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第1章 王都編

第2話 前世の夢

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 意識を手放した後は、夢の中で前世の自分を見た。
 
 たくさんのシーンが浮かび上がる中、乙女ゲーム『どの星よりも輝く君へ☆~君は僕のお姫様~』(通称:ほしきみ☆)の悪役令嬢が修道院に送られ、その弟が廃人と化しているシーンを見たとき、悲鳴をあげながら目を覚ました。
 
 その姉弟は大きくなった私とノアだったのだ。
 
 それは6歳の私が耐えられる内容ではなく、目を覚ました後は三日三晩熱を出して寝込んでしまった。
 ショックで寝込んではしまったが、自身が今アリアとして生きていることには何の抵抗も違和感もなかった。
 むしろ、前世の記憶の方が他人事のようにすら感じられたのだから、不思議なものである。 
  
 熱が下がった翌日も安静のために休むよう両親に言われたのを幸いに思い、ベッドに潜る。
 3日間、トイレ以外ベッドから下りておらず、食事も食べさせてもらっていた。体は拭いてもらってたけど、きっとお風呂に入っていないから臭いんだろうなぁ……と思いながらも、思い出した記憶に整理を始めた。 
  
 
 まず、ここは本当に『ほしきみ☆』の世界なのかということだが──。
 
 
 シュテルンビルトは、確かどこかの国の星座という言葉で、そこに出てくる公爵家と侯爵家の名は星座に由来するもので構成されている。ヒロインが攻略対象者達と出会う学園『アマ・デトワール』は星屑ほしくずという意味をもつ。
 国の名前も、学園の名前も、王太子の名前も、それに登場する私の名前も弟の名前も他の侯爵家以上の名前も全部一緒だった。
 
 
 ゲーム内での設定とこの国の婚約事情も一緒で、婚約は男女のいずれかがシュテルンビルトで成人とされる18歳を越えるまではできないことになっている。
 そのためなのか、相手の女性が成人していても、ほとんどの貴族の男性は18歳まで婚約者候補がいる状態で過ごすことが多い。そして、学園を卒業すると同時に婚約する者が大半だ。
 貴族の子息・子女はアマ・デトワール学園で過ごし、婚約者を探したり、あわよくば王族との婚約を結びたいと考える者も多い。
 
 そこまで一緒のため、ここはほしきみ☆の世界と同じ、あるいは似た世界観をもつ場所であることで多分間違いないだろう。
 
 
 そして、何よりも大事なことは私が悪役令嬢であるかということだ。
 記憶の中のほしきみ☆のアリアは、美しいブロンドの髪に少しつり上がったパッチリ二重の目、この国では珍しい弟のノアと同じ黄金の瞳を持った気の強そうな令嬢だ。
 今はまだ幼いけれど、その特徴は私と全く同じ。ヒロインのライバルで、さそり座のスコルピウスの家名を持つ悪役令嬢そのものである。
 
 まさか、本当に転生が存在するなんて……。
 よりにもよって、悪役令嬢だなんて酷すぎる。
 
 
 
 ほしきみ☆は前世でヒットした乙女ゲームだった。
 普段は乙女ゲームに興味も示さない私だが、友達に語り合いたいからやるように押し付けられたのがきっかけで始めたのだ。
 
 どうせ暇だし……と始めたのだが、内容の面白さにはまってしまった。
 ただ一つ大きな問題があって、攻略キャラ達が言う甘ったるいセリフを聞くのが苦手だった。甘いセリフを聞くたびに鳥肌が止まらなかったのだが、もともとラノベが好きだった、甘いセリフも何故か文字なら大丈夫な私にとってはそれを我慢してでも見たいと思えるほど好みの内容だったのである。だから、内容もけっこう覚えているはずだ。
 
 ほしきみ☆は子爵家のヒロインが王太子やイケメンの貴族達と学園生活を通して交流するなかで互いに引かれ合い、身分差やライバル令嬢に負けずに愛を深めた末に結ばれるというシンデレラストーリーの王道物と呼ばれていた。
 
 何故シンデレラストーリーかというと、この世界には貴族の階級があり、偉い人順で並べると王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となるのだ。
 例外で魔術師は平民だろうと王族の次に偉くなるのだが、ヒロインはこれには当てはまらない。
 
 攻略キャラは全員が十二星座の家名を持つ侯爵以上で、現実では子爵家の令嬢がどんなに思いを寄せようと結ばれるのが非常に難しい、ほぼ無理と言える相手ばかり。しかし、そこはゲーム。数々の試練を乗り越えて結ばれるのである。
 ここまでは、よくある乙女ゲームと一緒らしい。
 
 
 ほしきみ☆の何が良かったのかと言うと、攻略対象ごとにライバルとなる令嬢が変わることだ。それにより、ストーリーもバリエーション豊かだった。
 
 攻略対象は7人で、ライバル令嬢が5人出てくるのだが、こんなにライバルに力を入れているのは珍しかった。
 
 王道の意地悪な悪役令嬢や、対象キャラの気を引くのが上手いぶりっ子令嬢、フェロモンがすごいセクシーなお色気令嬢、裏表が激しく取り扱い注意な猫かぶり令嬢、年下のかわいい妹系令嬢が出てくる。
 
 攻略対象者によっては、ライバルが出てこなかったり、ライバルの一人と仲良くならないとハッピーエンドを向かえられないものもあった。
 
 後味が悪いことが少ないのもこのゲームの特徴で、ルートによってエンドも変わるのだが、ライバル令嬢が国外追放や修道院に送られることはあるものの死んでしまうことはほぼなく、中にはいつの間にかライバル令嬢と友情が芽生えることもある。
 きっと、婚約者候補ではあるものの婚約者ではなかったために友情が芽生えたりすることも可能だったのだろう。
 実際、婚約者候補以外と婚約することもこの世界ではよく聞く話だ。
 
 
 後味が悪いものは少ないが、当然後味が悪いものもある。それは教師である侯爵と、レオナルド・シュテルンビルト王子を攻略する場合だ。
 
 そして、レオナルド・シュテルンビルト王子ルートでは婚約者候補の私アリア・スコルピウスが出て来てヒロインに数々の嫌がらせを行うのである。
 
 
 
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