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第2章 領地編1~新たな出会い~

第13話 ご利益は金運なのに

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「じゃあ、オロチが今までフォクス領を魔物から守ってたの?」
『そういことだ』
「ご利益は金運なのに?」
『例え残りの神聖力が少なくとも、魔物を寄せ付けないくらいの力はある』
 
 私には神聖力というものはよく分からない。だが、本人がそう言うのだから、そうなのだろう。
 ご利益は金運のはずだけど……。
 
「じゃあ、これからフォクス領はどうなるの?」
『われの神聖力が祠に残っている間は無事だろうな』
あいだはって……」

 ジンを見るが、特に表情に変化はない。この少年は今、何を考えているのだろうか。

「代々、覚悟はしていました。俺たちはこれからここを離れることになると思います」
『そうか。行くあてはあるのか?』
「そのために少しずつ領外とも交流を深めてきましたから」
「じゃあ、何でそんなにのんびりしてるの!?」
「のんびりじゃない。最後の時間を皆、楽しんでるんだ」
「────っ!!」

 なんで。何でそう言って笑えるの? 最後の時間なら、私たちといる場合じゃないじゃん。何でよ……。

 何で! と言葉が今にも口から飛び出しそうになるのをどうにか堪える。辛いのは私じゃない。フォクス領の人たちだ。
 私にできることは、解決策を考えること……。

 ってあるじゃん。解決策。でも、私にできるだろうか。
 それに、確認しないと。

「この領に魔術を使える人はいる? いなければ、神聖力でも大丈夫かも」
「魔術はいるはずだ。神聖力は親父と兄貴が感じられるけど、何かできるわけじゃない。ただ、何となく分かるだけらしい」

 なるほど。じゃあ、何かあった時に神聖力でカバーはできないのか。

「試しに、私の魔力で結界を作ってみてもいい?」
「けっ……かい……?」
「そう。神聖力の代わりに今度は私の魔力で魔物を跳ね返すの」
「どのくらいの範囲ができるんだ?」

 どのくらい……。分からないけど、それでも──。

「全部だよ。全部やる。ただ、はじめてだから上手くいくかは分かんない。時間が経ったら、結界にほころびが出る可能性もある」
「それで魔術が使える人が必要なのか……」

 そう。いざという時に綻びを修復できる人が必要なのだ。もちろん何かあれば駆けつけたいけど、家からフォクス領まで来るのには時間がかかる。
 その間にフォクス領は魔物にやられてしまうだろう。

「修復できるほどの魔力があるのかは分からないが、魔力が強い人も何人かはいると思う。呼んでくればいいか?」
「ううん。今日は一先ひとまず帰ろうと思うの。準備してこないと」

 本当はすぐにでも取りかかりたい。でも、私は結界魔術を知らない。帰って、教えてもらわないと。
 それに、もしも自分でどうにかできなかった時のためにお父様にも話さないとだ。

「ねぇ、オロチ。神聖力ってどのくらいもつの?」
『4~5日だ。だが、他の領地へ向かう道を考えたら2日ふつかだな』
「2日……」

 やっぱり短い。だけど、そうは言ってられない。絶対にどうにかしてみせる! できる、できないじゃない。やるんだ! 弱気になっちゃダメだ!!

「ジン。私ね、スコルピウス家の娘なんだ。
 だから、きっと大丈夫。スコルピウス家は魔術で爵位をもらった家紋だからね。大船に乗ったつもりでいてよ。どうしてもダメだったら、お父様にも頼むから」

 本当は、家紋を名乗るつもりなんてなかった。
 だけど、フォクス領の人に安心してもらえるなら話した方がいい。例え、ジンに距離をとられたとしても──。

「スコルピウス家って、公爵家だよな……」
「うん」
「へぇ。うわさ通りだな」
「うわさ?」
「スコルピウス家の長女は、女神のように美しい少女だって言われてんだよ。
 隣の領とはいえ、交流がなかったこんな田舎まで届く噂だ。知らない人はいないんじゃないか?」

 何それ!? 誰よ、そんな変なうわさを流したのは!! 恥ずかしすぎて、つらい。

「そのうわさに、もう1つ付け加えないとだな。女神のように美しいだけじゃなく、優しさに満ちているって。まぁ、食い意地がはってるけどな」
「なっ! 何よそれ!!」

 ずるい。そんな顔で笑うなんて。

 ドキドキといつもより早く鳴る胸の音に罪悪感がつのる。
 こんな時に不謹慎ふきんしんだ。早くおさまって……。

「……明日は朝から来るね。ジンは、領主様に話しておいてくれる?」
「あぁ。魔術が上手い人と魔力が多い人にも集合かけとく」
「ありがとう。お願いね」
「礼を言うのはこっちの方だ。ありがとう」
「そのお礼は成功した時にまでとっておいて」


 私はジンと別れて、家へと向かう。日が傾きはじめているから急がないと日が落ちるまで家に帰れなくなっちゃう。

「オロチ。速度あげるよ!」

 真後ろを走るオロチへと声をかけてスピードをあげる。

 行きとは違い、帰りは一度も魔物に会わなかったことも、オロチに抱っこしてもらって飛んで帰れば早いことも、この時の私は気が付かないのであった。

 
 
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