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第1章 王都編

第25話 お茶の子サイサイ朝飯前だよ

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 すごい。元に戻った。ティーカップもお皿もお花もテーブルも椅子も……全部、ぜーんぶ、形状や位置を記憶している魔道具だったんだ。
 
 そして、そんなすっかり元に戻ったお茶会の会場を見ながら私がしたことは現実逃避だった。 
 王族に強烈なビンタをお見舞いしてしまったから、もう朝日は拝めないかもしれない。明日の今頃には、頭と体がさようならしている可能性が……。
 
 
「アリアちゃん」
「お母様……」
 
 隣にやってきたお母様を見上げる。髪が少し乱れているが、怪我はないようで安心した。それと同時に罪を問われたら私だけのとがになるようにしなければ、と強く決意する。
 
「お母様、ごめんなさい。予定通りにできないどころか、王族を敵にまわしました」
「そんなことは、気にしなくていいわ。大丈夫よ。……アリアちゃん、言いたいことがあるのでしょう? いってきなさい。大丈夫だから」
「ですが既にやらかしてますし、これ以上は……」
「大丈夫よ、絶対に。まぁ、もし万が一ダメなら逃げましょう。アリアちゃんなら馬車よりも早く私を抱えて走れるでしょう?」
 
 確かに身体強化をすればそれくらい余裕でできる。お茶の子サイサイ、朝飯前あさめしまえだ。
 それでも、もしもを想像してしまい立ち尽くしていれば、大丈夫と安心させるようにお母様は繰り返し、背中を強く押してくれた。
 その勢いのまま私は王妃様、レオナルド、リカルドのところへと行く。
 
「……あのっ!」
 
 私の声にいち早く反応した王妃様は、立ち上がるとこちらを向いた。そして、深々と頭を下げたのである。
 
「リカルドの暴走を止めてくれたこと、感謝致します。ありがとうございました」
「やっ、やめてください! 怒られることはあっても、お礼を言われることなんてありませんから。
 いくら暴走を止めたかったからといって、暴力はいけませんでした」
 
 うん。暴力はよくなかったよ。赤くなった頬が痛そうだもの。とりあえず、治療をしないと。今日までに覚えられた魔術の中に治癒力を高めるものがあったから、それでいけるはず。
 
「リカルド様、申し訳ありませんでした」
 
 目の前にしゃがめば、リカルドは肩を揺らした。私が怖いのだろう。だが、逃げられては治療ができない。 
 リカルドの頬に手をあてて、心の中で『自然治癒力増強』と唱える。すると、赤く腫れていた頬は元の白くて柔らかそうな頬になった。
 
無詠唱むえいしょう!?」
 
 王妃様とレオナルドに驚きの表情で見られるが、ノアやセバスだってできる。
 ただ、呪文を口にした方がらくなんだって。なんでも、イメージの足りない部分を補えるとかで、呪文を使うと魔術が安定するんだとか。
 
 私は呪文をきちんと思い出せなかったり、言うのに必死になっちゃって失敗することが増えるから、心のなかでイメージを唱えてる。
 それを口に出しても上手くいかないから、呪文にはきちんとした根拠があるみたい。私にはよく分からないけど。
 
 
 とりあえず、怪我も治したし本題に入ろう。既に不敬だけどとがめられていないから大丈夫ということで。
 だけど、ここでは目立ちすぎる……か。王妃様にも色々と言いたかったけれど、とりあえずリカルドの話を聞こうかな。レオナルドとも約束をしたしね。
 
 
「リカルド様と二人きりで話がしたいのですが、いいでしょうか?」
「部屋の外に見張りをおかせてもらってもいいかしら? それでも良ければ案内をさせるわ」
 
 相手に簡単に危害を加えられる程の魔力を持った相手と自分の息子を二人きりにする。それだけでも断られておかしくない。加えて、リカルドは王族。無茶な願いだったかもしれない、と思ったが想像以上にあっさりと許可が出た。見張りがつくのなんて当然だし、わざわざ聞いてくれるところに王妃様の人のよさを感じる。
 
「もちろん、大丈夫です。お願いします」
「えっ、オレ嫌だ!」
 
 拒否されたが、残念ながらリカルドの意見は聞いていない。
 
「だったら、僕も──」
「約束、お忘れですか?」
 
 一緒に行く、と言いたかったのだろうが、そちらから振ってきた話だ。忘れたとは言わせない。笑みを深めれば、レオナルドの顔が明らかに引きつった。
 これは、嫌われたかな? ということは、婚約者候補の辞退がしやすくなっているかも。やったね! ノアと私の幸せに一歩近付いた!!
 
 
 ルンルン気分の私と、嫌そうなリカルド様を案内するために護衛の騎士が来てくれた。だが、私にはその前にやることがある。
 
「リカルド様、騎士様、5分間お待ちくださいますか? 大事な話をイザベラさんとしなくてはなりません」
 
 怯えた表情でこちらを見ていたイザベラへと微笑みかける。逃がすものか。我が家への侮辱ぶじょく、忘れてないからね。きっちりと訂正させて頂こうじゃないの。
 
 
 
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