3 / 4
初めて知る気持ち
しおりを挟む驚きで顔をあげれば、にこりと笑われる。
「さぁ、私と行こうか」
「えっ? いえ、大丈夫です。ちょっと待っ……」
優雅にエスコートをされているのに、全く敵わない。行きたくないのに、連れていかれてしまう。
「イヴォルフさ──」
「ファーラ!!」
大きな声で呼ばれて振り向けば、少し離れたところから私を呼ぶイヴォルフ様が見える。
パーティーであんなに大きな声を出しては品がないと言われてしまうのに、どうして……。
「おや、ファーラ嬢の番犬のお出ましだ。思ったよりも早かったな」
そう言いながら、私の肩を抱いてくる。どかそうとしても力が強くて離れてくれない。
「離してください」
「まぁまぁ。ほら、イヴォルフの顔見てみなよ」
うん? すごい怖い顔だ。私が婚約者としてきちんと振る舞えてないからだよね……。
「婚約者、失格ですね」
「そうだね。可愛い婚約者を一人にするなんて、婚約者として失格だね」
「えっ?」
「ん?」
「失格なのは私の方ですよ」
そう言った瞬間、何故か変な顔をされた。
「イヴォルフのやつ……」
呆れたような声の意味が分からない。
「あの、離してください」
「そうだ。ファーラは俺の婚約者だ」
ぐいっ、と引っ張られて私はイヴォルフ様の胸のなかにすっぽりと収まってしまう。ドキドキするけれど、どこか落ち着く柑橘系の香りに包まれる。
「イヴォルフさぁ、婚約者を置いて他の女についていくとか何考えてるの? それに、おまえの気持ち、ちゃんと伝わってないよ」
それだけ言うと、エンバル様は去っていってしまった。
「ファーラ、俺の気持ちは伝わってなかったのか?」
「きちんと伝わっていますよ」
王女様がお好きなことくらい分かっている。態々言われたくない。
「一人にして悪かった。帰ろう」
「えっ? でも、まだ……」
「もう用事は済んだからいいんだ」
膝裏に手を差し込まれ、ふわりという浮遊感のあと、私はお姫様抱っこをされていた。
「あ、歩けます。下ろしてください」
「駄目だ。ファーラがいかに俺に愛されているのかを見せつけて、悪い虫が寄り付かないようにしないとな」
「……えっ?」
愛されているのか? 一体何を……。
馬車へと戻ると、イヴォルフ様が私に淡い紫の宝石を見せてくれた。
「この宝石が隣国でしか手に入らなくてな。俺の手で手に入れたかったのだが、どうしてもできなくてアイラに頼んだんだ。格好悪くて隠そうとしたのがいけなかった。悪かったな」
「そんな、謝らないでください。それに、イヴォルフ様はいつでもどこでも何をしていても素敵です」
気まずそうに視線を逸らしていたイヴォルフ様は、耳を赤く染めている。その姿があまりにも愛しくて……。
推しとして向けていた感情との違いを誤魔化すのはもう無理なのかもしれない。
「互いの瞳の色の宝石を指輪の内側に入れると、ずっと一緒にいられるらしいんだ」
真剣な海を想わせる瞳に息をのむ。その瞳には、確かに熱が籠っている。
「そんな迷信にすがるなんておかしいだろ?」
「そんなこと!!」
堪えきれず、イヴォルフ様の胸へと自ら飛び込む。
きっと、私たちはお互いに勘違いしてすれ違っていたんだ。
もう、推しだなんて言葉では括れない。
推しとの婚約は、私に本当の恋を……愛を教えてくれた。
「イヴォルフ様、愛しております」
そう伝えれば、顔を真っ赤にしたイヴォルフ様が嬉しそうに笑ってくれた。
「俺もだ。ファーラ、愛している。初めてを見かけた日からずっと」
「えっ? 初めてですか? 私はよくイヴォルフ様を見ていましたけど……」
そこまで言って、慌てて口を閉ざしたが、既にイヴォルフ様の耳には届いていたようで、優しく頬をなでられた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
50
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる