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第2章 領地編1~新たな出会い~

第3話 フォクス領ってどんなとこ?

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 まずは書斎という名の図書館でフォクス領と稲について調べるが、出てこない。正確に言うと、フォクス領自体は地図に載っている。だが、詳細は不明。
 稲についてはどの植物図鑑にも載っていない。お米について調べる時に植物図鑑は散々見たのでこちらは確認程度で済ます。

「こんなに情報がないなんてね」

 やっぱり一度見に行くしかない。今から行くか、明日にするか……。
 うん。今から! と言いたいところだけど、何があってもいいように準備をしよう。何せ、フォクス領は他の領地と違い、情報がないのだから。
 それに、馬を連れていくのは無理そう。山をいくつも越えるとなると馬には休憩が必要になるから、日帰りにしたいなら一人で行くべきだ。

 そうと決まれば、自分の部屋に戻ろう。

 スコルピウス領の自室は王都の屋敷に比べて本当にシンプルだ。木目調の家具に、新緑のカーテン。アイボリーの壁紙にはドライフラワーを吊るしてある。
 自然をイメージした落ち着いた部屋は、私の大のお気に入りだ。

 そんな癒し部屋へ戻り、持っているなかで1番大きなリュックを出す。公爵令嬢なのにリュック? というツッコミは野暮である。基本的に領地へ散策に行くときはいつもリュックを愛用しているからね。
 
 そんな愛用のリュックに携帯用の食料、小型ナイフ、ランプ、筆記用具、メモ帳など思い付くままに詰めていく。お弁当と水筒もあとでコックのコックルにお願いしなくては。
 一通り必要なものを詰め終えた私は、ホーマからわけてもらったお米を手に調理場へと向かう。お米を鍋で炊いて、ついでにお弁当と水筒のことも伝えよう。


「コックラー、お鍋貸して!」
「お嬢、今日は何をしでかしにきたんスカ?」
「何をしでかしにきたとか、失礼の極みなんですけどっ!!」

 なんて失礼なコックだ。ほんのちょっとコンロの火力を強くして火柱を立ててボヤ騒ぎになったり、忍術訓練として調理場の天井にくっついてたらコックラが腰を抜かしたり、毒草を調理場のすり鉢借りて潰したりしかしてないのに!!

「今日は料理をしに来たんですー」
「料理スカ? ささ、どうぞどうぞ!! 何作るんスカ? 手伝うッスよ」
「手のひら返しすぎじゃない!?」
「正直者と言って欲しいッス」

 目をキラキラ輝かしているコックラ。だが、私の持ってきたものを見た瞬間、苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何その顔?」
「それ馬のエサじゃないっスカ……」
「お米はおいしい!」
「おいしいって言われてもって感じッス」
「とりあえず、すり鉢とすりこぎ貸して」
「ヒイッッッ」

 以前、毒草をすり潰したら胞子が舞ってしまい、身体中がしびれた経験をしたことがあるコックラは顔色を変えた。

「いやッス。あんなつばも飲み込めなくなる経験、2度としたくないッス」
「すぐ解毒したじゃん」
「その前に自然治癒力をあげる魔術をかけられて悪化させられたこと、忘れてないッスよ」
「もう3年も前でしょ? あれから解毒の魔術も覚えたし大丈夫だから。それに、これに毒はないよ」
「絶対にッスカ?」
「絶対に」

 言い切れば、渋々すり鉢とすりこぎを貸してくれた。
 ごりごりと擦ればもみがらが取れてくる。擦ったものをふぅーっと優しく吹けば、もみがらだけが飛んで行った。これを繰り返せば、玄米の完成だ。

「お嬢。確かに今回は大きな被害はなかったッス。でも、床がゴミだらけなんスけど」
「それはあとで片付けるから。それより、玄米を水に浸けよう。6時間は浸けたいからね」

 うきうきと準備をしながら前世を思い出す。田舎暮らしで良かったとしみじみ思う。おじいとおばあたちは本当に物知りで、もみがらの取り方から鍋でのお米の炊き方まで何でも教えてくれた。
 精米は根気が必要なうえに、売ってるようなキレイなお米にはならないんだよね。まぁ、そのうちやるけど今じゃない。というか、そんなに今日は時間がない。だから、今日は玄米だ。玄米も美味しいよね!

 さて、フォクス領について本に載ってないなら、人に聞かないと。屋敷や領地のみんなから情報収集しておかなくちゃ。

 6時間の間に情報収集をする段取りを立てた私は、とりあえずコックラに聞いてみることにした。
 


 
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