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好きになる理由なんて、人それぞれ

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「俺がファーラを初めて見たのは去年のアイラの誕生日なんだ。あの日のファーラは勇敢で凛としていて、思わず目を奪われた」

 去年の王女様の誕生日って、何かあったっけ? 確かあの日は……。

「意地悪軍団が寄ってたかってクズみたいなことをしていた日ですね」

 それを見たイヴォルフ様が眉間にシワを寄せたのよ。推しにそんな顔をさせるなんて許せない……。
 って、おぉっと! 思わず口が悪くなってしまった。イヴォルフ様も驚いて……ないわね。

「あの時、俺も気がついてはいたんだ。だが、令嬢同士のことに男が絡むと拗れるから見て見ぬふりをした」
「それが正解だと思いますよ」

 イヴォルフ様がかばおうものなら、見えないところでもっと虐められたでしょうし。嫉妬って怖いもの。

「そんな時、ファーラが来てその令嬢を逃がしたんだ。自分が捕まることになるって分かってただろ? 知り合いでも何でもない相手にそんなことできる人は、男女関係なく滅多にいない」
「……あの、何で知り合いじゃないって知ってるんですか?」
「その時の令嬢……シフォン・ドゥレ嬢に直接確認したからな。ついでに虐めてた側の家も調査した」
 
 当たり前のようにイヴォルフ様はそう言うけれど、一月見ていただけでも分かる。イヴォルフ様の忙しさは異様だ。
 それなのに、なぜ……。
 
「私、あの時やり過ぎたんです。これは報復されるな……って思っていたのに、何も起きなかった。もしかして、イヴォルフ様が?」
 
 イヴォルフ様は答える代わりに私の手を取ると、右の手に唇を落とす。
 その状態のまま、上目遣いで見上げられ、私の心臓は爆発するんじゃないかと思うほどに大きく脈を打つ。
 
「投げつけられるグラスをキャッチしたかと思ったら、ファーラ自らそれを割って手から血を流した姿は衝撃的だった。傷にならずに済んで良かった」
 
 そう言って、イヴォルフ様は右手を撫でる。

 イヴォルフ様の言うとおり、確かに私はシャンパンの入ったグラスを投げつけられた。だが、そうなるように煽ったのは私だ。
 そして、投げつけられたグラスで自らの手を傷つけてから叫んだのだ。注目を浴びるように。

 あの時の演技はなかなかだったと思う。誰が見ても集団で私をイジメ、怪我をさせたように見えたはずだ。
 あまりにも思い通りにいったものだから、笑いそうになるのを堪えていたら涙まで出てきたのよね。
 
 まさか、一部始終を見られていたとは……。

 
「……あれのどこが良かったんですか?」
 
 いや、本当に。勇敢とか、凛としているとか、全く当てはまらない。私は気にくわない相手をめただけだ。
 
「普通は、見て見ぬふりをする。それなのに助けに入った。しかも、相手を懲らしめるところまで。惚れない方がおかしいだろ?」
「普通は惚れませんよ」
 
 納得いかなそうな顔をされても困る。私だって、まさかあの時に好きになってもらえたなんて信じられないのだから。
 
「でも、あの時の私が好きなら、今の私は好きになれないんじゃないですか?」
 
 鼻血出したり、倒れたりと全く強そうじゃない。イメージした私とかけ離れているはずだ。
 
「そんなことはない。あれからずっとパーティーで見かける度に遠くからファーラを見ていた。婚約してからは近くで。ファーラはいつも面白かった」
 
 ん? 面白かった?
 
「いつでも俺を、周りを笑顔にしてくれた。本当は少しずつ距離を縮めようと思っていたのにエンバルまでファーラに興味を持つし……」
「イヴォルフ様をからかおうとしただけなんじゃ……」
 
 イヴォルフ様は例えそれでも堪えられなかったと言った。
 それにしても、どこで人を好きになるのかなんて分からないものだ。それでも今が幸せなのだからいいのだろう。
 
「イヴォルフ様、ずっとずーっと一緒にいてくださいね」
 
 そう言って笑いかければ、食べられてしまうのではないかと思うほど深い口付けが待っていた。
 
 一瞬、あの時の私を知っているのであれば、か弱くないことも知っているのでは? と疑問が浮かんだが、それもすぐにイヴォルフ様から与えられる快楽で溶けていったのであった。
 
 
 ──END──
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