40 / 99
第1章 王都編
エピローグ
しおりを挟む領地に帰る時がやって来た。王家からも無事に婚約者候補辞退を了承する旨が書かれた手紙も来たし、王都に思い残すことはない。
いや、カトリーナとリカルドのことはちょっと気になるけども。
「アリア!」
「リカルド様!? どうしてここに?」
「ノアに聞いた。んで、オレも行く」
ん? 今、なんて? オレも行くってどこに?
「えっと、どちらへ行かれるんですか?」
「オレもスコルピウス領に行く。オレ、魔術が上手くなりたいんだ!」
「えぇっ!?」
「心配するな。父上と公爵からは許可をもらったからな! 1年だけだけど」
聞いてないんだけど……。そう思ってお父様を見れば、大量の荷物を抱えている。
「お父様、どういうことですか?」
「そういうことだ。面倒を見るかわりに、俺も1年は一緒にいられるぞ!」
あぁ、買収されたのか。リカルドに1年魔術を教えるかわりに自分も帰れるってなったら、お父様の選択肢は『はい』か『イエス』の2択に違いない。
正直なところレオナルドの件もあるし、あまり王家と仲良くしたくない気持ちはあるけど、仕方あるまい。間違っても、今度はリカルドの婚約者候補になることはないだろうし。
……それにしても、なんでお父様が率先して荷物を運んでいるのだろう。使用人の仕事をとるのは、駄目なことだと教わってきたのだけど。
「なんで、お父様が荷物を運んでいるんですか?」
「身体強化をして、らくらく荷物を運ぶのが楽しいからだ!」
その言葉に自分が重たい荷物をひょいっと簡単に持ち上げて運ぶ姿を想像した。
「私もやりたいです!!」
そう言って駆け出そうとして、リカルドを放置したままだったことを思い出す。
「リカルド様はどうされますか?」
「……オレが自分で運ぶのか?」
「えぇ、そうです。私は身体強化をして一気にたくさんの荷物をバーーンって運びたいのでやりますが」
「オレはまだ身体強化ができない」
「そうでしたか。では、馬車でお待ちください」
「えっ、ちょっと待っ……」
少しでも早く荷物運びをしたくて、最後までリカルドの言葉を聞かずに馬車から飛び降りる。
そして、身体強化をするとお父様とどちらがたくさん持てるか勝負をしながら次々と積んでいく。ノアも加わって楽しさ100万倍だ。
みんなでやれば……というか魔術を使えば早く終わるのは当然で予定より早く出発することになった。
出発はしたが、暫くは王都を走るため見慣れた街並みが続く。
「はぁ……。早く馬車と走りたいなぁ」
「王都から少し離れればできるわ。明日には走れるわよ」
「やった! 楽しみです!!」
ということは、明日には王都から離れるのか。カトリーナには手紙を出してきたし、あとはスコルピウス領までの旅を楽しむだけだ。
うきうきしながら鼻歌を歌い、馬車の窓を開ける。ガタガタと騒がしい音が後ろから聞こえてきた。
「何、あれ?」
みんなも音がよく聞こえていたのだろう。視線が馬車へと集まっている。
「王家の馬車だ……」
「えっ!?」
リカルドの言葉に目を疑った。だって、王家のものとは思えない簡素な見た目の馬車なのだ。
「お忍び用のやつか」
「まさか、あれが王家のだなんて誰も思わないものねぇ」
「ねぇ、もっと急ごうよ。ぼく、王家の人と会いたくない」
「オレも王家なんだけど」
「リカルドは別。でも、他はいやだ」
なんてみんなが話しているうちに馬車はすぐ後ろにいた。
「仕方ない、でるか」
そう言って馬車を止めるようお父様が指示を出せば、後ろの馬車も停止した。そして、中からは──。
「兄上!」
レオナルドが出てきた。お忍びだからなのか平民風の服を着ているが、生地が良いうえに顔面が良すぎて色々と隠せていない。
「リカルド。良かった、間に合って。……元気で。無理しないようにね。待ってるから。スコルピウス公爵、リカルドのことをよろしくお願いします」
そう言ってレオナルドは頭を下げた。そして、チラリと私の方に視線を向けると困ったように笑う。
「アリア。……いや、スコルピウス嬢。貴女のおかげでリカルドはまた昔のように笑ってくれるようになった。本当にありがとう」
「いえ、父と母がやってくれましたから。私は何もしておりません」
「そんなことない。アリアがいてくれたから今があるんだ」
そう言ったレオナルドの表情はお兄ちゃんの顔だ。
「道中、気をつけて」
「ありがとうございます」
レオナルドは婚約者候補辞退のことにふれなかった。そして、またリカルドと話している。
少しするとリカルドが戻ってきた。その表情は穏やかだ。私たちはレオナルドと別れ、スコルピウス領へと再び走り始めた。
揺れる馬車のなか、リカルドの手には手紙が握られている。
「これ、アリアにだって」
渡された手紙を開き、何度も何度も読んだ。だが、いくら目を通しとも内容が変わることはない。
「やられた……」
その手紙には私は婚約者候補からは抜けたものの、候補第1位は空白にしておく旨が書かれていたのだった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
第一章の王都編はこれにて完結です。
明日より領地編が始まります!
もし、感想を頂けたら、とっても嬉しいです!
1
お気に入りに追加
1,163
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる