帯だけ木が生えていない。広さは学校の運動場程だろうか? 空を見上げれば夜空が燦然さんぜんと輝き、月明かりが大地を照らす。風が一際強く吹き、さっきまでのねばりつくような湿度は吹き飛び、冬の寒さが体を震わせる。

「真姫」

 俺は震えている真姫の肩を抱く。

 寒い。寒すぎる。冬の夜という条件だけでも寒いのに、そんな時間に山の上の方に来ているのだから、寒いに決まっている。

「暮人、あれって……」

 寒さに震えながらも、真姫がこの広がったスペースの中央を指さす。指さした先に目を向けると、そこには今まで見たことが無いほど立派な一本の木がそびえ立っていた。それは木というよりも御神木という表現がしっくりくるような、そんな存在感を放っている。

「反応はあそこからだ」

 俺と真姫は恐る恐る御神木に近寄る。

 見れば見るほど巨大な木だ。昔テレビで屋久島の縄文杉を見たことがあるが、この御神木はその大きさを完全に超えている。一体何年の時が経てばこれほどの大きさに育つのだろう?

「なんでここから反応が?」

「星の使徒もいないし……」

 真姫は首を振って周囲を確認する。見渡せば見渡すほど、この巨大な御神木以外には何もなく、ただただ広い空間が広がっているだけだ。

「なんだ!?」

 俺達が困惑していると、突然御神木が光りだした。青白い光……間違いなく星の使徒が放つ光だ。

「真姫下がれ!」

 俺は真姫の手をとって下がらせるが、もう手遅れだった。

 地面から伸びてきた御神木の根達が、一斉に俺達に絡みつく。そして目の前の空間が揺らぎ始める。

 これは星の使徒の触手か? 空間が揺らぐということは、またどこかに飛ばされるのか?

 伸ばされた触手(根)は俺と真姫を完全に覆いつくすまで伸び続ける。まるで決して逃がさないと言わんばかりに、外界から遮断する。

「真姫! 大丈夫か?」

「私は平気! 暮人は?」

「俺も大丈夫だ。だけどまたどこかに飛ばされるっぽいぞ」

 それ以降真姫からの返事は無かった。もうお互いの声すら届かないほど、触手に捕まった俺達の周囲の空間は揺らいでいる。そのまま青白い光が強くなっていき、耳鳴りが激しくなったタイミングで、俺は体が宙に浮いたように感じた。




「今度はどこだ?」

 体が宙に浮いた後、着地した俺の足の裏の感覚はさっきまでと同じ土の上、眩んだ目をゆっくりと開けて前を見ると、さっきの御神木が鎮座している。上を見上げると、さっきまで俺達を囲っていたのと同じ、青白い光に満たされている。寒くも暑くもない不思議な空間。隣を見れば真姫はしっかりとそこに立っていて、胸をなでおろす。

「一体なんなんだここは」

 下を見れば、そこにあるのは土ではなくやっぱり青白い光の床。周囲には何もない。ただ青白い光が広がっているだけで、どこまであるのかも分からない。どこまでもあるようにも思えるし、すぐそこで行き止まりであるかのようにも思える。俺の頭では整理がつかない。

「謹慎部屋をもっと明るくしたみたい」

 真姫はこんな状況で軽口をたたく。でも彼女の言う通り、確かにあの真っ白い謹慎部屋に似ている。あの部屋の白さをさらに際立たせた感じだ。


「よく来たな」

 突然無限に続くと思えたこの空間に声が響く。聞き覚えのあるその声は、意外にも目の前の御神木から聞こえてきた。

「もしかして……それがお前の本体?」

 俺は御神木に語りかける。

 別に頭がおかしくなったわけではない。俺は確信したのだ。この御神木こそが星の使徒のオリジナルの本体であると。自然にこのサイズの木が生えるとは思えないし、先程俺達を覆っていた木の根も、星の使徒が伸ばす触手そっくりだった。

「ああそうだ。その通りだ。我が子らよ」

「我が子ら?」

 真姫が首をひねる。彼女の気持ちもわかる。急に星の使徒に子供認定されても困る。

「我々は星の意志だ。ならば全ての人類は我が子同然ではないか」

 御神木(星の使徒)は饒舌に語る。なるほどその理論でいくと確かに人類皆兄弟と言える。皮肉なものだ。その兄弟達で星の寿命の削りあいをしているのだから。

「それはいいとして、ここはどこなんだ?」

 俺はとりあえず現状の説明を求めた。
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