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第2章 領地編1~新たな出会い~
第31話 どっぷりと、はまっていたらしい ジンside
しおりを挟む「ジンってさ、姉さんのことどう思ってんの?」
その質問に俺は、どう答えればいいのだろうか。
「優しいと思ってる。あと、何かがおかしい」
きっと欲しい答えはこれではないのだろう。だけど、どう思ってるのかなんて、答えられるわけがない。
「それは、知ってる。好きだ、とかないの?」
「好きだけど? もちろん、ノアのことも」
これで誤魔化されてくれないかな……、なんて思ってもノアの追求は止まらない。
そもそも、アリアは俺が好きになって良い相手じゃないのに、意味ありげなことを言ってきたりして何がしたいんだよ……。
「僕は、恋愛感情がないのかって聞いてるんだけど。誤魔化さないでくれる?」
「……勘弁してくれ。いくら俺も貴族だからって、本来なら話すこともないような身分差だぞ。
それなのに、名前で呼ばせてもらえて、普通に話させてくれる。それ以上の何を望むんだよ」
そうだ。これ以上を望むなんて不毛だ。いくら団子を頬張る姿が可愛かったからって、フォクス領を懸命に守ろうとする姿が眩しかったからって、惹かれてはいけない。
俺には高嶺の花過ぎる。
それなのに、ノアは一体何を企んでるんだか。
「もっと望めばいいじゃん。姉さんは今、婚約者候補だっていないよ。それに、うちは天下のスコルピウス家だ。今更、政略結婚なんかする必要もない。全ては、姉さんの気持ち次第だ」
「……何でそれを俺に?」
「そんなのジンを応援しているからに決まってる」
「はぁ?」
何を言ってるんだ? 俺は子爵家の四男で家督も継げなければ、裕福な領地でもない。いくら政略結婚をする必要がないからって、スコルピウス家にメリットがなさ過ぎる。
そりゃ、フォクス領は独自の文化があって目新しいだろうし、どこよりも良いところだって俺は思ってるけど……。それが世間の評価とイコールって訳じゃない。
「僕……というかスコルピウス家の考えだと思ってもらいたいんだけど、貴族だからって幸せになれるわけじゃないと思うんだよね。特に姉さんは」
「確かに。アリアの性格だと社交界とか大変そうだな」
「そうなんだよね。真っ直ぐなのは良いところだけど、社交界ってある種の魔物の巣窟だから。本物の魔物の方が力で制しやすいからマシだよね」
「いや、普通は魔物を制するなんてできないからな」
ノアの方が常識人っぽい雰囲気だけど、やっぱり根本はアリアと似てるんだよな。どうも力で何とかしようという節がある。
呆れながら言えば、不満そうな顔をするところまで似ている。
ノアは大人びてる……というか多分アリアの世話を焼いてたらしっかりしたんだろうけど、もう少し子どもらしくしたらいいのにな。って、俺も子どもなんだけどさ。
「ノアはさ、本当にアリアのことが好きだよな。それなのに、ずっと一緒にいたいとか言わないんだな」
「言いたいに決まってる! でも、それがいけないのも分かってる。それならせめて、少しでも会いに行きやすい距離の人と一緒になって欲しい」
なるほど、そういうことか。ノアの本音が年相応で微笑ましい。
思わず頭を撫でれば、嫌そうな顔で手を叩かれた。
「とにかく、僕は姉さんとジンを応援してるからね!」
そう言うと、ノアは部屋から出ていってしまった。
「とっくに、手遅れになるくらい惹かれてるっつーの」
遠くなる背中を見ながら、ノアには言わなかった本音が溢れる。
あんなに蓋をしようとしていた気持ちをこじ開けてくれるとは……。
「もしフラれたら、暫く引きずって立ち直れないんだろうな」
暫くどころか一生引きずるかもしれない、とまで思ってしまう自分がおかしくて笑ってしまう。どうやら、惹かれるどころではなく、どっぷりとはまってしまっていたようだ。
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