空に願うは窓際の姫君

DANDY

文字の大きさ
上 下
38 / 45

第三十八話 神隠し

しおりを挟む

「つまり加藤さんとこのお嬢ちゃんからこのメールが送られてきたと?」

 小林は二人の少年の話を聞いて腕を組む。
 
 正直言ってしまえば事件性を感じられない。
 メールが届いたのはほんの数分前。
 話を聞くところによると、ここに来る途中に何度も電話をかけたが繋がる気配がなく、普段からこういった悪戯は絶対にしないタイプの子であるとのこと。
 どうしたものか……。
 
 小林は数秒間沈黙する。
 メールが一通彼氏の元に届いただけ。
 内容がやや恐ろしくも感じるが、この段階で大事にすることだろうか?
 空神町は小さな町だ。
 一度こういった話が外に出てしまえば噂の伝染は恐ろしいほど早い。
 もしかすればこれが悪戯で、たった一度の過ちでこの町にいずらくなる可能性だってある。
 ここは……。

「分かった。俺も俺で探してみるから、安心しなさい」

 小林の口から出たのは、そんな嘘と欺瞞にあふれた言葉だった。
 警察は何かが起きてからでしか動かない。
 加藤霧子が失踪した確たる証拠もないし、まだいまのところ彼氏にメールを一通送りつけて約三十分間連絡がつかないだけ。
 現段階では事件性が薄いと判断するしかない。
 小林の中での結論はこれだった。
 彼の頭の中には、ましてやこの空神町でそんな事件が起こるはずないという思い込みも多分に含まれていた。

「……わかりました。ご協力ありがとうございます」

 小林の意図を感じ取った二人は静かに席を立つ。
 そのまま交番を後にしてトボトボと歩き出した。
 耳に届くセミの鳴き声がうるさい。

「警察はあてにならない。他に探す手段は……」
「なあ、とりあえず霧子の家に行かないか?」

 焦る義人に清歌が冷静に提案する。
 もしかしたら彼女が最後にどこに行ったか知っているかもしれない。

「……そうだな。そうしよう!」

 義人と清歌は再び走りだす。
 ここから霧子の家は近い。

「なあ清歌」
「うん?」
「霧子の両親にメールの件、伝えた方が良いよな?」

 義人は深刻な顔で清歌にたずねた。
 彼女の両親を心配させるのはあまりよくはないが、彼女がどこに行ったかを聞き出すうえでメールの件は話さない方が不自然だろう。

「言うしかないよ。もしもの時じゃ遅いんだから」

 清歌と義人はそこから一心不乱に走り続けた。
 途中清歌がふらつき、義人だけを先に行かせた。

「すみません!」

 義人が勢いよく定食屋のドアを開けた。
 この時間であればお店が開いているはずだった。
 しかし中はもぬけの殻で、まるで最初からお店なんてなかったかのように空っぽだった。

「どういうことだ?」

 義人は混乱した。
 ここには何度か食べに来たことがある。
 当然のように霧子の両親とも顔見知りだ。
 なのにお店がお店でなくなっている。
 あり得ないことだ。
 つい最近だって、それこそ霧子と恋仲になったタイミングで一度あいさつがてら食事には来ている。
 ここが店でなくなっているなんてありえない!

「どうした義人」

 遅れてやって来た清歌が息を切らしながらたずねた。
 義人が霧子の家の前で固まっているので不審に思ったのだ。

「なあ清歌、霧子の家ってここだよな? ここで定食屋してたよな?」
「何言ってんだ当たり前だろう?」

 清歌はついに義人が、不安のあまりおかしくなってしまったのではないかと疑った。
 義人に無言で手招きされるままに定食屋に入ると、中はもぬけの殻。
 机やイスも無ければ調理器具さえない。
 ありえない!

「どうなってるんだ?」

 二人はあまりの事態にただただ呆然とする。
 理解が追いついていない。
 神様やらなにやらと直接かかわっている清歌でさえ、ついていけていなかった。

「あれ、二人ともどうしたんだい?」

 背後から声がした。
 振り返ると霧子の家のお隣さんだった。
 お隣さんとは言っても、ここから十数メートルは開いているが。

「いや、ここって……」

 義人がもぬけの殻となった霧子の家を指さすと、お隣のおばさんは首を傾げた。

「ここなんてずっと”何年も”空き家じゃない。あまり変ないたずらしちゃだめよ?」

 おばさんはそれだけ言い残して去っていく。
 方角的に家に帰る途中のようだった。
 しかし信じられないことを言っていた。
 何年も空き家?
 ここが? 霧子の家が? 何を言っているんだ?

「どう思う?」
「もう一度あの警察に聞いてみよう」

 義人はそう言って走り出す。
 ついさっき霧子の話をした時、霧子を認識している様子だった。
 警察に聞いて、この家の場所についての記録を教えてもらえればなんとか……。

「まって!」

 清歌は足ががくがくになりながらも、霧子の身を案じて走りだした。



「加藤霧子? 定食屋? 一体何を言っているんだ君たちは?」

 二人そろって再び交番を訪れると、ついさっき対応したはずの小林の記憶から加藤霧子という人物の記憶が消え去っていた。
 メールを見せても悪戯は他所でやれの一点張り。
 駄々をこねて住所を調べてもらったが、霧子の家の住所は長年使用履歴がなかった。
 本当に霧子だけではなくて、彼女の両親ごといなくなってしまった。
 人々の記憶にも残っていない。
 なんで自分たちは憶えているのか分からないが、こうなるといよいよ行き先がなくなってしまう。
 このせまい田舎町では、霧子がいつも通うような店なんて存在しない。
 義人が必死にクラスメイトにメールを送ってはいるが、返信内容はどれも似たり寄ったりで”誰それ”という答えばかり。
 霧子を探す手掛かりが次々と消えていく中、清歌の頭の中に最後の頼みの綱が浮かぶ。
 霧子を認識していて、超常現象に詳しい人物。

「義人、綾音さんのところに行くしかない!」

 清歌は義人の手を引いて走りだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二人目の夫ができるので

杉本凪咲
恋愛
辺境伯令嬢に生を受けた私は、公爵家の彼と結婚をした。 しかし彼は私を裏切り、他の女性と関係を持つ。 完全に愛が無くなった私は……

甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜

泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ × 島内亮介28歳 営業部のエース ******************  繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。  亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。  会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。  彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。  ずっと眠れないと打ち明けた奈月に  「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。  「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」  そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後…… ******************  クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^) 他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

超エリートコンサルタントは隠れて女子中学生制服スカートを穿いていた

進撃の制服スカート
ファンタジー
30歳で経営コンサルタントに転身した、ごく普通の男性「恵夢」。 しかし彼にはちょっとした秘密がある。 それは女子中学生の制服スカートを穿いているということ!!! 何故超エリートの人生を歩む勝ち組の彼が女子中学生の制服スカートを穿くようになったのか? 全ての元凶は彼の中学時代、同級生の女の子たちが彼に見せつけるかのようなスカートの遊び方であった。 制服スカートには夏用と冬用があるが、恵夢が強い怒りと執念を抱いたのが夏用制服スカート。 太陽の光の下を歩く女子中学生の制服スカートが透けて、くっきりと黒い影で見える足にエロさを感じ、 自分もこの制服スカートを穿きたい!!下着をつけずノーパンでこの制服スカートの感触を味わいたい! そんな強い思いから、いつしかそれが生きる活力となり、エネルギーとなり 女子中学生の制服スカートがきっかけで超エリートコンサルタントへの道を切り開く物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

翠名と椎名の恋路(恋にゲームに小説に花盛り)

jun( ̄▽ ̄)ノ
青春
 中2でFカップって妹こと佐藤翠名(すいな)と、中3でDカップって姉こと佐藤椎名(しいな)に、翠名の同級生でゲーマーな田中望(のぞみ)、そして望の友人で直球型男子の燃得(もえる)の4人が織り成す「恋」に「ゲーム」に「小説」そして「ホットなエロ」の協奏曲

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

処理中です...