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第2章 領地編1~新たな出会い~
第43話 普通は走らないんだってさ
しおりを挟むうーん。これは魔力をあげれば、答えが分かるやつ? でも、魔力をあげたらオロチを眷属にしちゃったしなぁ。
前科ありの身としては、魔力をあげてみるというのはダメな気がする。
「ねぇ、魔力あげたらまた眷属になっちゃうと思う? やっぱりダメだよね」
「今回はそれでもいいと思うよ」
え? いいの? そう思ってノアをじっと見れば苦笑されてしまった。
「レッドプテラのリーダーに姉さんはなりに来たんでしょ? 1匹くらい会話ができないと不便だよ。
それに魔力をあげてその子を強くすれば、レッドプテラのまとめ役もお願いできる。困った点は、姉さんがどんどん普通の令嬢から遠ざかってることくらいかな」
「私、普通じゃないの?」
そういえば、領地に戻ってからカトリーナに年に1回くらい会うだけだ。普通の令嬢が分からない。
「えっ、普通だと思ってたの?」
驚きを隠せないという視線を浴びて、私はそっと視線をそらした。知ってるよ、普通の令嬢は魔術は使えないし、眷属もいないってことくらい。
「確かにちょっと特殊な自覚はある」
「あー、良かった。姉さんが普通なら世の中の令嬢はみんな特殊だよ。普通は走り回ったり、魔物に近付こうとしないから」
「嘘でしょ……。走りもしないの?」
それって、運動不足なんじゃ……。あぁ、でもダンスや乗馬は運動になるか。
「姉さん、その返しが既にずれてるから」
「えー!」
何でよ! どこがよ! 不服だけど、これが前世との感覚の差なんだろうか。
……うん。でも、ノアが言うなら間違いないよね。ノアこそがこの世の正義だし。
「姉さんがまた変なこと考えてる気がするんだけど。
……まぁ、いいか。どうする? 眷属にするつもりで魔力あげてみる?」
うーん。悩ましい。しっかり考えたいのに、なんかまだ一匹はキギャキギャと殺気が剥き出しで鬱陶しいし。何で一匹だけあんなに敵意を見せてくるんだか。
理由を知るにも、通訳が必要なんだよね。
「失うものより、得られることの方が多いもんね……」
失うのは、私のなけなしの普通くらいだ。このままじゃ魔物使いにでもなってしまいそう。
まさか、国家反逆を企ててるとか思われない……よね?
「ねぇ、ノア。眷属を増やすと危険人物扱いされないかな? 国を追われたり、無い罪をかぶせられて殺されたりしない? それでスコルピウス家が滅ぼされたりとか……」
私が無実の罪で裁かれる可能性だって十分にある。そんな漫画を読んだことあるもんね。確か時間が逆行する、ざまぁものだった気がする。
実際に私がそうなった場合は、転生に加えて逆行かぁ。まぁ、そんなことは起こらないだろうから待ってるのは死のみだ。それも私だけじゃない。家族全員の。
「姉さん。そんなこと僕がさせると思う?」
ゆらり、とノアの瞳に朱が混じる。にこりと微笑んでるのに何だか怖い。
けど、そんなノアもいい! 好き!! じゃなくて、何で魔力が揺らいでるの?
「スコルピウス家がその気になれば、王家なんて簡単に潰せるよ。僕たちが代わりに王家になるのなんていつでもできる。だけど、そんなことはしない。何でだと思う?」
「国が混乱するから?」
「半分アタリで、半分ハズレ」
半分ハズレ? 国民のためってことかな? それなら混乱に含まれるだろうし……。
「姉さんはさ、自分が国を治めることになったらどう思う?」
「えっ、面倒くさい」
自分の自由な時間は減って、責任が増える。国のために生きなくてはいけなくなる。それは、領主と似ているようで違う。
上手く言えないけど、背負うものが違うのだ。他国と渡り合い、自国の貴族をまとめ、時には正し、切り捨てもする。最高責任者なんて気が重すぎる。
「面倒くさい。本当にね。だから、スコルピウス家は反乱を起こさないし、王になることを望まない。そもそも、スコルピウス家は愛に生きる人が多いから。政略結婚なんてできないよ」
「確かに。政略結婚は無理だね」
私の返事にノアはクスリと笑う。
「スコルピウス家は王家よりも魔術があるから力は強い。けど、反乱はしないし、玉座も狙わない。
王家がスコルピウス家に害をもたらさない限りは、国を想っている限りは、王家の味方をする。むかーしからの約束ごとだよ。だから、安心して姉さんの好きにするといいよ」
ノアの言葉に頷く。
「レッドプテラを、この子を眷属にしてみる」
私はレッドプテラへと近づく。まずは、意思を確認しなくては。嫌だと思う子を眷属にはしたくない。
「眷属になって、私のことを助けてくれないかな?」
キギャー! とどこか嬉しそうにレッドプテラが鳴いた。
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